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11-4




 クロウからいくつかの報告があった後、エレノアがクロウを引っ張って退室したのでリズとゼフィールは二人きりになることができた。と言っても、もちろん見張りが居るので正確には3人になるが。


 もう二人の触れ合いを咎める者はいない。

 リズはゼフィールの膝の上に横座りして彼の首筋に顔を埋めた。その心地良さにうっとりと目を閉じていると、腰に回っていたゼフィールの手がリズの背を這う。


「リズの体は細いな・・・」


 華奢さが気になったのだろうか、独り言のようにぽつりと漏らすゼフィール。


「ふくよかな方がよろしいですか?」

「いいや、リズならば細くてもふくよかでも可愛い」

「まあ・・・」


 可愛いと言われた嬉しさにリズが首筋にスリスリと擦り寄れば、ゼフィールはお返しとばかりに強く抱き返す。遠慮なんてない。自分の心の内も相手の心の内も知り尽くした今、触れ合うことを躊躇する理由なんてどこにもなかった。

 今まで耐えていた分も取り返さんばかりに触れたい場所へ触れる。一緒に居られる時間は限られているため、この一分一秒を大事にしながら。


 リズは身を起こすとゼフィールに向かい合うように座り直し、彼の顔を両手で挟んで覗き込んだ。以前は怖くて直視することもできなかった顔とプラチナブルーの瞳をじっと見つめる。


 溶けてしまいそうなほど視線が熱い。


「綺麗なお色ですね・・・」


 リズはほぅっと感嘆のため息を吐きながら言う。


「リズは俺の目が気に入ったと言っていたな」

「覚えていらっしゃるんですか?」


 確かに昨日クロウの前で打ち明けたけれど、そんなに細かいところまで覚えているとは思わずリズは頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。

 ゼフィールは少し口角を上げてリズの可愛らしい鼻に自分のものを当てながら頷く。


「もちろん。一語一句忘れるものか」

「なんだか気恥ずかしいです」

「俺は嬉しい」


 自分の気持ちを包み隠さず明かすのは羞恥心を掻き立てられたが、自分への想いをリズの口から直接聞くことができて胸がいっぱいになった。リズの話は決して心躍るものばかりではなかったけれど、その苦しみや葛藤も全て受け入れるようにゼフィールはリズを胸の中へ抱く。


「驚きましたか?」

「驚きは・・・なかったかな。手紙で全て聞いていたからな」

「あ、そうですよね」


 そもそも自分の気持ちは筒抜けだったな、とリズは文通で駄々洩れだったことを思い出した。


「じゃあ驚いたのは私ばっかりではありませんか。ずるいです」


 一番驚いたのは仮面パーティーで会った時にゼフィールは一目でリズの正体に気付いていたということだ。リズは知らずに身を任せてしまったが、ゼフィールは誰だか分かった上で好意を持ったのだと知って驚いたし悶えるくらい嬉しかった。


 リズはが「ずるい」と言いながらも嬉しそうに彼の鼻先に軽いキスをすると、途端にゼフィールの表情は緩んで締まりのない顔になった。可愛いキスのお返しに今度は彼女の唇へと直接軽く口付ける。

 ところがただの軽い口付けも一度始まってしまっては止まらない。二人は部屋には他に人が居るというのにお構いなしで、唇を重ねては見つめ合い鼻先を擦り合わせて、また唇を重ねる。リズは堪らずゼフィールの首にしがみつくと再び首筋に顔を埋めて熱いため息を吐いた。


「ハァ・・・、ごめんなさい、頭がぼーっとして・・・」

「いや、無理はしていないか?」


 気持ちが通じ合っているとはいえど、昨日の今日だ。性急すぎただろうかと訊ねるゼフィールに、リズは小さく首を横に振る。


「いいえ、陛下こそ・・・ご無理なさっていませんか?

私、本来なら喪に服さなくてはならないのに、平気でこんなことをして・・・。幻滅されても仕方ないくらいです」

「幻滅などするものか」


 リズがどれだけの覚悟を持ってジェイスを殺め、深く傷ついていることか。

 リズはゼフィールとは違う、今はまだ全てを幸福で満たされているわけではない。ただ目の前にある目も眩むような幸せに痛いものから目を背けて浸っているだけ。ジェイスを失った喪失感はまだ少しも癒えていないだろう。


 心配なのか顔を覗き込んでくるゼフィールに、リズは僅かに小首を傾げる。


「そうですか?私は少しびっくりしています。自分はこんなことができる人だったんだ・・・なんて薄情なのって」

「例えリズが殺人鬼でも俺の気持ちは変わらない。実際に夢の中で何度も殺されたが何も変わらなかっただろう?」

「まあ・・・私が陛下を殺すなんてあり得ません」

「俺はリズになら殺されても嬉しい」


 それは冗談なのか本気なのか。

 リズは困ったように笑ってゼフィールの首に回していた腕に力を込めた。


「駄目ですよ、私より長生きしてくださると約束してくださったでしょう?」

「ああ、そうだな・・・頑張らねば」

「はい」


 リズはゼフィールを見上げて頬へキスをすると、ゼフィールが下を向いてリズと視線が交わる。


「もう一度口付けてもいいだろうか」

「聞かないでください。私はもう陛下のものです」

「嫌われたくないんだ」

「あり得ません」


 リズは笑って身を起こすと、自分からゼフィールへ唇を重ねた。






















 半ば無理やり部屋から退室させられたクロウは不服そうに口を開いた。


「まだ予定が詰まっているのですが・・・」

「いいじゃない、今日くらい。少しは気を利かせてあげなさいよ」

「はあ」


 エレノアの言葉にクロウは失礼なくらいに大きなため息を吐くが、もちろんエレノアはちっとも気にせず上機嫌でにこにこしながら言う。


「それにしてもクロウさんったらよく二人の結婚を認めたわね。あんなに反対してたのに」


 最後まで反対するものだと思っていたエレノアは何よりもまずそのことに驚いた。クロウならば立場的に賛成できないだろう、と。


 クロウは再びため息を吐き出すと答え始める。


「別に、反対する理由がなくなったからですよ。最善だと思う選択をしたってそれが正しいかは未来でなければわかりませんから。後はもう・・・本人たちの覚悟次第でしょう?」


 今まで反対し続けていたのはリズがそこまでできる人だとは思っていなかったからだ。しかし彼女は誰に言われるでもなく自分で考えて自分で行動した。大切なものを切り捨ててまでゼフィールを守ろうとした。


 国を背負うということは時には残酷な選択を迫られることがある。ゼフィールのために自分を殺し、大切な人を殺められる強さがあるのならば、もうクロウに反対する理由は無い。


「今後も色々あるとは思いますが・・・あの様子ならきっと大丈夫でしょう」

「そうね。頼んだわよ」


 これから大変なのはむしろクロウの方かもしれない。ほくそ笑むエレノアにクロウはげっそりとした様子で口を開いた。


「わかってますよ」

「私の友人のために頑張ってね、旦那様」

「・・・」


 とんだとばっちりを食らってしまったクロウは、更にげっそりとした様子。


「・・・わかってますよ、もう」


 文句が出るのも仕方ない。


 エレノアはクロウの腕を引っ張ると、今度はわかりやすくケラケラと笑った。





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