手詰まり
「では、いきますよ」
レインが周りに右手側に闇、左手側に光を纏う。
陰と陽を司る神って感じだ。
あ、女神にしとくか。
些細な違いというか、どうでもいいことだけど。
レインが集中モードに入り、次々と絶え間なく詠唱を始める。
それにより、右と左、それぞれで魔法が発動され、幻想級へと向かう。
黒い靄も飛んでくる魔法を払いのけようとはしない。
レインがコントロールしているのでしっかり幻想級に攻撃は入っている。
にも拘わらず。
黒い靄はこちらを追うように徐々に拡がっている。
これ触ったらまじでヤバそうだ。
自分を守ること自体はどうせ最初から適当だったからな。
ここでそっちをする必要はないってことか。
こっちを消してしまえば終わりなんだから。
「レイン、あいつの動きがさっきよりも速い。俺が引っ張るから一緒に下がってきてくれ」
レインは右手を顔の前にかざして狙いをつけているので、空いている左手を繋ぐ。
レインは前を見て幻想級から目を離していないが、俺の手を強く握り返してくれる。
了承の合図だろう。
「足元も俺が見るから。レインは幻想級に集中してくれ」
もう1度強く握り返してくるレイン。
よし。
「オーシリア、道を作ってくれ」
「了解じゃ」
後ろ向きで歩くしかないレインのためにオーシリアにステッド・ファストで道を作ってもらう。
幸運なのは、幻想級のスピードが上がったといっても精々歩くくらいのスピードであることだ。
これならレインが集中していても安全に退避できる。
さらに、MP吸収の範囲も特に広がったというわけではないということ。
これがさらに広がっていたら如何にレインでもコントロールが難しくなっていただろうが、先ほどまでと同じ要領なのでそこもクリア。
黒い靄も今はその範囲を出ていないので関係ない。
「キラ! そっちはどうだ?」
「大丈夫そうだよ。流石に頑張ってくれてるね」
俺もレインを誘導するのと、幻想級に注意を払うのが精一杯なので周りのエネミーと皆の戦いにまで気が回らない。
が、キラに見てもらったところ大丈夫ではあるようだ。
「どうしたもんかな……」
下がりながら考えを巡らせる。
どうするんだ、これ。
いくらレインには攻撃する手立てがあると言ってもレインだけで削り切れるわけがない。
これはまだカイルさんに確認を取っていないからわからないが、恐らく幻想級のHPの5割から7割程度を削れたため、こちらを消しにかかったのだと考えられる。
獣人族の皆に頼ったことは間違っていなかったのだ。
やはり基本的な攻撃力が違うのだろう。
だが、彼らもあの靄に触れればどうなってしまうかわからない。
レインの魔法をコントロールすることで幻想級に到達することから、キラはあれを潜り抜けられるのだろう。
だが、それがもし失敗した場合。
最大の戦力を失うことになる。
そして、それは俺たちの負けを意味する。
くそ、ネガティブな考えしか浮かばなくなってきている……。
手詰まりだ……!




