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自動再生能力

作者: えだらく

私には、どうやら特別な能力があるみたい。でも、あまり役に立たない。

一度頭の中でこれからする行動を設定をすれば、別のことに集中しながらでも、その行動を一定時間続けることができる、という変な特殊能力。

例えば、「今からノートに五分間丸を書き続けて」と一度頭に設定すれば、その後の五分間は、どれほど別なことを考えてもその行動を続けることができる。「今から先生が黒板に書く事を、この授業が終わるまで書き写し続けて」と設定すれば、その後どんなに大好きな三浦くんのことを考えたって、授業が終わるまで板書は止まらない。

行動と思考を分離できるその力を、私は「自動再生能力」と名付けた。かっこいいでしょ、名前だけ聞くと。

でも、自分が本来できないことは、設定しても無理みたい。試験の時に、「チャイムがなるまで問題を解き続けて」と設定しても、私に解けないものは解けない。持久走の時だって、ずっと走り続けているのは身体的にも精神的にも辛いからって、「ゴールするまで走り続けて」と設定しても、自分の限界は越えられない。いつもの私の体と心が疲れた分だけ、ちゃんと減速する。

欠点はまだある。それは、一度設定した行動は、設定した時間が来るまで、絶対に止まらないってこと。「思考の私」がいくら、「もうやめて」って言ったって、「行動の私」は止まらない。狂ったみたいにその行動をし続ける。いくら脳を動かしたって、体が動いてくれないのだから、その時は結構自分でも怖い。

小さい頃はこの力を、特別なものだとは気づいてなかった。みんなが当たり前にできるものだと思っていた。だから、それが特別だと言われた時は簡単には信じられなかったし、気づいたときにはその力を怖くも感じた。でも、その自分に対する畏怖は、脱皮した蝉が死んでいくぐらいに早くに消えて、しばらくの間その能力を楽しむようになった。退屈な行動を任せて、もっと別の楽しいことを考えたり、したくないことをしなければならないときに、関係ないことを考えたり。普通はつまらない時間を、充実した時間に変えた。

でも、そこから満足感を得られていた時間も、そんなに長くは続かなかった。自動再生能力を使っている間に「行動の私」が行ったその体験は、身にしみることはなかったから。「行動の私」がノートに書き込んだことを、時間が経って一つになった私が記憶していることも、学習していることも、理解していることもない。完全に欠如してしまう。それに、「行動の私」が、誰かに話しかけられたり肩を触れられたりしたって、設定した行動にそのことが含まれてなければ、反応することはない。私の想定外のことが起きてしまったら、対応できないのだ。

そのおかげで、その能力を多用するようになってから、みんなから集中力を褒められるようになった。褒められるのを通り越して、「集中すると何も見えなくなったり、聞こえなくなったりするそのくせ、直したほうがいいよ」と注意されたことだって、何度もある。

思春期を迎えた頃から、ほとんどその力を使うことはなくなった。人と違うと思われることも、自分でそれを感じることも、どうしようもなく嫌だった。できればもう失いたいとも思った。それに、この能力が一体何の役に立つのか分からなかった、というのもある。たとえ使うことを自分が許したところで、使いどころが全くもって思いつかなかった。

だから、大人になった今の自分が、この能力を使ってお金を稼ぎ、時には人を救っていることだってあるということを、もしも昔の私が知ったら、どれだけ驚くだろう。簡単には信じないのかもしれない。

だって、今の私でさえ、信じられないもの。こんな自分に、日々、驚いてばかりだ。でも、自分が誰かの役に立っているというのは、とても心地が良い。嬉しい。

だから、私の力に気づき、その使い道を教えてくれた三浦くんには本当に感謝してる。この力を使っているときの体験は、私には欠如しているんだけど、三浦くんが褒めてくれるし、役立ってるって言ってくれるから、きっといいことしてるんだろう。とても嬉しい。

三浦くんの不思議なのは、「思考の私」に語りかけることができること。今まで「自動再生能力」を使っている時は、自分自身の精神世界以外の情報は全く感じたことがなかったのに、三浦くんの声だけは違った。やっぱり、私にとって三浦くんは特別なのかな。

たまに三浦くんの声がしばらく聞こえなくなったりして、寂しくなったり心配になったりすることもある。でも、後悔したことなんて一度もない。

だって私は、「死ぬまで三浦くんの言う通りにする」って、自分で決めたから。


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