29話 騎士団長
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城の中は静かだ。
いくら王都が魔獣に襲われているからといって、城の警備まで薄くする必要があるのか? 俺は、腕を組み考えながら、マシューの部屋にまっすぐ向かう。
「マシューの部屋……。俺達が訓練を受けていた頃に使っていた部屋を、今も自室にしていると良いんだがな」
しかし、不気味なくらい静かだな。もしかして城の警備は勇者だけで良いという事か?
それならそれで良いんだが、マシュー程度の力を過信しても良い物か……。敵とはいえ心配になってしまうな。
静かな廊下を歩いていると、廊下の奥の方に一人の男が立っていた。あれは……。
「久しぶりだな……。剣士エルヴァン」
立っていた男はこの国の騎士団長ギャビン。俺が考える、この国最強の漢だ。
「久しぶり。ギャビンさん」
「まさか、お前が魔王とはな。確かに、お前だけは最初から強かった。とはいえ……お前を剣士として育てたのはオレだ。オレの手で引導を渡してやろう」
そう言って、剣を構えるギャビン。
そうか。この漢が警備にいるだけで百人以上の兵士に匹敵する。しかし、全く隙というものが無い。
「ギャビンさん、話を聞いてくれないか? 出来ればあんたと戦いたくないのだが?」
俺はそう言って戦闘を回避しようとするが、剣を収めてくれるつもりも無いらしく、すさまじい殺気を込めた視線で睨みつけてくる。
まぁ、俺が魔王で、この国を滅ぼそうとしている以上、俺を見過ごすわけがないわな。
「もう一度言うが、話を聞いてくれないか? 俺は、あんたの芯のある正義感を尊敬していた。曲がった事が嫌いなあんただ。今回の勇者がおかしいのは、分かっているだろう?」
「人間が魔族と争うのは自然な事だろう?」
それは、仕方が無いと思う。俺は人間だが、今は魔王として、敵である人間に牙をむいている。
「しかしだな……。今回の魔族侵攻の原因を作ったのはこの国だぜ? 静かに平和に暮らしていた、魔族の村を襲ってな。しかも、逃げ遅れた魔族を皆殺しにしていたらしいな」
魔族の村を襲う時には悪事の限りを尽くしたらしい。ヴルカーノが言うには、逃げ切れなかった魔族は皆殺しにされていたと言っていた。その中にヴルカーノの妻もいたそうだ。
俺がその事を話すと、一瞬ギャビンさんの顔が歪む。この人もこの事を知っていて、やっぱり納得はいっていないという事がわかる。
ギャビンさんは俺の言葉に耳を貸さずに、踏み込んでくる。速い!?
俺は剣を抜き応戦する。
「チッ……。やりにくい」
ギャビンさんの目は真っ直ぐで、自分に迷いがない。だからこそ憧れた。
とはいえ、今の俺ならギャビンさんにも勝てる。
「悪いな」
俺が振った剣で、腕を斬り落とす。ここで退いてくれればいいのだが、俺の知っているギャビンさんは間違いなく引き下がらない。
「いくらあんたでも、腕を無くしまえば戦えないだろう? 退いてくれないか?」
ギャビンさんの目は、全く衰える事もなく俺を睨みつけている。
「はぁ……。どうして、そこまでこの国のために戦う? この国の勇者を見てみろよ。魔王を倒すために努力をしているか? 国王に言われた、魔石集めは進んでいるのか? 火山で俺に撃退されてから全く取りに来る気配がなかったじゃないか。どうせ、今も自室で女と盛ってんだろ?」
俺がそう言うと、ギャビンの表情が少しだけ変わる。
「あんたもマシューが勇者に相応しくないと思っているんだろ? ならば……」
「オレの娘があいつの世話役に選ばれた!! オレがお前を仕留めれば、あいつは娘に手を出さ無いと勇者と約束した!! だから、オレはお前を倒す!!」
はぁ……? 人質かよ……。勇者として、そこまで堕ちているのかあいつは……。
とはいえ、マシューの性格を考えると、急いだ方が良いかもしれないな。
「ギャビン。一つだけ、話を聞いてくれないか?」
本当は話をしている時間も勿体ないのだが、俺個人はギャビンを殺したくないし、この人には、この国が滅びた後も俺達の為に働いて欲しいとすら思っている。
「ギャビン。俺の知っているマシューは約束を守る奴じゃないぞ。今頃、お前の娘が襲われているかもしれない。そこをどけ」
俺がそう言ってもギャビンは、退いてはくれない。
仕方が無い。片腕を失っているからといって、ギャビンを気絶させるのは至難の業だ。本気で行くか。
俺は一気に踏み込み、剣の腹で腹を強打する。これで、気絶してくれ……。
ギャビンは、反応できなかったみたいだが、苦しそうな顔で俺を睨む。チッ……。やっぱりこれじゃ……。
しかし、その直後、ギャビンはその場に倒れる。
「ふぅ……。良かった」
俺は、ギャビンの腕を止血して、最低限の治療をしておく。
「これで、死なないと思うが……。さて、マシューの部屋に急ぐか……」
マシューの部屋が変わっていない事を祈りつつ、俺はマシューの部屋に急いだ。
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クジ引き https://ncode.syosetu.com/n2043en/
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豚もそろそろ再開しなきゃなぁ……。




