黄昏と暗号 その5
コードの詳細が書かれたメモが流出しても、 "Z"は怒りませんでした。
<友達>でしたから。
しかし――当然――<"Z"の仲間>の規模は、縮小する結果となりました。
そして、<親友>でも<仲間>でもない、浅薄な<友人>という概念に満たない様な関係の隣人でさえも――これを期としたのか――<"Z"とその仲間>との関係維持が妥当かどうか再考察し、遠ざかる様になりました。
それでも、"Z"は暗号文を教室で廻すことを止めませんでした。
――上記出来事は、"Z"に、解読までの道のりをさらに険しくさせるよう決意させただけでした。
ある日、"摂"氏がクラスメイトに
「ねぇ、こんな手紙が捨ててあったけど、この暗号、分かる?」
と愚直に尋ねられた時に見せられた紙には、数字が書いてありました。
だいたい"400"位の数字のうちのどれかが、三十個くらい、ランダム――に見える様に――並べられています。
それを見た時、"摂"氏は悟りました。
これは<挑戦状>なのだと。
数字で出来た暗号のうち――有名な手法で――本のページ番号だけを記し、そのページに記載された文章の最初のアルファベットを順番に追っていくと暗号が解読できる、というモノがあります。
これは解読する上でも難しい部類に入る暗号です。
これは同じ本という条件だけではなく――版さえも限定すると――普通のヒトでは解くことがさらに難しいモノなのです。
"摂"氏には、分かっていました。
もう暗号文だけでは解きようがないのだと。
ここまで来たら、もう、暗号を使用している"Z"とその<仲間>の動向を調査しないでは解読まで到達しようがないのだし――そうする必要もないのだと。
そして――それは"摂"氏の仕事でも、趣味でもないのだと。
「申し訳ないのですが――わかりません」
とだけ言い、"摂"氏は紙から目を逸らしました。
――解読する努力さえ、しませんでした。
クラスでは、新しい数字型の暗号が出回ると、噂がすぐに広まりました。
「あの暗号が出ると、"Z"の仲間は図書館に行く」
「この前、ライトノベル借りていたよ」
誰もが疑心暗鬼でした。
しかし、"摂"氏は調査をしませんでした。
ある日、教師が暗号文の流通を見つけ、叱りました。
それでも"Z"は、止めませんでした。
しかし、最後の――数字で書かれた――暗号が出て、教師から再度怒られて回収されると、"Z"は授業中、クラスメイトに手紙を廻すことをやめてしまいました。
このエピソードは、"Z"と"ベラ"が同じクラスになる前の話でした。




