命の重み
ガチッ!
「ぐっ!?」
構えを取ろうとしたゲス男は苦しそうな声をあげる。
それもそのはず。
身動きが取れないのだから。
正確に言えば、指先などは動くが、体の大部分は自由がきかない。
俺がステッド・ファストで衣服を固定したからだ。
よって、構えるどころか椅子から立ち上がることも出来ない。
このステッド・ファストの使い方は、前々から考えてはいた。
だが、如何せん難易度が高く、実戦では役に立たなかったのだ。
なにせ、ステッド・ファストの本質は相対位置の固定。
固定すべきものが動いていたら普通に難易度が高すぎる。
だが、今回は椅子にふんぞり返ってくれていたおかげで位置の指定もやりやすかった。
偉そうなやつってのは基本的に衣服を体全体に纏う風潮がある。
こいつもそれに漏れず、体全体をローブのようなもので覆っていたのでそれはもう体ががちがちだろう。
体の線は細くはないが、筋骨隆々でもないのでこれは簡単には破れないだろう。
それぞれの衣服に対してかけてあるので、一気に解除というわけにもいかない。
「ま、待て!」
焦ったゲスがそんな声をあげるが、そんなのを待ってやる義理もない。
無防備な首を渾身の力で斬りつける。
「がっ!?」
ゲス男の首から鮮血が飛び出し、一気に体の力が抜けていく。
俺はそのままそいつの服をあさり、錠の鍵を見つける。
そして、リオンの拘束を解き、鍵を渡してから電池が切れたかのように座り込む。
3人の拘束を解いたリオンが戻ってきた。
「ごめんね……。ごめんね……!」
何を謝っているんだ?
ゲス男の返り血など気にせず俺を抱きしめるリオンに俺は困惑する。
謝ることなんてなにも……。
俺の顔を覗き込んだリオンが俺の眼の下を拭う。
そこには、明らかに血ではない、透明な液体が付いていた。
あぁ、そうか。
俺は、泣いているのか。
どこか他人事のようにそれを認識する。
激情に任せてとはいえ、俺は初めて、この手で人を殺したのだ。
死ぬ間際に見えたゲス男の感情はどす黒く、澱んでいて……。
「うっ……」
「大丈夫だよ……。大丈夫だからね……」
少し落ち着き、現状を認識したところで一気に吐き気が襲ってくる。
リオンが背中をさすりながらなだめてくれるが、そう落ち着けるわけもない。
「うあああぁぁぁ!!」
「落ち着いた?」
「まぁ、少しはな……」
「まだ顔が青いけど……」
「そんなことも言ってられないだろ……」
よろよろとまだ倒れている3人に近寄る。
「おい」
パンパンパン。
3人の顔を適当にはたきながら起こす。
「あんっ」
「正気に戻って起きないなら解雇だ。精々路頭に迷え」
「くっ、あっ、頑張ります……」
「よし」
刃を食いしばりながら起き上がってくる3人。
1回目ならまだ中毒性も薄く、効果も弱いはずだ。
引き返しようがある。
「いきなり領主がいなくなったらどうなる?」
「それは……」
リオンも言葉に詰まる。
俺が殺したのはそこらの人じゃない。
ここを治める領主だ。
周りへの影響は計り知れない。




