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温度  作者: 折鋸倫太郎
暗号
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黄昏と暗号 その8 -オチ―

 「また来た…」


 と、携帯電話を握り、"ベラ"が言う。


 「どう?」と、横から、上目使いの"ベラ"の友達。


 「ひらがな・小文字の『ぉ』と、ひらがな・小文字の『ょ』が入ってる…」


 部屋には、"ベラ"が小刻みに動かす親指の連打――その振動音――だけが、かすかに響いています。

 折り畳式携帯画面をのぞく"ベラ"は俯いて、不安そうです。

 "ベラ"の友人は、そっと手を、"ベラ"の腕に添えました。

 友達ですからね。

 情報を吟味した後、顔を上げて、


 「どうしよう?」と"ベラ"。


 友人をまっすぐ見てから、ちら、と"摂"氏を見ました。

 ――すぐに視線を外します。

 "摂"氏が言います。


 「どうしようもありません――"Z"くんは、あなた("ベラ")に対して、六つの暗号パターンを繰り返すだけですから。これからも、それが続くでしょう。ですから、これから取るべき手は…」


 二人は、"摂"氏が切り出すのを待っています。

 十分に間を取って、


 「手段は三つあります」


 「それは?」


 「ひとつ目は、暗号など何も知らないフリをして、これまで通り、過ごすこと」


 「二つ目は?」


 「直接、"Z"くんに暗号の内容が何なのか、尋ねる事。三つ目は――」


 そこで、"摂"氏は黙り込みます。


 「わたしだったら、ですが――同じ暗号を、"Z"くんに送ってみる」


 「送ってどうするの?」


 と"ベラ"が尋ねます。


 「様子を見るのです」


 「様子を見る、って…」


 「メールの内容が、あなた("ベラ")に対して悪いことでしたら、"Z"くんは『気付かれた!』と思い、態度を変えるでしょう。睨んだり――余所余所しくなったり。良い事だったら、逆になるだけです」


 「変えなかったら?」


 「知りません」


 「そんな!」


 「"Z"くんは、あなたに気づいて欲しいからこのような暗号を送っているのでしょうから、暗号をパターンに沿って送りなおせば、少なくとも、あなたが送られている暗号の存在に気づいたこと――それを示すことは出来ます」


 「暗号が『ムカツク』とかだったらどうするのさ!」


 「知りませんし、興味がありません――それに『ムカツク』は四文字です」


 「ふざけんな!」


 「あとは"ベラ"さん本人が決めることです」


 上記会話が終わった後、しばらくの間、"摂"氏と"ベラ"、そしてその友達が会話をすることはありませんでした。

 ――視線を会わせることもありませんでした。



 しかし、そう月日が流れていないある日のこと、"摂"氏が何気なく風景を眺めていると、"Z"の姿がありました。

 その手の中には、携帯電話。

 その目線の先には――


 もちろん、"ベラ"。


 "ベラ"は相手の視線に気づきながらも、気づいていないフリをしています。

 "ベラ"の友人も、そうしています。

 仲間に囲まれた"Z"は熱い眼差しを、少し離れた"ベラ"に向けています。

 仲間が何か話しかけていますが、生返事であることは、遠くからでも分かります。

 そんな仲間も――視線の先を追うことで――二人の間に何かが起きているのことを気づいている様子でした。


 その次の日のことでした。

 クラスでは、噂話がありました。


 「"Z"のヤツ、"ベラ"に告ったってよ」

 

 「そういえば放課後、なんか"Z"のヤツ、"ベラ"を呼び出してたな」


 「でも、あいつら前から結構、仲良くなかった?」


 「うん――でも、ずっと"ベラ"は『付き合ってない』って言い張ってたよ」


 「"Z"も『好きなヤツなんか』いないとか言ってたぞ――嘘つきだな」


 その時、教室のドアが開きました。

 クラスの視線を受けて、それまで親密に話し合っていただろう"Z"と"ベラ"は突然、距離を広げました。

 はにかんでいました。

 そして教室に入ると、それぞれの机に向かって、別れました。


 "Z"の仲間は、挨拶をすると、普段通り。

 "ベラ"の友達も、挨拶をしてから、普段通り。

 しかし、彼らは、明らかに以前と異なっていました。


 「あたし/オレは事実を知っている」


 という自信があるかの様でした。



 その日一日、二人は――教室内では――絶対に視線を交わしませんでした。

 ――話さえも、控えていました。

 昼食も共にしませんでした。


 クラスには、囃し立てる人間もいませんでした。

 しかし、その日、誰もが二人のことを考えていたのでしょう。

 ――"摂"氏も例外ではありません。


 下校時間となると、それまで別れていた二人は、自然とひとつになりました。

 その周囲を、友人や仲間たちが囲みます。

 そして、ひとつの集団ができました。

 そして、移動が始まります。

 ――それを<デート>と言うのでしょう。

 "仲間"でも"友達"でもない人たちは、普段通り――解散。

 しかし、それでもその日、誰もが、何かしらの変化を体験したことは、間違いがありません。


 結局、恋する二人は卒業を期に別れてしまうらしいのですが、それまで幸せな関係を維持したことでしょう。

 ――知りませんけどね。



――『黄昏と暗号』の了――

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