眠気は最大の敵
夜。
「1食目は夜ご飯だな」
「その言葉自体が凄い違和感しかないんですが」
「そうか?」
元引きこもりの俺からしたらそうでもない。
むしろ夜行性に近かった。
久しぶりっていう感覚である。
「慣れてみればそう悪いものでもないぞ」
夜ってのは大体涼しいしな。
店がコンビニしか開いていないのは難点だが。
この難点はこの世界ではどこの店も開いていないに変わる。
非常に問題である。
ただ、この世界なら少なくとも俺は大丈夫だ。
なぜなら!
敏腕シェフが2人もいらっしゃるからです!
食材さえあれば問題ない!
「眠いです……」
「……」
2人ともめちゃくちゃ眠そうじゃん。
プリンセに至っては目も開いてないし。
「ご飯は俺が作ろうか?」
「お願いします……」
「……」
プリンセの頭がこっくりこっくりなっているのは肯定なのか船をこいでるだけなのか。
十中八九後者だが。
久しぶりに俺が腕を振るうとしよう。
振るうほどの腕があるのかどうかは別だが。
「野菜炒めー!」
うん、なかった。
というか、もうこれでいいやという妥協が入ってしまった。
2人の料理のクオリティが凄すぎてこういうシンプルな料理をこの頃食べていないのだ。
よってもはやこういうのもおいしく感じる頃だろうと思ったのだが。
「やっぱり野菜炒めって純粋に上手いよな……」
「そうですね……」
「……」
2人とも一応口に食事を運んではいるのだが、噛めているかが非常に疑問だ。
俺がモグモグだとしたら、レインはもしゃもしゃ、プリンセはもむもむって感じの口の動き方をしている。
大丈夫なのか。
いきなりのどに詰まったりしないだろうな。
「このソースはどうやって作ったんですか?」
「それは俺の研鑽の成果だ」
2人がご飯を作っている間、俺は何もダラダラしていたわけではない。
念願の焼き肉のたれを作るために四苦八苦していたのだ。
俺の理論なのだが。
焼き肉のたれさえかけていればどんな炒め物でも美味しくなる。
必ずだ。
ただ、惜しむらくは。
こっちには米がないのだ。
焼き肉のたれが一番合うのは米と一緒に食べている時だから。
異論は認めない。
だが、この度の研鑽において近しいものを作れることはわかったからな。
いずれまた魔界に訪れることがあったら作ろう。
米と一緒に食べたい。
パンとだとちょっと味気ないな。
まぁ、なにに労力をかけてるんだと言われればそれまでなのだが。
日本人ならあのおいしさをもう一度と思うのは当然のことだろう。
「……んにゅー……」
プリンセが眠さでフラフラしている。
「あんまり無茶しなくてもいいぞ?」
「……んー」
目をこすりこすり頑張って起きているプリンセ。
まだ6歳だからな。
こういうタイプの無茶は難しいだろう。
時々まだ6歳ってこと忘れそうになるけど。
「あー、風呂入ったらちょっと眠気は覚めるけどな」
「……ん、入る」
ちょっと目が生気を取り戻すプリンセ。
女の子ってなんかお風呂好きだよな。




