噂の出所
ご飯を食べながらキラの話を聞く。
「まぁ、簡単に言えば、俺がレインとプリンセを脅しててごめにしているって噂が流れてるってことだな?」
「そういうことになるね」
「それは確かに面倒だな」
よくもまぁ戦いまでの短い期間にそんなアクションを起こせるな。
「もちろん、君たちのことを知っているものがほとんどだから、特別信じられているという訳ではないんだけど、なにせ噂だからね」
「流されているやつも一定数いるってことか」
「ご明察」
噂ってのはそれが聞いてる人にとって面白ければ面白いほど信じたくなるものだからな。
だってその方が面白いから。
「だが、察するにそれだけじゃないんだろ?」
「お、流石に鋭いね」
「まぁな。今の内容だけだと悪者になるのは俺だけだし、レインとプリンセは被害者だ。その程度ならキラがわざわざ報告に来ないだろ」
「自分が悪者になっているのを『その程度』で済ませていいんですか……」
もはや今更だろ。
今は大丈夫だが、ちょっと前まで俺は仕事とレインを放り出して放浪していたくそ野郎として追われていたんだぞ。
その程度なら騒ぎ立てるほどじゃない。
「もう1つは、レイン君に関するものなんだけどね」
「僕ですか?」
レインが心当たりがない、という顔をする。
「ちょっと言いにくいんだけどね……。レイン君が、今まで多くの男の人を篭絡してきた、みたいな……」
「言いがかりです!」
あまりの内容にレインが立ち上がって叫ぶ。
「うん、僕は言いがかりだと知っているよ。だから、少し落ち着いて」
「あ、すみません……。でも、あんまりです……! そんなこと出来るはずもなかったのに……!」
今でこそレインは普通に過ごせているが、日本からなにも知らない「エルフだキャッホー!」くらいにしか思っていない俺が来るまではエルフにも人間にも相手にされない生活を送っていたんだ。
そんなことになるわけもない。
「なるほどなぁ……」
そんな内容なら伝えに来るだろうな。
というか冷静であるかのように振る舞っている俺も内心腸煮えくり返っているんだが。
レインは自分がそのように噂されているのがショックというのがでかいようだが、自分の彼女を謂れのもなくクソビッチと言われたら黙ってられないだろう。
ただ、この2つの噂には明確な違いがある。
面白いか、面白くないかだ。
俺のやつのほうは、噂として面白い。
レインとプリンセという実力者を俺が脅しているとか普通に考えたらあれ得ないのだが、そこも含めて面白い。
だが、レインの方は基本的に誰が聞いても面白くはない。
女性を金で買えるとか思っている貴族連中にとってならある意味興味深いことかもしれないが、そいつらは今ここにはいない、
他のやつらが聞いてもただ胸くそわるい話である。
つまり、悪意に満ちている。
そういう噂は自然に発生することは少ない。
十中八九誰かが意図的に流している。
さて、面倒だな。
絶対に許さん。




