ジョナサン・ブラウン #1
「はあ・・・・またサリーナが一位か・・・・」
アロがため息交じりに言った。
アロ、サリーナが通う中学校では、廊下にテストの順位を大きく貼るという決まりがある。
そして今回はこの前の中間テストの順位が今朝、貼られたばかりだった。
まだ順位がいい人はまだしも・・・
これでは、順位の低い者は誰かすぐ分かってしまう。
「いいよな・・・サリーナは勉強できて・・・・」
アロは、ロッカーの中に荷物を入れながら、ため息をついた。
どうやら、アロは今回もテストの点が悪かったのらしい。
彼なりに努力しているらしいが。
「でも、今回はギリギリだったんだよね・・・・」
サリーナはロッカーから教科書を取り出しながら言った。
「ギリギリ?!あれが、ギリギリなの?!二位と三十点差つけて?!」
アロはまたため息をついた。
と、その時。
「・・・・なんでいつもお前が勝つんだ・・・・!サリーナ、インプロッシュっ!!」
ジョナサンが拳を握りしめながら、サリーナを睨んだ。
ジョナサン―ジョナサン・ブラウン―は、今回の中間テストで二位だった。
・・・いや、いつもだが。
それで、いつもサリーナに一位を取られて悔しがっている。
ただ、たった一回だけジョナサンはサリーナを抜いて一位になったことがある。
・・・・・・・・たったの一点差だが。
「テストは勝つとか負けるとかじゃないと思うけど」
サリーナがそう言うのを見て、ジョナサンはますます睨む目を鋭くした。
ただ、睨んでいてもレンズにクルクルの模様が描かれているがり勉眼鏡のせいで、睨んでいるのか分からないが。
そもそも、それで授業を受けられる方が不思議だ。
サリーナが、そんなジョナサンを無視して足を踏み出した途端・・・・・
ツルっ!!
「・・・・ボワー!!!」
サリーナは思い切り床ですべって転んでしまった。
原因は・・・・
「な、なに?」
妙に怯えている小柄なボワーがやってきた。
というか、ボワーはいつも怯えているが。
「ボワー、また蛇口開けっぱなしにしたでしょ?!」
サリーナは一番近くにある水道をゆびさした。
その水道の蛇口からは水がドボドボ出ていた。
しかも、その水が今は廊下まで伝わり、廊下を濡らしてしまっている。
「本当に運が悪かったね、あと右に一センチずれてたら・・・」
アロがサリーナを見ながら言ったが、サリーナの言葉でさえぎられた。
「はいはい、そうですねっ・・・!」
サリーナは本当に運が悪いのだ。
サリーナは一人で立ち、(ついでにアロも睨み)転んでしまったことで手から落ちた科学の教科書やノートを拾った。
・・・・・その時、初めてアロの隣にジョナサンが変な笑みを浮かべながら立っていたのに気が付いた。
(てっきりもうどっかに行ったのかと思った・・・・)
きっとジョナサンのことだから、サリーナが一位になって濡れた床ですべったのが面白かったのだろう。
(それにしても・・・不気味だな・・・・)
サリーナはボワーと一緒に雑巾で床を拭いているアロを置いて、そそくさと科学の教室へ向かった。
「え?ちょっと待ってよ、サリーナ!!手伝わないのー?」
遠くでアロの声をサリーナはちゃんと聞こえたが、それでも進んだサリーナだった。




