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フェイスブック

作者: 作者

「おぬし!それは真か!」

僕の大学の友人の山本くんは忍者です。

実家が代々忍者の家系みたいで、リアクションも割と古風です。

「某」とか「拙者」って普通に言います。

最初は彼の一挙手一投足に驚かされっぱなしな僕らでしたが、

今じゃ同じ英語のクラスの全員がそれに慣れ、男性陣は週5で遊ぶ仲です。

今日も授業終わりが被ったので、僕と山本くんは駅前のスタバで、

他のみんなの授業が終わるまで時間つぶしをしていました。


「本当だよ。ほら、名前を入れると検索もできる」

その間に、僕は山本くんにフェイスブックを教えることにしました。

大学に入学する前の彼は、実家の山から高校まで3時間以上かけて通っていたらしく、

毎日家と学校と修行場所の行き来で、「携帯?連絡手段は鳩じゃないのでござるか?」状態でした。

大学に入って一人暮らしを始めて、初めて携帯電話の存在を知ったそうです。

「高校のクラスメイトが持っていたのは、すずりじゃなかったでござるか」と少し寂しそうに呟いていました。


それを聞いた英語クラスメンバーの大河内くん(お金持ち)が、

山本くんに携帯電話とiPadをプレゼントしてから、彼に使い方やネット環境について、

僕らは交代しながら解説をしているのでした。

ちなみに、コーヒーは授業代で山本くんの奢りです。


「これは…標的の捜索にも有効でござるな」

標的とは何なのか気になる所ではありますが、僕はスルーして話を進めます。

山本くんは時々怖い(と思われるような)ことを言いますが、基本いい奴です。


「まずは登録しなくちゃだね。ほら、名前とかメアドとか入れていって」

iPadをたどたどしい手つきで扱う姿は、少し可愛らしいです。

背は僕よりも少し小さくて、大体165cmくらいでしょうか。

頭はスポーツ刈りぐらいの短さで、見た目だけで判断すると、中学生の弟のようです。

でも、足は超早くて喧嘩は超強いです。

画面に出た「位置情報を取得します」という一文に忍者として少しきょどっていましたが、

無事に登録が終わりました。早速僕が友人申請をします。


「おおお。申請が来たとお知らせが来ておる。…罠の可能性はあるか?」

ないのですが、少し焦らします。

「うーん、これはokなパターンだ。いや、ほとんどokなんだけどね」というと、

すごく嬉しそうに登録ボタンを押しました。

友人が一人追加されて、山本くんはウキウキしています。


「高校時代、好きな娘とか居た?探せるけど」

「え?え?いや、好きな子?いや、その。居ないわけじゃないでござるが」

だいぶパニックになっていたので、追求はしませんでした。

話を代えて、「今居る場所とかここにアップできるんだよ」と教えてあげると、

「やってみるでござる」と、「駅前のスタバなう」と近況を更新しました。

やっぱり嬉しそうでした。その後もフェイスブックの機能についての話は盛り上がりました。


「コーヒーのお替りいかがですか?」

店員さんが寄ってきて、僕らのほぼ空になったカップを見つけて、コーヒーを注ぎます。

「でも情報の公開範囲が全体になっているからちょっと注意だね。友達だけの公開にする?」

と山本くんに聞きながら、僕は違和感の正体に気づきます。

あれ?スタバってお替りとか持ってきてくれたっけ?


「御免!」

そう言いながら山本くんが僕の頭を押さえて防御態勢を取ります。

あっという間にどこからか吹き出した煙が僕らを覆います。

「え?iPadの故障?」「いや、煙はコーヒーから出ておった。敵襲じゃ。少し待っていてくれ」

そう言うと山本くんは僕の視界から消えました。


一緒にいるとたまにこういう事態に巻き込まれます。

でも、毎回必ず山本くんが守ってくれるから安心です。

僕はモクモク煙を吹き出すコーヒーを不思議そうに眺めながら、静かに事が終わるのを待ちます。

煙の向こうから、声だけが聞こえてきました。


「拙者だけを狙うのならまだしも、大切な友をも巻き込むとは…許さん」

空気がピンと張り詰めた気がしました。殺気。

山本くんはプロなので、普段はその気を上手に隠せるそうですが、

本気で怒っている時はうまく隠せないんだ、といつか笑っていました。

今がその隠せない時なのでしょうか。「大切な友」のくだりは、少し嬉しくもありました。


一瞬。風が僕の顔に当たったかと思うと、煙と一緒に人が吹っ飛んでいきました。

遅れて聞こえる音。散る粉塵。

大人一人が店の端から端まで吹っ飛ぶほどの衝撃の一撃。

もちろん、撃ったのは山本くんです。

山本くんはその人を先回りして受け止めると、

「業者に受け渡してくるでござる」といつもの調子で言って、消えました。

どうせ受け止めるならあんなに吹き飛ばさなきゃいいのに、と少し思いましたが、

それもまた忍の技なのでしょう。

店員さんがだいぶ驚いていましたが、僕が「すごかったですね、撮影ですかね」と言うと、

頷いて何も言わなくなりました。


「ごめんね、僕がフェイスブックに誘ったばっかりに」

戻ってきた山本くんに僕は平謝りをします。

もしかしたら敵はあの情報からここを突き止めたのかもしれません。

そうなると、そんな情報を流すことになったのは完全に僕のせいです。


「何を言うでござるか。これ、お気に入りでござるよ」

そう言いながら、山本くんは嬉しそうにiPadの画面を僕に見せます。

そこには、山本くんのプロフィール写真に堂々と一人で写っている僕が居ました。

慌てて突っ込みます。

「いや、これはね、基本自分の写真を載せるんだよ。

ホラ、本名で登録しているわけだし、他の人の写真はあんまり使わないかな」


思わず笑ってしまいました。

でも、もしかしたら、これも山本くんの優しさなのかもしれません。

「なるほど、そうでござったか。これは失礼した。早くみんなともつながりたいでござる」

ウキウキしている様子です。山本くんは本当に良い奴です。

「あ、でも某の本名は山本ではないが大丈夫でござるか。

某、本当は服部半蔵と申す。あ、友達以外には秘密でござるよ」



ちゃんちゃん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忍者にフェイスブックを教えるという発想が面白いですね^^ 作品としても読みやすくてよかったです。
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