23話 勇者一行の現状
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「睨んでばかりいないで、かかって来いよ。分かりやすいだろ? 俺は魔王でお前は勇者。元々、殺し合う運命じゃないか」
俺がそう言って、剣を取り出すと、クリスやファムも構える。しかし、俺は二人を下がらせる。
「クリス。ファム。今は下がっててくれ。俺としては今回は国王と交渉に来ただけだ。殺すつもりはない」
俺は、そう言って、二人に笑いかける。
俺の態度がマシューには気に食わなかったようで、怒りの表情で俺を睨みつける。メディアとシリは魔法の杖を持ち、俺に魔法を使おうとしている。
シリの魔法は神聖魔法。麻痺や毒などの状態異常系の魔法を使う。メディアは僧侶。聖なる力の魔法を使う事が出来る。
しかし、この二人の魔法はたいした威力でない。クリスが敵に回っていた場合なら、脅威と言えるが、シリは聖女とはいえ、直接の攻撃魔法は使えないので脅威ではない。メディアに関しては、俺達の幼馴染という以外の価値はない。僧侶としての実力は下の上くらいだ。
「マシュー。お前は睨んでいるだけか?」
俺はマシューを挑発する。マシューは剣を取り出し、俺に斬りかかる。遅い。
俺は、マシューの剣をはじき落とす。マシューは剣を落としてしまい、剣を拾いに行く。
「メディア!! 俺に補助魔法を使え!!」
メディアの補助魔法と言ってもたいした効果は無い筈だ。
「で、でも!!」
「大丈夫だ!! 愛の力で効力は数倍の筈だ!!」
ほぅ。そんな効果があるのか? 俺はクリスの方を見ると、マシューとメディアの事を馬鹿を見るような目で見ている。その目で気付く。要するにそんな効果は無いわけだ。
「分かったわ!! 私達の愛の力で魔王を討つのよ!!」
愛の力ねぇ……。
俺は黙って、どうなるかを見る事にした。
「きたきたきたきたー!!」
マシューの体が光る。しかし、俺はあの魔法の正体を分かっている。ハッタリ魔法だ。俺は、自分の剣を鞘にしまう。
「どうした!! 観念したのか!?」
はぁ……。腹が隙だらけだよ。俺はマシューの腹部を蹴る。
「ぐぼぉおお」
マシューは腹に力を入れてなかったのか、自分の剣を落とし、蹲る。
「おいおい……。今の攻撃をガードも出来ないのかよ。もしかして、俺が抜ける前より弱くなったか?」
以前のマシューなら、このくらいの攻撃なら避けられた筈だ。それを避けられないとは……。
「弱くなっているのは事実」
クリスがドヤ顔でマシュー達を指差している。
「マシューは聖剣も聖鎧もつけていないから、本来の力を引き出せていない。シリは純潔じゃなくなったから、聖女の力はもうない。メディアは最初っから弱い。この三人は馬鹿だから気付かない。その穴を埋めていたのはエル。いつも活躍していたのはエル。マシューじゃない」
マシューはそう言われて、自分の装備がない事を気付く。
シリは、クリスに言われた事実? に困惑している。
メディアは弱いと言われて、怒っている。
「メディア!! シリ!! 俺は装備を取りに戻る!! 魔王の足止めをしておけ!!」
マシューは、メディアを盾にして、走り去ろうとしている……が、シリも一緒になって逃げようとしている。
装備を取りに行くくらいは、待ってやれるんだがな。
「マシュー。いつまで待っておけばいい? 俺も暇じゃないんだ。待っててやるから、早く自分の装備を取って来い!!」
俺が優しくそう言ってやると、マシューは振り返る事もなく、走り去る。
メディアは、走り去る二人を見て自分も一緒になって逃げようとする。
俺は、暫くその場で待つ事にしたのだが……クリスが、追いかけるように言う。
「何故だ? 装備を持っているとはいえ、あいつくらいなら何とかなりそうだ。わざわざ追いかける必要があるのか?」
クリスは真剣な顔になり、一言こう話す。
「元婚約者の最期くらいは、看取ってあげると良い」
最期? 看取る? どういう事だ?
俺がクリスに聞いても答えない。
俺は半信半疑で、マシュー達を追いかけた。
「きゃあああああああ!!」
なんだ今の悲鳴は!?
俺達は悲鳴が聞こえた方へと駆けていく。
曲がり角を曲がると、メディアが蹲っているその前で、マシューが血を滴らせた剣を持っている……。
まさか……、マシューがメディアを……斬った!?
元婚約者は、次で退場です。
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