5話 エルヴァンの妻
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「で? その横の娘っ子を連れてきたという事だな」
アグラーは呆れた顔で、俺とクリスを見ている。
「済まねぇな。アグラー。問題ばっかり持ってきて」
アグラーはクリスの方を見て、クリスに尋ねる。
「で? お嬢ちゃんはこれからどうするのかね?」
「お爺ちゃん。魔王の妻に向かって偉そう」
クリスがない胸を張って、意味の分からない事を言い出す。
俺は額に手を当て、首を横に降る。
「クリス。お前は何を言ってるんだ?」
「エルは魔王でしょ? さっき、言ってた」
アグラーは、何の話だ? と、ヴルカーノに聞く。流石に不味いと思ったのか、ヴルカーノは冷や汗をかいていた。
俺は、アグラーとクリスに事情を説明すると、アグラーが予想外の事を言い出した。
「確かに、戦えないワシよりも、エルヴァンが魔王の方が都合がいいかもしれないな」
「ち、ちょっと待て!? お前等、何言ってんのかわかってんのか!?」
俺が焦ってそう言うと、アグラーは疲れたように、俺に話してくれた。
魔族は、人間よりも魔力や力を持っているが、その力をむやみに使う事もなく、ひっそり生きていたが、人間達が魔族の住む魔族領を狙って進軍して来たそうだ。
魔族は最低限の抵抗はしたが、どんどん追い詰められ、魔族領にいつつ、こんな洞窟に追い詰められたそうだ。
アグラーの説明を聞いていたクリスが、困った顔をして、「聞いてたのと違う」と呟いていた。
クリスがそう言うのは無理もない。俺達は、魔族が人間の国を攻めてきていて、騎士団の力で魔王軍を押さえている間に、魔王を討ってくるように言われたのだ。
「そうだ! アグラー。魔石というのは、特別な力があるのか?」
俺達は、王から魔石を集めるように言われていた。だから、マシュー達は、ボルカノ火山に魔石を取りに来たのだ。
「魔石の効果は、あくまでその属性を強化する程度だ。しかも、その強化の割合も、倍になるとかではなく、わずか一割かよくて二割、向上するだけだ」
「思っていたよりもしょぼい」
クリスは、本当に思った事を直ぐに口にする。
「そうか……。俺達は無駄な事をしていたんだな。王はどこから、魔石の話を聞いたんだろうな」
俺が、少し落ち込んでいると、クリスが俺の頭を撫でる。
「とりあえず、今日はゆっくり休むと良い。明日になれば、他の四天王も集まるだろう。クリス嬢には別の部屋を用意しよう」
「エルと一緒でいい」
「いや、別で頼む」
俺がそう頼むとクリスに睨まれる。が、こいつは旅をしている時から、何を狙っていたかは知らないが、俺の部屋によく忍び込んでいた。
全く、年頃の娘が、簡単に男の部屋に入るものじゃないと思うんだがな。
俺は、睨むクリスを後にして、自分の部屋へと戻った。
次の日、アグラーから見回りをして来いと言われたので、俺は洞窟の入り口に向かう。クリスも暇だと、付いてくる。
「エルヴァン!!」
見回りをしていると、ファムが俺に声をかけてくる。
「よぅ。今日は何の用だ?」
「一緒に見回りしようと思ってね……って、その子誰? 人間?」
ファムは、クリスに近付き頭を撫でる。
「何故、頭を撫でる?」
「いや、ちっちゃくてかわいいなって」
「ちっちゃい? 私は、エルの妻」
クリスの妻発言で、ファムは俺を睨みつけてくる。
「ちょっと、エルヴァン。奥さんがいたの!? パパは恋人に裏切られたと言っていたのに!!」
クリスはなぜか勝ち誇った顔で、ファムを見ている。
「クリスの冗談だよ。さっさと見回りを終わらせて、家に帰るぞ」
俺はそう言って、睨み合う二人を背に見回りを開始する。
その日の午後、アグラーの部屋に四天王が集まる。
「皆の者、集まってもらって済まない」
アグラーの言葉で、話し合いが始まる。
この場にはアグラーと、護衛のオーク、名前はナイツというそうだ。それに四天王に、俺とクリスとなぜかファムがいる。
「おぅ。なんでファムがいるんだ?」
ヴルカーノがファムに聞いている。
「大事な話だから、お前は帰ってろ」
父親として、至極真っ当な事を言っているのだが、ファムは聞こうともしない。
「パパ!! 私は、エルヴァンの妻だから、この場にいるんだよ」
俺はファムの顔を見る。ファムは顔を赤らめて目を逸らす。こいつは何を言っているんだ?
というよりヴルカーノの視線が怖いんだが?
「おい。エルヴァン。どういう事だ?」
ヴルカーノが物凄い顔で睨んでくる。いや、俺がどういう事か聞きてぇよ……。
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