なぜだろう? 涙が出ちゃう。
「イバラちゃん、もっといっぱい食べてね。」
「ありがとうございます。おばあさん。」
ニコッと愛想を振りまくイバラに、暗い陰気臭さは無かった。
「不思議だ? こうしていると黒花が普通の女の子に見える?」
いつもと違うギャップに少し望はイバラを意識する。
「望、イバラちゃんは、おまえと同じで、幼い頃に両親を亡くして苦労してきたそうだ。泣かせる話じゃないか。」
「イバラちゃん、いつでもうちに遊びに来てくれていいのよ。」
「ありがとうございます。おじいさん、おばあさん。」
すっかり祖父も祖母もイバラの苦労話の同情魔法にかかっていた。
「私とイバラちゃんは友達だもんね!」
「と、友達!?」
聞きなれない言葉に戸惑うイバラ。
「私なんかが友達でいいの!?」
「いいのよ! 美杉とイバラちゃんは、誰が何といおうと友達です!」
「ありがとう。美杉ちゃん。」
一人で寂しく生きてきたイバラの心に、今まで知らなかった心の温かさが生まれてくる。
「望お兄ちゃんも、敵意を持っていないで、イバラちゃんと普通に話してみなさいよ。話をして分かり合うことができたら、無駄な戦いをしなくていいじゃない。」
既に美杉はイバラに敵意はなく、昨日の敵と友達になっていた。
「お、おお。よろしくな、黒花。」
妹に促されて望は、初めてイバラと話をしてみようと試みる。
「う・・・・・・。」
望がイバラの顔を見ると、イバラの目から涙が流れていた。
「な、なにー!? 俺が何か傷つけるようなことを言ったか!? まだ俺は何も言ってないぞ!?」
望は女の子を泣かしたことがないので慌てる。
「あれ? おかしいな? 悲しくないのに、涙が流れてくるんです。」
イバラは意識はできないが、体が家族の団欒の幸せを感じていた。
「うおー! イバラちゃん! なんて良い子なんだ!」
美杉ももらい泣きする。
「イバラちゃん! なんならうちの娘にならないか!?」
「でも、ご迷惑ですし。」
「なんの! 部屋は余っている!」
祖父もイバラを気に入った。
「イバラちゃん! 毎日、私がご飯を作ってあげるわよ!」
「そんな!? 食費がかかってしまいます!?」
「大丈夫! 望のご飯を減らせばいいのよ!」
祖母もイバラを気に入った。
「よろしくお願いいたします。」
イバラは深々と頭を下げてお世話になる挨拶をする。
「こちらこそ、よろしく。」
望の家族たちは笑顔でイバラを受け入れた。
「なぜ!? そうなる!?」
望だけが蚊帳の外だった。
「望! 起きなさい!」
いつものように希が寝坊助の望を起こしに望の家にやって来る。
「おはよう。」
「ど、どうして!? あなたがここに!?」
希は、望の家で朝からイバラと出会うのだった。
つづく。