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温度  作者: 折鋸倫太郎
暗号
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黄昏と暗号 その3

 "ベラ"は無視をしました。その為、


 「すみませんが、いま話していたメール、見せていただけますか?」


 繰り返した"摂"氏は、二人を見下ろしたままです。


 「それでさ…」


 と"ベラ"が話を変えようとすると、


 「もう一度言います」


 と"摂"氏。


 「いや」


 と"ベラ"。

 嫌な目で、見上げました。

 しかし、"摂"氏は動じません。


 「もう一度言います」


 「いやだって言ってるでしょ」


 「そうですか。失礼しました」


 "摂"氏は、引きさがりました。



 その時はそれで話は終わったのですが、その後、ちょうど"ベラ"の友人と"摂"氏が場を共有し、会話することになった時――そして"ベラ"が同席していない時――"ベラ"の友人は、"摂"氏に直接、先程の問答の意図を尋ねました。


 「"ベラ"が――どうかした?」


 友人の前では友人の肩を持つものなのでしょうが、好奇心には勝てないのでしょう。

 ――または、友人思いであるから探りを入れているのでしょうか。


 幸いなことに、"摂"氏とその"ベラ"の友人は、<険悪>と表現できるほど仲が悪くはなかった為、話が進みました。

 "摂"氏は発言します。


 「わたしの知り合いで、暗号を書いて楽しんでいた人がいました。

  そのヒトは以前、母国語や外国語に使用されるモノとは異なる文字――他人が解読することの難しいだろう文字――を発明し、それを使用して、仲間内で楽しんでいました。

  その暗号は、特に難しい法則に乗っ取って成立していたわけではありませんでした――暗号テキストの構築基盤は母国語であるし、<読点>や<句点>のための記号が明らかになっていましたから――それに、なにより換字式でしたから。

  どれだけその文字ひとつひとつが複雑な形をしていても、一文字(語)に別の一文字(語)を対応させていることが分かれば、あとは語の頻出度を計算して、それから最も頻繁に出現する語をひとつでも辿れば、そこを足掛かりに、コード化されたメッセージは判明するものです――換字式ならね。

  そのことが分かったからかどうか知りませんが、そのうち、そのヒトは、本人の発明した独自の文字を使わず、数字で暗号を書くようになったのです」


 "ベラ"の友人は、目の前で滔々と語り続ける"摂"氏の意図が十分に理解できていないことを、如実にその顔で表していました。

 それに気づき、


 「ああ、申し訳ありません。とにかく、あなたの友人である"ベラ"さんへと送られたメールには、何かの暗号が隠されているのではないか、とわたしは疑ったのです。しかし、よく考えれば、"ベラ"さんがわたしに見せてくれるはずがないですよね」


 「暗号?」


 と"ベラ"の友人。


 「何のだろ?」


 「知りません」


 「なんか怖いね…」


 "ベラ"の友人は、自身の二の腕を握りしめることで、言葉だけではなく、ジェスチャーで恐怖を表現しました。

 

 「それほど心配する必要はないと思いますよ――"Z"くんは、それほど悪いヒトではない様ですし。それに、送られているメールに暗号が隠されているかどうかも、現時点では分からないですしね。それに、知らないのなら、知らないでいた方が良いことは、世の中にたくさんありますから――」



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