<氷結の不死氷獣産塔>
初めまして。小説素人の深堂 古月です。此の作品を開いて下さり、有難う御座います。頑張ります。
辺り一面は、熱星の光で青白い。本当は透明なのにな。影響受けてるなぁ……。
私は厚底スリッポンでコツコツと音を鳴らし、歩き続ける。此処に奴は追って来ない。私はヘッドフォンで「青白い惑星」と言う曲を掛ける。全く、此の世界と似ても似付かない。
私の耳だけに届く音楽は、周りに響かない。其れでも、良い。
霧を<吸収瓶 - 霧>が吸収するに連れて、<氷結の不死氷獣産塔>が姿をはっきりと現して来る。<氷結の不死氷獣産塔>。文字通り、氷の塔。此の<氷の惑星>にぴったりの塔だ。
<氷の惑星>。
文字通り、氷に覆われた惑星。他にも<火の惑星><地の惑星><水の惑星><木の惑星><風の惑星><時の惑星><空間の惑星>が在るが、何時何処で誕生したのか、<時の惑星>と<空間の惑星>は<時空間>其の物の一部が抜け、対立した物だとか。と謎だらけな惑星達。
氷の噂に依ると、<火の惑星>では<火の塔>が在るらしい。<炎の塔>は無く、<炎の屋敷>は在る。何故<炎>と<火>は違う建物を造るのだろうか。今度、研究して見るか。
閑話休題。
私は<氷滑>は使わずに、ゆっくりと<氷結の塔>へ向かう。物の十分で、私は<氷結の塔>の目の前に居た。生易しく戸が其処等辺に落ちて居る筈が無い。私は<氷気>で入口を探り当てる。<氷気>の<探索>を使うと、ブワリと波紋が私を中心に広がって行く。
<氷気>とは体内から生み出される特殊な力で有り、<氷の惑星>で生まれた者は<氷気>が使え、<火の惑星>で生まれた者は<火気>が使える。其の<気>を使って、生まれた惑星特有の技を使うのだ。
例えば、<氷滑>は<空間の惑星>で使われる<転移>や<瞬間移動>と似た技だ。<吹雪>は文字通り吹雪を起こす技で有り、使う<氷気>の量や効率に依って何れ程の範囲に使うのか調節出来る。
そして私の今使う<探索>と言う技は、最も一般的で簡単な術で有る。<吹雪>や<氷壁><氷盾>等の一般的に戦闘中に使われる技は、体内で<氷気>を放出する前に呪文で弄るのだ。説明が難しいが、複雑な図の部分を少し変えて、違う技にすると言う事だ。
だが、<探索>は<氷気>を其の儘体内に出し、標的を設定し、自分を中心に波紋で標的を捉えるのだ。迚も便利な技で有る。然し、勿論欠点も有る。
<探索>は力量に依って<隠蔽>に負け、見付けられ無いかも知れないのだ。だから、何の惑星に生まれたかは問わず、皆<探索>を極めるのだ。まあ、私は<探索>と<隠蔽>両方を極めた。此の二つの技はセットと考えた方が良い。
因みに、『技』と『術』の違いは、『技』は惑星特有の技で有り、『術』は全惑星共通の術と言う事だ。
今回の標的、<氷結の不死氷獣産塔の入口>を指名し、異物感を逃さない様に集中する。すると、<氷結の塔>から一〇〇二歩離れた所に、入口が有った。
きっかり一〇〇二歩で入口に着き、解錠の呪文を私の指先に集め、其の指で入口に触れる。カチャリと、鍵が解かれる。私がトンッと入口を指で押すと、ギギギ……と音を立てながら、只の氷面だと思われて居た其処は戸の形を成し、開かれる。地下へと穴を出現させた。此れで、<氷結の不死氷獣産塔>を開門させた事に成る。
私はカツンカツンと足音を響かせながら、<氷結の塔>に存在を示した。此の塔の中では、上下左右、「地」と書かれた面が地で有り、「天井」と書かれた面が天井だ。詰まり、地上から見たら其処は壁でも、其処に「地」と書かれて居たら其処は床なのだ。詰まり、此の塔に入ると重力が色々と反転する。
現に今私が歩いて居る「地」も、地上から見たら「壁」で有る。此処では通路で有っても、地上から見たら落とし穴なので有る。
私が向かうは此の塔の芯と成る所。此の塔の<心臓部屋>だ。何の<◯◯屋敷>や<◯◯塔><◯◯洞窟>(此の様な建物の事を<魔の建物>と呼ぶ)でも、<心臓部屋>が存在する。
<心臓部屋>の話をする前に、<魔の建物>を説明しよう。
<魔の建物>は、惑星の空気に溶け込んで居る其の惑星の<気>が或る一定の場所に溜まる事で出来る物で有る。<魔の建物>は、小さな物から大きな物迄有る。そして、彼等は本当に十人(建物)十色だ。
或る物は獣達の巣に成る為に生まれたり、或る物は温泉を建物内に秘めて居たり。或る物は無人料理店と成ったり、或る物は農業に最適だったり。
だが、其の中にも人類に悪影響を及ぼす物も在る。例えば、空気汚染したり、人々を不死化させる獣を生まれさせたり、氷刃を村に投げ込んだり。
其れ等の事を<魔悪の建物>と呼ぶ。そして、<魔悪の建物>にだけ「氷の」が名称に付く。普通の<魔の建物>は<温泉の塔>や<農業の洞窟>と言う。
此処で心臓部屋の話に成る。
<心臓部屋>とは、其の<魔の建物>の<心臓>が置かれて居る部屋だ。<心臓>は石の形をしており、色は様々。其れに描かれて居る<魔紋>を取ると、其の<魔の建物>は機能しなく成る。詰まり、獣が生まれなく成ったり、空気汚染がされなく成ったりと言う訳だ。
此の<氷結の塔>は不死氷獣を生み出し、外に放出して居る。だから、私が機能を奪いに来た。
少し歩くと、不死氷獣に遭遇した。此の不死氷獣は、猪型だ。ブルブルン、と鼻を鳴らし、殺気が駄々漏れて居る。不死を相手するのに厄介なのが、此の様な<魔悪の建物>から生み出された不死は、普通の生物に戻す事が出来ないと言う事だ。
外で不死と成った物は、<正常化>の術を使えば元の生物に戻る。詰まり、殺さなくて良いと言う訳だ。そして、其れが出来ないと成ると、殺さなくては成らない。此処が厄介なのだ。
不死を殺すには、奴等の首では無く、内臓を全て破裂させ、目に針を立てなければ成らない。まあ、単にグロいし面倒臭い。
だから、こう言う時は成る可く飛翔して戦闘を避けるのだが……相手は戦闘する気満々だ。……仕方無い、ずっと不死として生かすのも可哀想だし、相手をするか。
私は戦闘体制に入る。そして、刹那——
猪型不死氷獣の命は散った。
シャリーンと、柔い氷を切った時の音が、遅れて塔内に響く。内臓は破裂し、目玉には針が刺さって居る。私の手には、針を入れて居た袋が在る。私は素手で内臓を破裂させ、目玉に針を刺したのだ。
成る可く、猪型不死氷獣が苦しまない様に、だなんて意図は無い。……只、早く終わらせたかっただけだ。
◇
十分後、等々<心臓部屋>に到着した。<心臓部屋>は虹色に輝いて居るから直ぐに判る。何故虹色に輝いて居るかと言うと、<魔の建物>が生み出される<気>が抑虹色の輝いて居るからだ。其れの中心は、<気>の塊と言っても過言では無い。
<氷結の不死氷獣産塔>の<心臓>は紫と水色が、混ざり合った色。
「……」
私は無限空間肩掛け鞄から、漆黒の手帳を出す。漆黒の手帳の表紙には、良く解らない、けれどもはっきりと見える色で『神楽』と記されて居た。私の名前だ。
此の手帳に<魔紋>を封印する時だけは、呪文を唱えなければ成らない。
私は真っ新な頁を開き、<心臓>に翳す。
「『<氷結の不死氷獣産塔> 魔紋・封』」
すると、<心臓>の中に有った魔紋が薄っすらと消え、代わりに漆黒の手帳に其の魔紋が印される。焼印の様だ。<心臓>には<封>と書かれた紙が現れる。此れで、<氷結の不死氷獣産塔>はもう機能しない。
頁には、こう書かれて居る。
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<氷結の不死氷獣産塔>
封印日付.三〇一二年 三月八日 十時二十八分
<魔紋>
《達成確認》
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私は頷くと、<氷滑>を使う。
呪文を体全体に広げる。
次の瞬間、<心臓部屋>に私の姿は無かった。