不毛な論争は楽しい
「お前ら権力者のそばには美女しかいちゃいけない決まりでもあんのか!?」
「ねぇけど結果的にあいつが優秀なんだよ! さっきまでのしんみりした空気はどこにいったんだよ!?」
俺とアンリさんがギャアギャア喧嘩になる。
「ならアンリさんよ! あんたの側近になり得る能力を持つ女性が2人いたとする。2人には容姿に差があるが、あんたならどっちを採用する?」
「う、それは容姿が良い方だろうが……。お前もそうだろうが!」
「いーや、俺は2人とも採用するね」
「てめぇ、それはずるいだろうが!」
よく考えて欲しい。
俺はどちらか片方しか採用できないとは言っていない。
更に、側近になり得る能力の持ち主だという事も示している。
ならば、下の者を1人解雇したとしても2人とも採用するのが最適解だろう。
現実社会でそれをするわけにもいかないが、少なくとも仮定の下であれば。
「というわけでQ.E.D! アンリさんは色魔!」
「この野郎好き勝手言いやがって……!」
俺とアンリさんによる聞くに堪えない喧嘩が始まりそうなところでリオンが割って入る。
「はーい、そこまでー。で、パパ。弟君はわたしについてくるってことでいいのかなー?」
「え、あぁ、そうか。その話だったな」
俺もすっかり忘れてた。
「危険はある。だが、バンフリオンちゃんがいる以上、そう簡単にやられることはない。逆にバンフリオンちゃんは身近なやつの1人も守れないようじゃ俺の次は担えねぇ」
なるほど。
リオンのテストも兼ねてるってわけか。
「俺もそう簡単に継がせるつもりはないがな。まぁ、こういうのは早めにやっておくに越したことはない。で、この旅に適しているのがバンフリオンちゃんと接点があり、バンフリオンちゃんより弱く、ある程度信頼が置け、弱いお前だというわけだ」
「ねぇ、なんで弱いって2回言った?」
しかも2回目に至っては比較じゃなかったし。
絶対的に弱いって言われてたし。
こんなところでやり返してきやがったな。
「細かいことは気にするな。で、バンフリオンちゃんはどうしたい?」
「もちろん、弟君と一緒に行きたいよー」
リオンが俺を胸元に抱き寄せる。
俺はぬいぐるみか何かか。
いえ、どんどんやっちゃってください。
「だってよ、どうするんだ?」
「……最悪、逃げてもいいんだろ?」
「もちろんだ。これは完璧にこちらの都合だからな。これで死なせたとなったら俺がヘスティアに殺される」
ちゃんとヘスティアって名前は浸透してるんだな。
「なら、行こうかな」
ここでゴロゴロしてるだけっていうのも捨てがたいけど。
逃げるだけならオーシリアがいればなんとかなりそうだからな。
「やったー!」
「うっ、待て待て! 背骨がっ!」
喜んでくれるのは嬉しいが、ただでさえ馬鹿力なんだから力いっぱい抱きしめるのはやめて欲しい。
俺はぬいぐるみのように綿が詰まっているわけじゃないんだ。




