黄昏と暗号 その7 ―性が無関係になった時―
何十本目か、メッセージを確認した時、"ベラ"の携帯が鳴りました。
「"Z"からだ」
「おそらく、そのメール文中には、カタカナ・小文字の『ィ』がどこかにあり、最後の文字は、ひらがな・小文字の『ょ』でしょうね――あなたがわたしに嘘をついていなければ」
と"摂"氏は告げました。
"ベラ"の友達は尋ねます。
「あってる?」
携帯に視線を落としたまま、"ベラ"は頷きます。
「わかりました」
そう言って、"摂"氏は、<何か>を紙に書きつけて、二人の前に差し出しました。
そこには、簡単に、
1、ィ ょ
2、ぉ ょ
3、っ ヤ
4、ォ や
5、ィ ょ
6、ッ ヤ(*図)
と書かれています。
"摂"氏が、
「暗号は、ずっとこの六パターンを繰り返しています。わたしが推測するに、<三文字>か<六文字>、または<十二文字>の言葉――または文章――でしょう。"Z"は明らかに<何か>を、あなたに伝えようとしています。いつごろから、こういう文章が始まりましたか?」
「わかんない――昔すぎるメールは、消してってるから」と"ベラ"。
「それで、その暗号、どういう意味なの?」
と"ベラ"の友達が介入します。
「分かりません」と"摂"氏。
「なにそれ――」と不満顔の"ベラ"。
「わたしには、暗号で隠されたメッセージが<三文字>か<六文字>か<十二文字>だろう、としか言えません――あまりにも材料が足らないのです。暗号は、ある程度材料が揃わないと、尤もらしい答えが予想可能となる程度まで、範囲を絞りこめないのです。わたしは、メール文の文尾(図2列目『ょ』等)が母音を表していて、もうひとつの小文字の方(図1列目『ィ』等)は子音を表しているだろうと推測していますが、違うかもしれません。まだ、それらの具体を予想する段階にはありません。
現時点では、類似した文字である『ぉ』と『ォ』、『や』と『ヤ』、これらが、どの様な関係にあるかさえ分からないのです――それら二つは違うのかもしれないし、同じ文字かもしれません。
文字はアルファベットかもしれませんし、母国語のそれ、かもしれません。わたしの知らない言語――まぁその可能性は低いでしょう――"Z"の語学力ということを考えると。もちろん、可能性はゼロではありませんが。とにかく、これだけでは――もうすこし変種がないと――」
「三文字か、六文字――十二…」
と"ベラ"の友人が思案顔。
"ベラ"は指を折りながら、
「『お前キライ』」
「そうですね。でも『今日は晴れ』かもしれません」と"摂"氏。
「『宿題見せてくれない?』かもよ?」
と、"ベラ"の友人が笑います。
「そうかもしれません――メッセージが三文字では無いのだとしたら。しかし、その様なことをいくら考えても、いまの時点では無駄だろうとしか言いようがありません」
「三文字か、六文字か、十二文字じゃない場合はあるの?」と"ベラ"の友達。
「"Z"くんは必ず、六番目の『ッ』と『ヤ』が来たところで、文尾に句点(『。』)をつけて、パターンを区切っています。他のメールの最後には、句点は無いでしょう? 三か六か十二文字でない場合、パターンを踏襲する必要がないと思います。わたしは他にも、文字数や、カタカナと漢字の挿入具合から別の可能性も考えましたが、少なくとも現時点で発見できたのは、この六つのパターンを踏襲しているということだけなのです」
部屋には、沈黙がありました。
「あいつ、ふざけんじゃねぇよ――気持ち悪ぃ」と"ベラ"――独り言。
「下品な言葉」
「ん?」と"ベラ"が聞きかえすと、"摂"氏はまっすぐ見返して、
「下品な言葉遣いですね、と申し上げたのですよ」
"ベラ"は睨みつけました。
「少なくとも、"Z"くんが<あなたに対して伝えたいこと>を隠したかったら、巧妙に隠すと思います――知られたくなったら、句点などの区切りを入れたり、わざわざパターンを残したりはしませんよ。そもそも、暗号なんてまどろっこしい手を使いませんよ。その言葉は、あなたに知ってほしいことであり、そうでありながら、あなたに直接、口頭では伝えられないことなのでしょうね。そしてその内容は、あなたに対して否定的なものではないと思います――そうでなければ、仲良くメールのやり取りをしたりしないでしょうから」
場の雰囲気が悪くなったのを感じとって、"ベラ"の友達がとりなしました。
その時――メールの着信音。




