出陣は鬨の声と共に
前途多難過ぎたが、やっと出発にまでこぎつけることが出来た。
いや、前途多難というか、問題が次から次へと起こっていただけなのだが。
本当にいい加減にしてほしい。
「王様、戦闘要員と後方支援要員をわけるのは上手くいったんだよな?」
「そうじゃな。多少不満に思う者もおるようじゃが、無理をして戦線をかき乱しそうなやつは最後方に置くことにしたしの。問題はないじゃろう。いざとなったら、プリンセ嬢。止めてくれ。最悪、というより最善で気絶させて構わぬ」
「……任せて」
もちろん、エルフの少年のことである。
むしろあいついないほうがいいんじゃね?
「じゃ、行くか」
「そうじゃな」
「軽いですね」
「……緊張感がない」
「そりゃそうだ。今から緊張しててどうするんだよ。冒険者の皆さんも見てみろ」
これほど大規模な戦闘は初めてだろうが、お互いに軽口を叩きあって普段通りなように見える。
この軽口のたたき合いはコミュニケーションの一環でもあり、心を普段通りに落ち着けるためのものでもある。
この点においては国の兵隊さんたちよりも冒険者の方が優れていると言わざるを得ない。
兵隊さんたちは緊張して口数が少なくなっている。
「それに、前に立つ立場の俺たちが緊張してたら皆にも伝染するだろ? 表面上だけでも落ち着いている必要があるんだよ」
「つまり、リブレさん?」
「王様はニュートラルだろうが、俺はこれ以上ないくらい緊張している」
「真顔で胸張って言うセリフじゃないですね……」
こちとら世界一平和な国出身なんだよ!
この分野に慣れなんて存在しないの!
むしろ慣れたら駄目だと思うね、俺は!
「王、準備が整いました」
「よし、行くとするかの」
外で人員、銃などの武器、食料などを確認していたキラが報告にくる。
よっしゃ、行こう。
「でも、表面上だけでも落ち着いてるの凄いですね。リブレさんなら大騒ぎしそうなものですけど」
「当たりだ。本来なら俺は大騒ぎしてそれでどうにか緊張を紛らわせようとする。ただ、それもうやってるんだ」
1人でダンジョンに放り込まれるときに散々騒いでたからな。
1人だが。
無限に独り言を言いながら進んでいた。
そうでもしないとあの空間気が狂いそうだったし。
「今回は1人じゃないからな。あの地獄に比べればなんでも周りがいるだけマシだ」
「重みが違いますね」
「実体験だからな」
「ここに集まった皆にまずは礼を言っておく。危険を承知の上でこの人数が国を守ろうと立ち上がってくれたことにじゃ。ありがとう」
頭を下げる王様。
「じゃが、まだ何も始まっておらん。この先に何が起こるのか、カイル殿にも完全には見通せぬようじゃ。じゃが、少なくともそれはわしらにも勝ちの目があることを意味する。わしらに命を預けてくれ。必ず、全員生きて帰る」
それまで静かに話していた王様はここで声を張り上げる。
「出陣じゃあぁー!」
「「「おおおぉぉぉーーー!!!」」」
流石の手馴れよう。
伊達に武勇を轟かせてないな。
さぁ、行こうか。
決戦は明日だ。




