6話 人類の敵
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ヴルカーノにファムが言った事は、誤解だという事を説明して、四天王と話を始める事にした。
まず、発言したのは、水の四天王である《カスカータ》だ。見た目は筋肉の鎧に固められた、如何にも脳筋と言った感じの漢だ。
その漢が、俺を一睨みして、ため息を吐く。
正直、こいつの威圧は凄まじい。きっと、俺の事も気に入らないのだろう。額に角が生えている事から、恐らくオーガなのだろう。
カスカータは、俺に顔を近づけ、「いい男じゃない!!」と頬を染める……って、は?
俺は、ヴルカーノに目を向けるが、ヴルカーノは笑いを堪えている。
「私は大歓迎よ。人間を仲間に入れる事を怖がる子もいるけど、そんな閉鎖的では、私達の未来はないわぁ~」
ど、どうしよう……。姿と中身のギャップがあり過ぎて、どう対応していいかわからん。
「オカマよ。人間が怯えておるぞ」
カスカータを止めてくれたのは、小さい髭のおっさんだ。こいつはドワーフか? 鋭い目つきをしている。
「誰がオカマよ!! 心は乙女よ!!」
「黙っておれ!! 人間よ。エルヴァンと言ったな。聞きたい事がある。人間達の鍛冶屋はどんな感じだ?」
「鍛冶屋? いや、俺は鍛冶の経験がないから、どんなと聞かれても、答えようがないんだ」
「そうか……」
ドワーフは、ものすごく落ち込んでいる。ヴルカーノにこのドワーフが土の四天王だと聞いた。
落ち込んでいるのは、スオーロは、ものすごい鍛冶屋馬鹿なので、人間の国の鍛冶屋の事を聞けなかったのが、ショックだったのだろうとの事だった。
四天王最後の一人は、森の四天王。見た目は幼い少女だが、吸血姫だそうで、数百年生きているそうだ。
「で? こ奴は、人間と戦えるのじゃ?」
ナトゥーラは杖で、俺の頭をポコポコ叩く。
「強さは俺をも遥かに超えると思うぜ」
ヴルカーノが俺の肩に手を置く。いや、ヴルカーノも大概強い気がするんだが?
「そうか、そうか」と、嬉しそうに俺の頭を何度も杖で叩く。
「地味に痛いんだが……」
「そうかそうか」
ナトゥーラは、更に嬉しそうに杖でポコポコ叩く。
落ち着いたところで、アグラーから、今後についての話がある。さっきまでは、冗談だと思っていたが、アグラーは本当に魔王を引退しようと思っていたらしい。
それを四天王は、納得しているようだ。
「で? 勇者は魔王の命を狙ってくるぜ? 国は、どうしても魔王を殺したがっているからな。そこはどうするんだ?」
「そんなのおかしいよ!!」
ファムが、俺の言葉に怒りをあらわにしている。
俺は、この村に来てまだ数日だが、ファムが怒るのも分かる気がする。アグラーは、俺達が刷り込まれてきた魔王のイメージとは全く違う。
「エル……。どうするの?」
「ん? 俺は、国に裏切られているからな。今はマシュー達に嫌がらせをしたいと思っているだけだよ」
俺がそう言うと、アグラーが俺をジッと見ている。
「なんだ?」
「エルヴァン。お前は勇者に魔王を名乗ったのだろう? どうするのだ?」
俺は、何も考えずに、あいつらの前で姿を現してしまった。恐らく国には、俺が魔王と認識されているだろうな……。いっその事、魔王を名乗って、人間どもを滅ぼしてやろうか……。
俺が俯いて考えていると、クリスが横から「どうするの?」と聞いてくる。
「よし、このまま俺が魔王を名乗ろう。そして、国の中枢を攻めよう。ただし、俺にもメリットが欲しいから、お前等、四天王も協力してほしい事がある」
「ん? 協力? 何をする気だ?」
ヴルカーノが怪訝な顔をしている。
「国を滅ぼす汚名は俺が被る、その代わり、個人的に恨みのある、故郷と勇者を虐めるのに協力してくれ」
「待て!! お前が汚名を被れば、人間どもの恨みを一人で受け止める事になるんだぞ!! お前は人間だろうが!!」
ヴルカーノは、俺が言った事を重く受け止めている様で、俺を心配してくれているのだろう。まだ出会って数日しかたってないのに、随分と優しい奴だ。
「元々、俺は国から指名手配されているし、今回の事でマシューから、国に報告があがるはずだよ。もう、手遅れだ。クリス。お前はここを離れろ。お前まで人間の敵になっちまうかもしれないぞ?」
クリスは俺の顔を凝視している。
「私はエルの妻だから問題ない。これからは魔族として生きるから問題ない」
「お前、引き返せないの分かってるのか?」
「問題ない」
クリスは、真剣な顔で俺を見ている。
妻がどうとかは、冗談だろうが、真剣さは伝わった。
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