ジョナサン・ブラウン # 2
「はい、さあ実験しますよ」
一時間目は科学。
科学の先生はどの学年もどのクラスもフリック先生が担当している。
フリック先生は、少々髪が薄めで眼鏡をかけており、いつも白衣を着ている。
どこで会っても白衣を必ず着ている。
職員室でも、廊下でも食事の時でも。多分、買い物をしているときでも着ているだろう。
なぜ、そんなにフリック先生は白衣を着たがるのか、みんなまるで分からなかった。
「はあ、もう勘弁」
アロはため息交じりにガズバーナをセットしながら言った。
・・・・アロの言う『勘弁』は絶対にフリック先生のことではない。
「しょうがないでしょ?それにボワーだって何回目よ?蛇口をしっかり閉め忘れたの」
サリーナは小声で言った。
といっても、サリーナとアロが使っている一番後ろの席に対し、ボワーは一番前の席を使っていてそんなに普通の音量で話しても聞こえないだろう。
「そうだけど・・・ボワー、自分でやったくせに自分で掃除しないんだよ?しかも、毎回めちゃくちゃ濡らしてるし。もう少しでこの科学で遅れてフリック先生に怒られるところだった・・・」
(・・・・それは確かに・・・)
フリック先生は時間に厳しく、一分でも遅れただけで怒鳴る先生だ。
まあ、厳しいのは時間だけではないが。
「でもジョナサンが近くで気味悪く笑ってたんだよ?気持ち悪くて立ち去りたくなるって・・」
サリーナがまた小声で話したそのとき。
「サリーナ!!どっちが先に実験を終わらせるか、勝負しよう!!」
ジョナサンがまたあの不気味な笑みを浮かべて、サリーナとアロをじっと見た。
「え・・・?」
(・・・・もしかしてジョナサン、テストで順位負けたから、勝負して自分の方が上だって証明したいの?)
ジョナサンの席はサリーナとアロの使っている席の一つ前だ。
だから、もし変なことになったら、影響を受ける可能性がある。
ましてや、運の悪いサリーナだ。
何が起こるか、分からない。
・・・・・しかし一応、机と机の間には小さな水道があるが。
「ちょっとやめてよ・・!いくら、負けて悔しいからって・・勝負するのはちょっと・・・」
「何?できないの?」
ジョナサンが挑発するように言った。
(・・・・・完全に狂ってるよ・・・・)
しかも、ジョナサンと同じグループにいる、ベサニーとアリアナはもうジョナサンに呆れてしまってジョナサンに任せてしまっている。
「嫌な予感しかしないんだけど・・」
ジョナサンはそんなサリーナの言葉おかまいなく、さっさとガスバーナーに火をつけた。
しかも、ジョナサンはグループが一緒であるベサニーとアリアナの手助けを借りずに自分で準備し始めた。
・・・・今回の授業では硫黄を加熱するため、軍手と試験管をふさぐ栓が必要だ。
しかし、ジョナサンは・・・・・
「あっつ!!なにこれ!!」
素手で持って加熱するうちに手が熱くなったらしい・・・・。
ジョナサンは自分で準備したのに、慌てて隣にいたベサニーに試験管を渡した。
・・・そのベサニーも軍手をはめていない・・・。
「何なのよ!!?なんで私に渡すわけ?!」
ベサニーはジョナサンを睨みながら、ジョナサンと同じように慌てて前にいるアリアナに渡した。
・・・・・・あいにく、アリアナはクラスでも大きすぎる「オーバーリアクション」で有名だった・・。
アリアナは受け取った瞬間に「あっつ!!」とお得意のオーバーリアクションが出てしまった。
そして試験管ごと、手から離してしまった・・・。
もちろん、その試験管にふさぐはずの栓はない。
試験管も、中にあった硫黄も全て飛び出した・・・・机の横にある水道を飛び越えてサリーナの元へ・・。
(・・・・・やっぱりね・・・・)
バリーンっ・・・・!!
一気に教室は騒ぎ始めた。
サリーナは・・・間一髪近くにあった小さなホワイトボードで試験管とアツアツの硫黄を防いだ。
ただ、試験管はホワイトボードに跳ね返り、床に落ちたので粉々に割れてしまった。
「何の騒ぎですか?」
フリック先生はすぐに近くにかけ寄ってきた。
そして、粉々になってしまった試験管を見て、眉をつりあげた。
「・・・・・なんでこうなったんですか?」
フリック先生がそうきくと、サリーナでもなく、ジョナサンでもなく、おしゃべり屋のベサニーが起きたことを全て話した。
・・・・少なくともサリーナとアロは早口すぎて何と言ってるのか分からないところがたくさんあったが、フリック先生は理解したようだった。
「ジョナサン・ブラウン、あとで職員室に来なさい」
・・・・ジョナサンはあとでこっぴどく職員室で怒られたそうだ。




