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温度  作者: 折鋸倫太郎
『実力』と、それを包む邸宅
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『実力』と、それを包む邸宅 その7 ―亜流でしょ?―む だ―「分かっている筈」

 母屋の玄関スペースに、二人で戻りました。

 玄関スペースのカーテンは、全て、例外なく、下ろされて、空間は視覚的に、閉め切っています

 ――風通しは良いですが。


 「こっち」


 と"ジュネス"。

 そして――裏口から入ったので、左手の――ダイニング・ルームに、"摂"氏は誘われます。


 ダイニング・ルームに入ると、

 これまでも高級感に溢れていた、例外のない""ジュネス"邸のエクスペンシブな印象をこれでもか、と――シャワーの様に歩きながら受け続けていた"摂"氏――もうびしょ濡れ――それでも現実的には汗――でしたが、その認識が甘かったことに気付かされます。

 ダイニング・ルームは、玄関や裏庭などより、より高級なモノが集められている部屋でした。


 [しかし、最高級が集められている部屋ではありません]


 部屋の真ん中には色の濃い、焦げ茶色の木製長テーブル、そしてそれに添えて――上座と下座一席づつ、そして両側に四席づつ――計十人が一度に坐ることが出来るだろう椅子があります。


 [机と椅子の素材に関しては後述します]


 それだけではありません。

 部屋の隅で、「プリム」に台座に乗った、彫刻。

 プラスティックケースをかけられた皿。


 「これは?」


 と"摂"氏が指して訊きます。


 「ああ、ウチの親父の友達が歴史好きだから。何か昔の皿――でも裏にヒビが入ってるらしいから、価値はぜんぜんないんだって――補強してあるからそうは見えないらしいんだけど」


 「使用はしているのですか?」


 「しよう?――しようはしないよ――あ、でも、その知り合いが来て、前にディナーした時は、出してた」


 そして、壁にかけられた、額縁を付された、大きな絵

 ――ひと目で、現代アートと分かる。

 比較的――写実的であり、抽象や実験は微塵もないが、完全に現代アートの時代を通過し、学術的知識を得て<フツー>に見える古典的テーマを用いてることが、色使いから分かる。


 [多くが、あるべきである、とする色を、あえて、使用していないのだ]


 輪郭の揺れは、現代的に書きすぎない様にしているが、現代的技法に、多分に魅力を感じている様があらわれている。


 「こんなん出ましたけど」


 「明日は晴れでしょう」


 と梅雨時に占い師が言う位、不確かな分析。


 "ジュネス"邸、ダイニング・ルームの壁には、金色の板が張られています。

 それは金そのものではないでしょうが、<豪華である>という記号として、十分役に立っています。

 単なる金ではなく、幾何学模様――ダイヤが基本形――の線で、区切られています。


 [ほら、丁寧語を使って、作者が<下から目線>であって欲しいんでしょ?――努力もしないで――「努力してる!」――フリをしている]


 よく見ると、ダイヤの線も、金で出来ています。

 しかし、板の金とは素材が違う様です。


 それら吟味が終わってから、"摂"氏は席につきました。

 "ジュネス"は、その様な詮索が慣れっこなのでしょう。

 無表情でした。

 そして、椅子の背に掌を乗せて、


 「~~~~~好き?」


 細部がぼやけて、最も聞かなければならなかった部分を聞きのがしたので、訊き返すと、


 「ミートパイ」


 そして、頬が緩んでいます。


 「は、好きですよ」


 "摂"氏は、


 <<しつこい>>


 とは思いませんでしたし、言いませんでした

 ――無価値なヒトとは違いますので。


 「いただきます――ミートパイ」


 と、"摂"氏は作り笑いで、嘘をつきました。


 「いいね――オレ、大好物なんだよ――さっきも食ったんだけど」


 「わたしも大好物です」


 と、また嘘。

 

 「そうなんだ――知らなかった」


 「わたしも知りませんでした――」


 その時、二人の、曖昧だった関係が露呈しました。

 多くの、所謂<友達>という関係も、お互いの<大好物>を知っているとは限らないのでしょう。

 同じことをし、同じ時間を同じ空間で過ごす――それでも、知らないことがあるのでしょう。


 二人は、他人でした――その他大勢と、同じ程度に。


 「じゃあここで待ってて――いま取ってくる」


 と、"ジュネス"。


 「はい」


 「飲み物は?」


 と、振り返りざま。


 「何がありますか?」


 「炭酸とアイ――」


 「炭酸で」


 続いて、炭酸の中から、メーカーを詳細にする様に促され、"摂"氏が、


 「何があるので?」


 と尋ねると、その提案としていくつかのうち、出された一番はじめのものを伝えました。


 ダイニングの隣にあるキッチンに向かう背中を見ながら、"摂"氏は勉強道具を、テーブルに並べ始めました。

 そして、内心、ほ、としていました。

 "摂"氏は飲み物の――いくつかの――選択肢が与えられた時、極力、二つ目の選択肢を相手に出させないようにしていました。

 最初の選択肢は、相手に<何かしらの理由>――それは状況に依ります――で最も勧めたいモノが来ることが多く――二、三は優先順位はさらに低い事になり――よって、たとえ選択者が二、三の方を、一より、より好ましいと思うしても、二、三を選ぶことによって、一を最初に勧めた相手に、内心、不満を抱かせることになるのです


 ――それが、<最悪の結果>となるかどうかは別問題。


 それが分かっているからこそ、"摂"氏は相手が提示してきた選択肢のうち、最初のモノをなるべく受け入れる様にしていました。

 それにニッポンの緑茶であるなら話は単純で、楽ですが――濃さと熱さを客は操作できないので――他のティーやコーヒーになると、砂糖やミルクの有無についての議題を戦わせなくてはならない為、それが常に


 「甘くても、苦くても、どちらでも――毒でさえなければ」


 という、思考の結果として生産的結論が得られる蓋然性が低い様に思われる問題に極めて無関心を貫く"摂"氏にとっては、選択肢を与えられて選択する権利――または義務――を一方的に与えられること自体が苦しいものでした。



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