21話 ヴルカーノの気持ち
ブックマークの登録ありがとうございます。
ヴルカーノにアグラーから言われた事を話したのだが、「元々魔王を名乗っているんだ。いまさら何を驚いているんだ?」と言われた事で、今の状況とさほど変わらない事に気付く。
「アグラー様は、俺達にとって絶対に必要な方だ。だからこそ人間との争いに巻き込ませたくない。言い方が悪いが、お前が魔王の方が、こちらとしても都合がいい」
ヴルカーノにそう言われると、俺もその方が良いと思ってしまう。元々、俺が狙われるように仕向けたのだから、俺が魔王になった方が良いのだろう。
「分かった。アグラー。今日から、俺が魔王を名乗る」
「そうか。頼んだぞ。エルヴァン」
後は、アグラーから村の人間に俺が魔王になるというのを説明しておいてくれるそうだ。俺は俺の出来る事をするとしよう。
俺が家を出て、国王の元へと行こうとすると、ヴルカーノが声をかけてきた。
「エルヴァン。ファムとクリスに聞いたのだが、国王の所に行くというのは本当か?」
「あぁ。無駄なのはわかっているが、ちゃんと段階を踏もうと思ってな」
「段階?」
「いきなり攻めるという事をすれば、すべての人間と戦争という事になる。それじゃあ、命がいくつあっても足りないからな。ならば、勇者を仕立て上げた国だけを相手にした方が良い。それで、国王の意志というものを聞いておきたくてな」
「国王の意志というのは?」
「魔族の存在を認めるか否か」
そう、この事だけは国王に聞かねばなるまい。こちらが仮に友好を求めてもあいつ等がそれを拒否すれば……。
「それを拒否するならば、どちらかが滅びるしかなくなってしまう。ヴルカーノ。人間は数が多くて強大だ。魔族は大人しく滅びるか?」
俺がそう言うとヴルカーノは黙り込む。
「ヴルカーノ。お前はどう考えているか素直に教えてくれないか?」
ヴルカーノは、暫く黙り込んだ後、重い口を開いた。
「俺達の村が襲われたとき……妻は人間に殺された。非戦闘員だったにもかかわらずだ。復讐したい気持ちはあった。だが、ファムがいたからその気持ちに蓋をした。お前が復讐に協力しろと言った時に、心が躍ったのも事実だ」
ヴルカーノは複雑そうな顔になる。
「だがな。その結果、魔族の皆が危険に晒されるのなら、俺は最後まで、お前の復讐に強力は出来ない。俺が守るべきはアグラー様だ」
……。
「よし、わかった。魔族を危険に晒さないと誓うよ」
俺は軽く手を上げ、部屋を出ていく。
家の外では、クリスが転移魔法陣を書いて待っていた。
俺とクリスが転移しようとすると、ファムも一緒に行きたいと言い出す。
「ファム。危険だぞ。何しろ人間の王様の城に行くんだからな」
「大丈夫。お父さんに聞いているだろうけど、龍人は人間よりも硬いから」
そう言って、腕をぺチぺチ叩く。
ファムとそんな話をしていると、ヴルカーノが家から出てくる。
「エルヴァン。これを持っていけ」
ヴルカーノが投げたものは……。確か魔宝玉というものか。しかし使い方がわからない。
「通信したい者の顔を心に浮かべて、魔力を込めればつながる。何かあったらすぐに連絡しろ。必ず助けに行く。ファムを頼んだぞ」
「ちょっと待て!! ファムを連れて行くのを認めるのかよ。危険なんだぞ!?」
「大丈夫だ。さっき言っていただろう? 魔族を危険に晒さないと。守ってやってくれ」
そう言って、ヴルカーノは家に戻っていく。
「さて、お父さんの許可も得たし、行こう」
「うん。行こう」
俺はため息を吐き、転移魔法陣の上に立つ。
「クリス。面倒を避けるために謁見室に転移してくれ。今の時間なら、そこにいる筈だ」
「わかった」
クリスの転移魔法で出来た穴に入っていく。
出て来た先には驚いた国王と宰相、それに……勇者マシューがいた。
少しでも面白いや続きが気になるという方がいれば幸いです。
よろしければ、ブックマークの登録、評価をよろしくお願いします。
『クジ引きで選ばれた勇者』もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2043en/




