始まりは一本の電話から # 2
「・・・・というわけよ」
サリーナはそうしめくくった。
そして、悩みを口に出せてスッキリしたのか、今まで手をつけていなかった卵サンドイッチを一口食べた。
「ふうん・・・・お母さんには言ったの?」
アロのその言葉を聞いて、サリーナは今日五回目となるため息をついた。
「・・言えるわけないでしょ?だって買い物から帰ってきたら急に娘が『ねえ、お母さんって私に秘密で任務とかやってるの?』って言ったら、どう思うのよ?それにお母さんの名前は『リリー・インプロッシュ』であって、『アリーナ・インプロッシュ』ではないから」
「じゃあ、イタズラ電話とかは?」
アロはさらにおかずをフォークで刺しながら訊いた。
「ないない。だって、あっち側がこっちがふざけてるんじゃないかってブツブツ言ってたし」
「でも、まさか引き受けないよね?」
アロは疑うようにサリーナを見た。
ついでに、おかずを食べた。
「もちろん。その、アリーナって突き返すつもり」
***
「とは言っても、アリーナはどこにいるんだろう」
放課後、車内にてサリーナはため息をついた。
レット市中央線で電車に乗ったところまではいいが、結局どこで降りればいいのか分からないのだ。
「うーん・・・とりあえず、レット市中央図書館で調べてみたら?」
サリーナの隣に座っているアロが提案した。
(でもなあ・・・図書館で調べても何も分からない気がするんだよなあ・・・)
『次は南駅・・・・・・次は南駅です』
アナウンスが車内に響き渡った。
そのアナウンスを聞くと、アロとサリーナは立ち上がった。
レット市中央図書館は海に近い南西にあるキャンリバ大木のすぐ隣にある。
そこに行くには南駅を降りて、さらにバスに乗り換え、『レット市中央図書館前』で降りなければならない。
・・・・・そして、結論から言うと何も得られなかった。
それっぽいものを見つけても、肝心な居場所が分からなかった。
サリーナはため息をついた。
(やっぱりこうなると思ってたけど・・・・。でも引き受けるわけにもいかないし・・・どうしよう?)
「ねえ、とりあえず役所行こう」
サリーナはアロの言葉にかなり驚いた。
「なんで?市役所行っても変わらないでしょ?」
「でも、役所のモットーは『困ったら、役所へ』だし」
(・・・・こういう場合は当てはまらないんじゃ・・?)
しかし、かなり行き詰っていたのでサリーナはアロに何も言わなかった。
レット市役所はレット市中央図書館のすぐ隣にある。
役所に入ると、受付の人がすぐに「どうなさいましたか?」と聞いてきた。
「あの・・・アリーナさんに会いたいんですが・・・」
サリーナはダメもとで言った。
すると、それを聞いた受付の女の人は顔をしかめた。
「それって、あの世界的に有名なスパイ、アリーナ・インプラッシュのことですか?」
(・・・・インプラッシュって・・・ファミリーネームまで名前が似てるなんてそんな奇跡なことあるんだ・・・それに世界的に有名なんだ・・・)
ちょっとよく分からないが、サリーナは首を縦に振った。
「はい、そうです」
それでも受付の人は顔をしかめたままだった。
「ファンの方ですか?」
「いいえ、全く」
すると、ホッとしたのかしかめるのをやめて、受付の人は真顔になった。
「そうですか、なら私についてきてください」
彼女は受付から出て、妙に暗い通路に入っていった。
サリーナとアロは彼女についていった。
通路の先にはドアとその横になぜかボックスに入っていない赤の公衆電話が置いてあった。
彼女は赤の公衆電話の受話器を取って、『199-05』と数字を打ち込んだ。
「はい、私メラニーです・・インプラッシュお願いします」
言い終えると、受話器を置いて、横のドアを開けた。
「どうぞ、入ってください」