転生したらパワー全振りで無双するぜ!(一発ネタ)
思い付きなので続きは全然考えてないですが、また思いついたら書くかもです。
「畜生、自炊ってのはやはり面倒だな」
気の早いセミの鳴き声を聞きながら、俺はちゃぶ台の上のカップラーメンを前にし、ふぅと息を吐く。
俺の名は桂木怜音。東都大学の一年生だ。実家は北州にあるため、現在は東都で一人暮らしをしている。大学に入ってから一人暮らしを始めたほかの大学生同様に、俺は実家で毎日食事が出てくるありがたみを実感せずに生きてきた。しかし、いざ自炊するとなると、その手間はあまりにも膨大であった。米を炊くには研がねばならぬ。野菜を煮るには切らねばならぬ。そして、食事の後には食器を洗わねばならぬ。それらの手間に対して白旗を上げるのは時間の問題であった。それまで悲壮な戦いを行っていた時とは打って変わって、白旗を上げてからの食生活は手抜きそのものとなった。朝はシリアル。昼は大学で学食を喰らい、夜はカップラーメンやコンビニ弁当を買って帰るようになった。当然、体にはよくないはずだが、明日こそは、明日こそは白旗を撤回しようと思いながら毎日を過ごしている。最近では健康のためにクリーム何とかブランとやらを朝食にすることを考えている。
とはいえ平日は学食である程度栄養をとれているのに対し、今日のような何もない休日は三食自分で用意する必要がある。いいや、今日に関しては昼まで寝ていたので二食であるか。いずれにせよ、今週末を生き延びるためには策を打たねばならぬ。6月も下旬に入り俺が編み出した策は「友人召喚」であった。
俺には唯一無二の友人であるところの只野がいる。(もちろんこれは当たり前のことであるのだが、他にも友人は当然ながらいる。大事なことなのでもう一度言うが、友人が他にいないわけではない)彼とは某音楽系サークルの新歓で出会い、意気投合することとなった。結局俺はサークルには入らなかったが、彼はそのサークルに入っているため、予定が合うかどうかは彼のサークル次第ということになる。だが、土曜日は基本的に空いているとのことなので、俺の召喚に応じてくれる、というわけであった。
スマホを見ると只野からの返信が来ている。カップラーメンにお湯を入れてから連絡したのに、完成する前に返してくるとはなんとも律儀な奴だ。
「わりい、デートなう」
俺は見なかったことにした。
まあ、そんなわけで目の前の諸君、俺の独り言に付き合っていただけたら、幸いに思う。
◆
俺は世にいうガリ勉君であった。ガリ〇リ君ではない。あんなに口は大きくないし、坊主頭でもない。ゆえに、勉強以外のことはてんでダメであった。特に体育の授業は、こんな言葉は使いたくないが、まさしくトラウマであった。思い出すだけでも恥ずかしさのあまり体中をかきむしりたくなってしまう。そして、恋愛についてもそうであった。高校時代に週一回は会話した笹原さんには結局告白できずじまいであり、大学に入ってから見つけた彼女のSNSには男に取ってもらったと思われるカフェでの写真が映っていた。
只野はその外見といい、はっちゃけた言動といい、モテる要素は皆無に見えた。そして俺も何か彼にシンパシーに近いものを感じており、それゆえ俺の友人たることを許されていた。しかし、それもどうやら終わりのようだ。彼とは今後一定の距離を置くこととしよう。そのほうが彼と、彼の彼女さんにとっても幸せであろう。
ともあれ、俺にとって今は最低限の栄養を取ることが肝要であることに気づく。もうとっくにカップラーメンは出来上がっているであろう。俺はいつもより少し乱暴な手つきでその蓋を開けた。
途端、目の前にもくもくと幸せな湯気が立ち上る。カップラーメンを作る際に一番好きな瞬間だ。
もくもく、もくもく。良い香りだ。もくもく。もくもく。
いや待てよ。ちょっと煙が多すぎやしないか。部屋の中が真っ白だ。そんなカップラーメン、聞いたことがない。中腰の姿勢で周りを見回すと。
「開けるのが遅いわーーー!!!」
「ひ、ひぇ!」
突如響く怒声に俺は思わず腰を抜かす。なにが起きたのだ。目の前を見るとそこには白い着物を着た老人が立っていた。俺は不法侵入を許した覚えはない。意識がふっと遠のくのを感じた。
◆
「…きろ!起きるのじゃ!」
なんだ、気持ちよく寝ていたのに。俺は首をぶんぶんと振って目を覚まし、そこでこの場所が俺の部屋でないことに気づいた。そして目の前にはさっきの老人。俺は思わず声を上げる。
「あっ、さっきの爺さんじゃないか!お前は誰だ!ここはどこだ!俺は誰だ!」
「ふむ、初対面の人に質問攻めとはなかなか良い度胸をしておるな。それに最後の質問はおぬしが一番よく知っておろう。怜音よ。」
「ぐぬぬ」
「さて、唯一の友人に振られて失意のうちにカップラーメンを貪ろうとしていたところ申し訳ない。前々からおぬしに用があってな、このカップラーメンの中に潜ませてもらった。」
しれっとわけのわからないことを言い出す。カップラーメンの中に潜むってどういうことだ。お前はカップラーメンの精か。
「ほっほっほ、カップラーメンの精とは言いえて妙、そう思ってくれても構わぬ。」
「いやいや、心の中読むなよ!それに、『そう思ってくれても構わぬ』ってことは、本当は違うのか?」
「いいや、わしはカップラーメンの精じゃよ。鳥ラーメンから出てきたチキンちゃんだピヨ!(裏声)」
「適当なこと言うな!」
俺のツッコミが冴えわたるなか、自称カップラーメンの精はへらへらしながら続ける。
「さて、わしがどのような形でおぬしの前に現れるかはどうでもよい。わしはこの三次元空間に決まった形を持っているわけではないからな。例えば、おぬしが告白できなかった幼馴染の女の子とその彼氏がトラックにひかれそうになっているところを『きみがどんなに離れて行っても、俺が最後に助ける相手はきみじゃなきゃダメなんだ』な~んてくっさいセリフ吐きながら突き飛ばして死んで天界に来て神様であるわしに出会う、みたいなテイで出会うことも可能であったわけじゃ。」
「は、はぁ。」
「だが、おぬしも痛いのは嫌いじゃろ?それに、その女の子は当面トラックにひかれて死ぬ予定なんてないし、そもそもおぬしはあまり外出せぬから機会の作りようがない。仕っ方ないからわしが頭を回してカップラーメンを通じてこの部屋に時空の歪みを生成し、おぬしに声をかけたというわけじゃ。」
「いや、それなら、あなたは神様なんですか?トラックってどういうことですか?」
あまりのぶっ飛んだ話につい敬語になる。というか、トラック云々の話は巷でよく聞く異世界転生小説みたいなやつか。俺が?
「おぬし、本当に頭が回らないのう。本当に東都大学生か?まあよい、わしは神様でもあり、カップラーメンの精でもある、なんかすごい存在だと思ってもらえばよい。そして、要件はおぬしの考えている通り、異世界転移のご案内じゃ。」
「異世界…転移…。」
「どうじゃ、感無量じゃろ?おぬしもちょうど唯一の友人に振られて自暴自棄になりかけていたところじゃろう。」
「いいんだけど、その唯一ってのやめてくれませんか。」
「ほっほっほ、今となってはどうでもよいことじゃ。転生してしまえば友人なとたくさんできるであろう。」
「いやいやいや」
俺は知っている。異世界転生小説やら転移小説やらに出てくる主人公はみんな元ニートとか言っているくせして、実はコミュ力あります的な、行動力で解決しちゃいます的な、そういう人間だということを。そして、俺がそんな器じゃないことを。しかも最近のやつだと転生する前からエリートでしたとか言っててずるいなんてもんじゃない…って一応俺も東都大学生だからエリートには入るのか?
そんなことを考えているとカップラーメンの精が声をかけてくる。
「異世界転生というワードがすぐ出てきて、具体例も浮かぶ当たりおぬし、なかなかのオタクじゃな?」
「そんなことない!友達に勧められてちょっと読んだことがあるだけです!」
「そうムキになるでない。知っておるだけ話が早いってことで褒めているだけじゃよ。それに、おぬしがコミュ力なんぞで心配しているのは重々承知じゃ。これを使うがよい。ほれ。」
そう言ってカップラーメンの精が一枚の紙を渡してくる。そこに書いてあるのは、
ステータス 合計100になるように振り分けてね
身体能力
マナ適応
知能
器用さ
コミュ力
ルックス
運
ゲームで言うステータス表のようなものか。そしてカップラーメンの精が言う感じからするに、これに自由に振り分けることができる、ということか。
「ちなみに、一般人の平均値はそれぞれ10程度じゃ。つまり合計30高いことになるわけじゃ。なんだか異世界チートっぽいじゃろ?」
なんか口をはさんでくるが、30って微妙にしょっぱいな。チートって言うならもっと合計ステータス増やさせろよ。
「微妙な顔をするでない。そう思うと知っていたから、こっちのほうでおぬしにチート装備もプレゼントしてやろう。どうじゃ、満足か?」
「どうして、俺にそんなに良くしてくれるんですか?」
「どうしてって、そりゃこっちの世界にもメリットがあるからじゃ。」
「そっちの世界?」
「おっと、いかんいかん、口を滑らせるところじゃった。はよう決めるがよい。」
なんだか怪しいが、仕方ない。俺は既にステータスを決めていた。ゲームなどでよく知っている。一番強いのは、極振り。
身体能力 100
マナ適応 0
知能 0
器用さ 0
コミュ力 0
ルックス 0
運 0
どうだ。決定ボタンを押す。
俺は世にいうガリ勉君であった。ゆえに、勉強以外のことはてんでダメであった。特に体育の授業は、こんな言葉は使いたくないが、まさしくトラウマであった。裏返せば、俺が欲しいのは無敵の身体能力。身体能力さえあれば、多少アホでもモテていた。たぶん。
だから、俺はこの能リョクでムソウする。そして、セカイをスクうって、キめた。
「おっと、一つ言い忘れておった。あんまり極端なステータスにすると、良くないぞ。って、もう遅いようじゃの。」
「この様子じゃチート装備も決められるまい。仕方ない、この『叡智の首輪』を授けよう。発動することで、知能その他もろもろのステータスが爆上げする、正真正銘のチート装備じゃ。」
「アリガトう」
「じゃ、がんばってくれたまえよ、転送~」
マワりが、ピカピカ ヒカる。
「うひゃ~~タノし~」
ブゥンッ…
「…そう言えば、『叡智の首輪』はある程度の知能がないと発動できないんじゃった。わしとしたことがドジっ子じゃのう!テヘペロ!」
「まあ、首にしっかり巻き付いて本人の意思以外では取れないようになっているし、本人も力だけは強いから盗まれて悪用されることなんて、暫くはあるまい。」
「とりあえず予備は準備しとかなくてはな…。」
こうして、オレ の ボウケン ハジまる!
つづく?