黄昏と暗号 その6
"ベラ"の友達が身震いした翌日、ちょうど"摂"氏と"ベラ"とその友達、三人だけが同じ空間に取り残された時がありました。
"ベラ"の友達は、"摂"氏に話しかけました。
「きのうの話なんだけど…」
背後には、"ベラ"がいます。
そっぽを向いています。
視線が会いました。
「"ベラ"もあの話、ちょっと気になるからって…」と友達が言うと、
「"ベラ"さん、とつぜん『あなたのメールを見せてくれ』等と発言し、大変申し訳ありませんでした」
と"摂"氏は頭を下げました。
「もういいし…」
「それで、きのうの――暗号の話なんだけど――」
と、友達が介入し、話を進めようとします。
「ええ。確認しても構いませんか?」
そう"摂"氏が尋ねると、"ベラ"は携帯電話を取り出し、画面を"摂"氏に見せようとしました。
しかし、"摂"氏はそれを手で遮るジェスチャーをしてから、
「いえ、結構です――メールそのものを見せていただく必要はありません」
"ベラ"とその友人が怪訝を見せたので、
「わたしが質問しますから、ただ答えて下されば良いのです」
そして、"摂"氏は質問を始めました。
1、「一番最後に"Z"くんから送られてきたメールは、すべて、ひらがなで書かれていますか?」
答え:いいえ。カタカナが混じっています。
2、「その中に、漢字か数字はありますか?」
答え:いいえ。ありません。
3、「すべて、大文字ですか?」
答え:いいえ。小文字も混じっています(小さい、カタカナの『ッ』が入っています)。
4、「その他に、小文字はありますか?」
答え:ありません。
5、「メール本文は、全部で何文字ですか?」
答え:五文字です。
6、「その五文字のうち、一文字目は、ひらがなで大文字ですか?」
答え:はい。『ど』です。
7、「その五文字のうち、最後の文字は、何ですか?」
答え:カタカナ・大文字の『ヤ』です。
8、「先程おっしゃった、カタカナ・小文字の『ッ』は、最初から数えると何番目ですか?」
答え:二文字目です。
9、「五文字のうち、三番目の文字は、ひらがなで大文字ですか?」(「ああ、もうこれ以上、その文字が具体的に<何か>を伝える必要はありません」)
答え:いいえ。三文字目は、カタカナで、大文字です。
10、「四番目は?」
答え:ひらがなで、大文字です。
11、「その五文字の中に、読点(『、』)か、句点(『。』は挿入されていますか?」
答え:はい。文章の最後が、『。』で終わっています――『、』はありません。
12、「文章を構成する五文字の中、スペースはあけられていますか?」
答え:いいえ。
この様に質問が繰り返されました。
質問をしている間、"摂"氏は"ベラ"の緊張を解こうともしませんでした。
――カウンセラーではありませんから。
問答の間、"ベラ"の友達は一切、口を挟まず、そばで心配そうに見守っていました。
"摂"氏が、"ベラ"宛に送られてきた一番最後のメール、その属性を確認した後、二つ目(つまり、最後から二番目のメール)に取り掛かろうとした
その時――
ドアが開き、別の生徒の一群が入ってきました。
三人は会話を止め、
「後でね」
そして、<後で>、同じことを繰り返します。
T字のプロペラ部分が
「くるくる」
回転を続けています。
命令に対して従順な姿勢を続けている間、"摂"氏は、そのプロペラを観察する事にしました。
それは、筒を十字に組んだ様な形でした――それぞれの先、四か所には丸く、黒い穴が開いています。そして、その穴には、ガラスで蓋が施されているのです。
両腕が痺れてきました。さらに、喉が渇いた、と"摂"氏が思った――その時!!!
「数字」
とロードローラーから声がします。
驚きのあまり身体――と踵を少し浮かせると
「動くなと言っているだろう!!!」
そして、"摂"氏は両手を揚げたまま――相手の意図を掴みかねて戸惑っていると、
「数字!!!」
と繰り返されました。
開いた掌が汗ばんでいる様に思われました。
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