『実力』と、それを包む邸宅 その9 ―じゃ ぶぇ―
二人は、勉強を始めました。
少しして、
「暑くない?」と、"ジュネス"。
始めて幾分も経たないのに、集中力が切れた様です。
「それ程でも」と、"摂"氏。
「暑かったら言って。クーラー入れるから」
「大丈夫です」
実際、ダイニング・ルームは風通しが良く、寧ろ風が強いくらいでした
――壁がない位。
再び勉学に励みます。
しかし、
「オレ、クーラー入れると腹壊すから――」と腹を押さえる"ジュネス"。
「ええ、以前その様に言っていましたね」
"摂"氏は以前、"ジュネス"と学校で一緒の時を過ごしている時、実際に
「腹を壊した」
という告白を耳にしたことがありました
――そして、腹痛を緩和させる薬を、常に鞄に入れている、という添付情報も。
"摂"氏には、その腹痛が、食中毒によるものか、神経性のものか、判断がつきませんでした
――専門家ではありませんから。
「それに、ここは風通しがいいから」と"ジュネス"は、窓に目を向けます。
「その様ですね」
カーテンが、はためいていました。
そして、外の景色を見せては――隠す。
しかし、見えるモノは、基本的に<夜>だけ。
その後、二人は、テストの準備を続けました。
間、
すこし会話し、
すこし集中し、
すこし食べ、
すこし飲む。
あとは、これまでに多くが書いてきたことを目で追い、それまでに多くによって書かれた意味を、文字を使って繰り返すだけ。
"摂"氏は、"ジュネス"の目論見通り、役に立った様です。
"摂"氏の前では、誰もが
「ゲームしようぜ」
等と、その時に<しなければならないこと>からの逃げ、その一手を提案することが躊躇われますので
――別に、"摂"氏がシェイクスピアのソネットを唱えている訳ではないのですが。
そのまま夜が更けていく――
そのうち、"摂"氏は、苛立ってきました。
そして、それを"ジュネス"は感じ取っていました。
"摂"氏は、基本的に<テスト勉強>、<ヤマ勘>や<一夜漬け>というものが必要ないのです。
することは、記憶として情報が定着しているか、確認することだけ。
だからこそ、"摂"氏は<復習>を重点的に、長時間行わなければならない時、そして実際に長時間我慢した時、<焦燥感>に駆られるのです。
<<自分はいま、全然、前に進んでいない>>
<<新しいことを何一つしていない>>
そして、その焦燥感は、<別のこと>
――その時、"摂"氏が知らないこと――
それを学びたいという、強い願望に変化するのです。
しかし、テストというものが社会の中、学校制度の中で占める割合――そしてその中で生きなければならないヒトにとっての重要性――それらを理解していない訳ではありませんでしたから、従っていました。
それでも、願望を抑えることはできません。
実際、"摂"氏はそれを隠そうとも、明らかにしようともしませんでした。
勿論、"摂"氏は、普通のヒトとは違って、八つ当たりをしません。
それでも、周囲は感じ取るのです
――しかし、周囲は「何故か?」を感じることは出来ないのです。
"ジュネス"は両手を後頭部に組み、楽観的な響きで、
「あーあ。飽きた。音楽でも聞く?」
「いいですね」
そして、"摂"氏は目を教材から離し、ペンを置きました。
"摂"氏の真摯な顔を見てから、"ジュネス"は椅子を引いて、立ち上がりました。
"摂"氏は伸びをしました。
その後も
「ぱらぱらぱら」
と落ちてきて――"摂"氏は目を瞑ります。
空から何かが、たくさん落ちています――しかし、顔に当たっても、痛くはありません。
落下はすぐに止みました。
それは、驟雨の様でした――驟雨というより、驟雹の方が表現としては近いのでしょうが。
目を開けた"摂"氏 は、目の前に落ちたひとつ――その白い塊を三本指で摘まみます。
やはり人間の歯です――真っ白な歯。それでも見る向きを変えると、黒く、窪みがある事がわかります。
しかし、それより、空から歯が降ってきても何ら驚きの念を起こさなかった自分が"摂"氏には<驚き>でした。
「やはり、ここは地獄………?」
すると、
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
と悲鳴が聞こえました――遠くで。合唱の様に。
"摂"氏 が<何事か>と――#何か#が実際に発生するまで、坐ったまま待機していると、すぐに<動き>が見えました。
地平線に、何か影――<カタチ>、が生まれたのです。
#その形#は<日の出>というより、<土竜>のように見えました――ドラゴンとは程遠い#それ#………それも、大量に。
"摂"氏は、目を凝らします――その、無数の<何か>は、時間の経過と共に地平線の上、姿を拡大していきます。
そして、"摂"氏は気付くのです――土竜がよく行う様に、大地が実際に盛りあがったのではないのだと。
#それ#は、ヒトなのです――貧相な体つきをした、裸の人間。
そして、大量の#それ#が、"摂"氏がいる砂利道の方へ、ダッシュしてくるのです。
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