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Re:聖戦学院 2話 resist → reveling

龍宮学院は、周りの世界から隔絶されたかのような場所に、ひっそりと建てられている。

遮蔽物の一切ない荒野。その果てにあるのも、崩れたビル郡の瓦礫の山。

草木などない、まるで人類に対する皮肉の為に作られた、人工物の地獄とも言える世界。

その中に建てられた学院(きぼう)は、小さな都市程度の大きさと機能を備えていた。

だが、それは学院、学園と言うよりもむしろーーーーーーー


『要塞都市』


その言葉を口にしたのは、正門前に立つ一人の女。

風にたなびく長い黒髪。その隙間から覗く凛とした眼。

僅かに幼さを感じさせつつも、一般的には「普通に美人」と評される顔立ちの娘。


「・・・いえ、()()学校でしたか。随分と仰々しいものです」


月に照らされた、言葉通り要塞とも見紛うその学院の校門で、四龍院桜はふと独り言つる。

「この男を拾ってから、三日。予想よりも、だいぶ早く着きましたわね」

思い返せば、休み休みとはいえ、かなりの遠さだった。

道中で一度も襲撃に合わなかったのが逆に不気味だったが、無事だったことを思えば大した問題ではない。

むしろ、この四度目の夜を外で過ごす、などということが無くなったのが何より嬉しい。そろそろ風呂にも入りたかった頃だ。


「それにしても。凄まじいですね、ここは」

桜は改めて学院の外観を見渡す。

その豪快な景色は、学校と言うにはあまりにも大きすぎる。

高さは大体二十メートル、と言ったところか。広さも東京ドームの半分くらいはありそうだ。

さらに、それを守るように囲む壁に、二十人は同時に通れそうなほど大きな門。


ーーー本当に、これだけの大きさのものを、よくもまあ()()()()()ものだ。


心の中で言いながら、学校の正門、というには些か荘厳すぎるともいえる装飾を忌々しげに睨み付け、溜息をつく。

「悪趣味な」

吐き捨て、両腕で抱えた傷だらけの男を、ゆっくりと地に下ろす。

「・・・一体学徒の皆様は何を考えているのやら」

そもそも学生が建てたわけでは無いのだが、誰にも聞こえないのをいいことに、ブツブツと文句を言う。

ーーーーー不意に、その背中に不可視の矢が突き刺さる。

痛みはない。

気付かされたわけでもない。

ただ()()()()()だけだ。

「ああ、もう。面倒ですね」


やや苛立つような口調に反して、ゆっくりと口角を上げながら、左手をそっと腰に添える。


刹那。


「キャルル!」

「キィィィイイイイイッ!!」

爛々と輝く瞳に映る、月下の荒野に佇む人間は、彼等にとっては格好の獲物に過ぎなかった。

金属を石で引っ掻いたかのような、甲高く不快な声を上げて、二羽の鷲が桜の元へと飛来する。

その姿は淡い水色の、いかにも「生きた氷の彫刻」とでも言うべきものであった。

青い軌跡を伴いながら空を裂き、明確な敵意を持って襲い来る氷の槍は、しかし桜の肉を抉ることなく通り過ぎた。

狙いが甘かったのではない。

桜の方が、一段も二段も、はたまたそれ以上に上手だっただけだ。

ひらりと回転しながらも勢いを利用し、腰に携えた、白銀色のレイピアを抜き放つ。

「ーーー」

狩人気取りの獲物を見つめ、細く小さく呟く。

常人には理解できない意味不明な言語の羅列。その音は彼女の義腕に静かな駆動音を響かせる。

人間の左手で細剣を縦に構え、眼を閉じ、神経を張り詰める。

雑魚とはいえ、気を抜けば死ぬのは私。


一歩だけ足を前に進ませ、全身に力を込めて、一息。


「はぁ・・・っ!」


氷鳥達が突進の勢いを殺し、改めて此方に狙いを定めた瞬間を見計らい、駆け出す。

その様子に微かに驚きながら、再びその身を槍と化すべく羽ばたこうとするが。


僅かに、彼女の方が早かった。


「っ!」


まだ二十メートルはあろうかという距離から、いきなり桜が跳躍する。

人間の跳躍では、到底届くはずもない距離。

にも関わらず、彼女も、彼女の突き出したレイピアも、まるで()()()()()()()かのように氷の片割れの方へと向かっていく。

「ピ、ギッーーーー!?」

脳天から尾に至るまでを貫かれ、歪な断末魔を上げて魔鳥が地に堕ちる。

「次」

短く言って次の獲物にレイピアを伸ばす。

しかし、眼の前で相方が死に行く様を見た魔鳥は、慌てて身を翻し、射程範囲から身を遠ざける。

「ギィッ・・・」

距離を取りながらも、墜落して行く片割れを見る鳥の眼に、復讐の炎が宿るのに時間はかからなかった。

「ギャギャギャギィッ!!」


ーーー引き裂いテやル!食いチギッてヤル!殺シテヤル!


黒く、黒く、ドス黒い感情を解き放ちながら、翼をはためかせて再び桜の元へ飛来する。

しかし。

桜は、静かに、ただ静かにレイピアを構えるのみで、一切の予備動作を行わない。

勝った。

殺した。

仇を取った!

氷の鳥に、その確信が生まれた時。

既に、その身にヒビが入っていたことに、氷鳥は全く気付かなかった。

「キーーーーーーーーー?」

桜の脳天を貫き、脳味噌を引きずり出し、頭蓋を砕き死体に作り変えるはずだったその弾丸は。

桜のレイピアに真正面からぶつかり、その身を両断させて散り果てた。

「勝ちを求め過ぎましたね。あそこで冷静になられていたら、私も危なかったかも知れません」

慰めるように、背後に散らばる氷のカケラに語りかける。

「追って来た『モータル』はこの氷鳥(ひょうちょう)二匹のみのはず」

くるりと周りを見渡すが、ただただ殺風景な荒野が広がっているだけだ。生き物もはおろか、怪物の気配すら微塵も感じられない。

ふうっ、とため息をついてから、左手に持つレイピアを鞘に収める。

「さて、それでは怪我人を運び直すとしましょうか」

校舎から離れた場所とはいえ、騒ぎになるのは面倒だし、あの生徒には黙っていてもらおう。


尤も、すぐにその心配もいらなくなるやも知れないが。




















ーーーー黒い部屋

「おい、ジジイ」

少年の、荒々しい声が、部屋に響く。

呼びかけられた男は、ジジイ、と呼ぶには余りにも若すぎる風貌だった。

「ジジイはやめてくれ」

少年よりもさらに若々しい声色で不満げに声の主に対して返すが、それがどうしたとばかりに少年は告げる。

「うっせぇ。ジジイはジジイだろうが。報告があんだよ、聞けっつーの」

「だからジジイは止めろというに・・・で、何かね。()()()()()

諦めたような口調で人間の名前とはかけ離れた言葉をかけられながらも、それが当然のことのように少年は返答する。

「ああ。お嬢様が学院に接触したみたいだぜ?」

「・・・お前さん、あの娘と親しかったかのう」

やや論点がずれた問いには答えず、アスカロン、と呼ばれた少年は言葉を続ける。

「過程で学院生を一名保護。モータルの襲撃は『組織(こっち)』で抑えたからほぼナッシング。あとはアイツが上手くやるのを願うだけだぜ」

くくく、と笑った後、興味を無くしたかのように端末を弄り出そうとした少年に、別の男が声をかける。

「そんな言い方をするな。まるで我々が悪人みたいではないか」

打って変わって重低音(テナー)の声が、少年の耳を打つ。

声の主は僅かにも表情を変えずに、二人に語りかける。

「我々はただ力を合わせたいだけだろう。別にやましいことなどしているわけではあるまい。そうだろう、ロンギヌス」

「うむ、やはり偽名とはいえ、名で呼ばれるのは心地いいわい」

アスカロンへの皮肉を飛ばしながら、ロンギヌス、と呼ばれた男は、口調の割には幼い容姿を揺らしてカカカと笑う。

それとは反対に、男は表情を固めたまま淡々と言う。

「問題は向こうがこちらの意思をどう捉えるか、だ。さて、そこはあやつの手腕に期待するほかあるまい」

その言葉に、アスカロンも、ロンギヌスも、無言でゆっくりと頷いた。

















滝宮学院・食堂

「・・・そろそろ行こうか。自室に戻らないと、寮監に叱られる」

空の食器をまとめて持ち上げ、返還所へと足を運び出す。美月も僕の後ろをゆっくりと付いてきているのを、感覚で感じ取った。

「ん?お、ありがとねぇ。そこに置いといておくれ」

「はい。ご馳走様でした」

軽く一礼して、食堂を出る。廊下にも、生徒は全くと言っていいほどいなかった。

「こう言うのって、なんだかワクワクしない?誰もいない学校を二人っきりで歩いてる、みたいな!」

「どうワクワクしろって言うのさ」

そうは言ったものの、美月の言っていることが分からなくは無い。

無人の校舎を探検、など、()()()()()()()この世界でも十分に楽しめる娯楽だ。

それがどんなにくだらないものであっても、今は僕達の心を潤す大事なひと時である。

「そんなの自由よっ。ルクス君はルクス君なりに楽しめばいいの」

「そんな深い話かなあ、これ」

苦笑しながら会話を進めると、不意に少女の纏う空気が色を変える。

爛漫な白から、陰鬱な黒へ。

「だって」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


口には出さない。けれど、二人ともとうに分かっていた。

今日この日が、どれだけ特別で、どれだけ大切で、どれだけ残酷なものなのか。

思わず、顔を僅かに俯ける。

その様子を見てか、明るさを戻した美月が提案をしてきた。

「このまま帰るのもつまらないし、何処かに寄り道しない?」

別に良いけど、何処へ行くのさ。

尋ね返そうとした、まさにその時だった。

ポーン、ポーン、ポーン、ポーン。

階段を登るように高くなる、鈴のようなチャイムが響く。校内放送の合図だ。


ーーーー只今より、生徒の呼び出しを行います。・・・天道寺ルクス


そこから、僕と美月を始めとした六人の生徒が名を呼ばれた。

システマチックな音声は、恐怖を煽るのでもなく、期待を抱かせるのでもなく、ただ淡々と自らの役目を全うする。


ーーーー以上六名は、直ちに一階の応接間まで来るように。


最後の一人の名を読み終えた後、プツリ、と小さなノイズを残して、放送の声は消えていった。

「・・・だってさ」

「呼び出し、かあ」

二人揃って、ふう、と溜息をつく。先程までの明るさや朗らかさは、もうかけらもない。

「何の用で呼ばれるのかな。大したことじゃなきゃいいけど」

その言葉に大して祈りの意識は入っていなかった。

まるで、高校生が「入試無しで難関校に入りたい」という夢物語を抱くかのように。

上辺だけの願望。一切の幻想のない、殺風景な祈り。

「そうね。ちゃっちゃと済ませられたら良いんだけど」

「ああ、全くだよ」

応接間へと足を進めながら、先程までの会話とほぼ同じトーンで言葉を交わす。

そこに暖かさや平穏さなどは皆無。

かつ、かつ、かつ。

二人の足音と、淡白な会話が廊下に響く。

それを聞く者は、誰もいない。






















この学校の応接間は、少々特殊らしい。

豪華な絵画もないのは序の口。そもそも独立した部屋ですらない。

保健室と事務室の間の空間。そこにある長い長方形のテーブルが置かれた空間を、便宜上「応接間」と呼んでいるだけに過ぎない。

そのテーブルの椅子に腰掛けているのは六人。

教師らしき成人の男と、放送で呼ばれた四人の男女、そして、(わたし)

「申し訳ない。急な来客にもてなす物は、生憎用意出来なくてね」

黒服にネクタイと、如何にも教師といった容姿の男が、私に声をかける。

「いえこちらこそ。突然押し掛けてしまいすみません」

愛想笑いを浮かべて頭を下げるが、男は黙って眼を閉じてしまった。

無愛想な人だ。と、考えてからすぐに思い直す。

何かの武道でも習っていたのか、瞳を閉じていてもなお感じる気迫。

それは私の柔肌を浅く撫で、後ろへと通り抜ける。

只者では無い。そう感じると同時に、僅かに羨ましくもあった。

そこへ、放送で呼びかけられた学徒の、最後の二人が現れて名を名乗る。

「一年、天道寺ルクス、到着しました」

「同じく天野美月、到着致しました、っと」

二人揃って軽く礼をした後、近くの席に座る。

片方は如何にも真面目といった雰囲気の少年だ。

黒髪ショートがよく似合う、幼さを残しながらもやや凛々しい顔立ち。

やや細っそりとした体型だが、そこにまるで不安を感じさせない()()()()

もう片方の女性徒も、ややお転婆な面が感じ取れるものの、体型や顔立ちは少年と良く似ている。

栗色のポニーテールをたなびかせ、人当たりのいい笑顔を保ちながら飄々と歩き、少年よりも先に席に座る。

やや遅れて『ルクス』なる少年も席に座ったところで、私の隣に座っていた女性が口を開いた。

「随分と遅かったじゃん。なんかあったん?ルクち、ミッちゃん」

茶髪にネイル、それ以外にも数々の装飾品を身につけた女性徒、名は、島月 美波。

「別に。食堂にいただけだよ島月さん」

「食堂からここまで、結構遠いの知ってるでしょ?美波」

二人の言葉を受けても尚、島月美波は目線を外さない。

「島月、食堂のうまい飯なら後で聞け」

「・・・はいはい。ま、何もないならいいんだけどさ」

教師の男にややズレた注意をされると、少女はイスの背もたれに身体を預け、口を閉じた。

「美波なりに心配してたんだよ、二人のコト」

ひっそりと、美月と名乗る少女に耳打ちしたのは、彼女の隣に座る、眼鏡とおかっぱが印象的な女性徒だ。

確か名前を、波風 亞由奈といった。

「さて、薄々気づいている者もいるだろうが、先ずは集まってもらった理由を説明しよう」

教師が立ち上がると、生徒達の目線が一斉に上がる。勿論私のも、だ。

「先程、渋谷への征伐隊のメンバーが帰還した。僅か一名のみだがな」

その発言に、皆一様に驚く。私には、何故そこまで反応するのかは分からないが。

「現在、彼は医務室で治療を受けている。一命は取り留めたが、しばらくは復帰できそうにないだろう」

そこで、と男は一度息を吸い、そして。


「君達に、臨時の征伐隊として、渋谷へと向かってもらいたい」

























「おい、おい。しっかりしろ!」

血みどろの男が、私に向かって叫んでいる。

ああ、その言葉は、私がお前に言ってやるべきものだろうが。

声は出ない。手も、足も動かないのに。

「よく、よく生きて戻った。まだ希望はある!だからしっかりするんだ!」

ここは、何処だ。

渋谷か。そうか、まだ私はあの地獄にいるのか。

名取、そうだ、我が友、名取はどうした。

逃げたか、死んだか、どうか前者であってくれ。

私はまだ生きている。今は、今は、生きているぞ。

「応急処置は終わった。しばらくはここで休むんだ」

ああ、ありがとう。そう言いたいのに、声が出ないとは。

恨めしい。己の無力が。

「討伐隊は全滅した、か・・・好き勝手ほざきやがって!俺達はまだ生きている!」

そうだ、その通りだ。

私達は生きている。ここに。ここに。

「あのクソ狼に殺されたのは三十人ちょいだろ!俺達がそんなチンケな部隊で来るわけねえだろうが!」

「おい、落ち着け!怪我人の傷が・・・」

いや、君の言う通りだ。

そうだ、私達はまだやれる。

まだ、ここにいる()()()精鋭達が、生きて、ここにいるではないか。

そして、私もあの地獄を生き延びてきた。

まだ、死ぬわけにはいかない。倒れるわけには、いかない。

「お、おい」

ああ、なんということだ。

動く、ではないか。

「そうだ、私達は生きている」

絶望がこの世界を覆うとも、私は叫ぼう。


「私達はまだ、負けていない」


「まだ、前に進める。その時が来るまで待とう、そして、進もう!!」

お久しぶりです。オルタです。

風邪を引き、様々な用事が襲ってきてますが、私は元気です。

漸く投稿できたRe:聖戦学院2話。なんか見たことないキャラが続々と登場して来ました。

旧編の没キャラ、未登場キャラから完全新規まで、様々なとこから現れるキャラクター達。

彼らはルクス達とどのような物語を紡ぐのでしょうか。

まだまだ序章といった感じの2話が終わり、続いて3話へと動き出します。

更新日は未定ですが、気長にお待ち頂けると幸いです。

それではこの辺で、オルタでした。

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