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1.物語はハッピーエンドがいい

―――夢を見た。


 毛布にくるまれ、ゆらゆらと揺れる。

 きっと幼い頃の記憶だろう。母の子守歌も、きっと聞こえてくるはずだ。


「ねぇ、お母さん、聞いてくれる?」


 心地よい揺れに身を任せて、そう口にした。


「あたしね、好きな人が、できたの」


 母はとっくに亡くなっている。だから、これは夢だ。


「とっても、大きくて、優しいの」


 きっと母はあの素敵な微笑みで聞いてくれているに違いない。父が惚れたという柔らかい微笑。


「昔の人って、嘘つきね。獣の王は、怖いかもしれないけど、優しいわ」


 揺れが、止まった。


「……好きなの。いつか、面と向かってラスって呼べたらいいのに」


 あたしは毛布越しに、その温かい体温に甘えるように頬ずりをした。


「―――呼べばいい」


 低い声が、聞こえた気がした。そうだ、ラスの声みたい……な。


(嘘……。だって、これは夢、で、だよね?)


 ぽかぽかぬくぬくしていた頭が、ぎゅるぎゅると時計にネジを巻くように覚醒していく。

 あたしは、恐る恐る目を開けた。

 目の前には凶暴な牙、黒い鼻、そして灰色の毛並。


「ようやく目を覚ましたか」


 ラスの顔越しに見えるのは、綺麗な星空。あたしは、いわゆるお姫様抱っこの状態だった。


「え、だって、夢で、お母さんが……」

「オレはお前の母親じゃない」

「あたし、声に出して……た?」

「あぁ。だから、呼べばいい、と言った」

「いやぁ―――っ!」


 あたしは思わず拳を突き上げた。予想外の行動だったのだろう、その拳がラスの口元に当り、その反動で、あたしは地面に転げ落ちた。


「……いたた」


 腰をさするあたしに、「痛いのはこっちだ」と不機嫌そうなラスの声が降ってくる。


(聞かれてた。めっちゃ聞かれてたし!)


 あたしの顔だけじゃなく全身が熱を帯びる。もうイヤだ。穴掘って埋まりたい。


「ここ、どこなの?」


 とりあえずなかったことにしようと、尻もちをついたまま、あたしは当たり障りのない質問をする。


「鳥小屋から山一つ下ったところだ。……大丈夫か」


 大きい腕があたしを無理やりに立たせる。


「大丈夫かは、こっちのセリフよ。傷は、身体は大丈夫なの?」

「あぁ、問題ない。お前が歌ったからな。―――歌うなと言ったはずだが、本当にお前はオレの言うことをきかない」

「それは、その、ごめんなさい。……でも、全然反応なくて、このままじゃ、死んじゃうかもって、死なせたくないって」

「―――『好き』だから、死なせたくない、か?」

(ぎゃーっ! やっぱり聞かれてた!)


 顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせるあたしを見て、何と思ったか、ラスは片腕でひょいとあたしを担ぎ上げた。


「まぁ、話はあとだ。お前が起きたなら、急ぐぞ」


 ラスの顔を間近にして、あたしは慌てて顔を逸らせた。ダメだ。直視できない。

 すると、あたしの視界に、ラスの尻尾が入った。

 パタパタと勢いよく左右に振っている。

 思わずラスの顔を確認すると、すこし口元が緩んでいるように見えた。


「ねぇ―――」

「声を出すな、舌を噛むぞ」


 あたしの声を遮るように、ラスは地面を強く蹴った。

 風があたしの頬を強く打ち、勢いよく景色が後ろに流れていく。


(期待、してもいいのかな?)


 話はあとだと言うなら、屋敷についてから確認してみよう。とっても勇気のいることだけど、きっと素敵な結果になるから。



 ◇  ◆  ◇



「お姉ちゃんの夢を見たの」


 タブーとなった単語を、昼食の席で口にしたのは、次女だった。

 優しく厳しかった長女を思い出し、父と弟が視線を落とす。だが、すぐに弟が口を開いた。


「どんな夢だったの?」

「森の中の、すっごいお屋敷で、きれいな服着てたよ。……灰色の、狼みたいな獣がそばにいて」

「僕が見た『獣の王』かな」

「きっと、そうだろう。神様がユーリアの様子を伝えてくれたんだよ」


 と、これは父親のセリフだ。まるで自分に言い聞かせて呟くように口にした。


「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃんはどんな風だった?」


 弟の質問に、次女はなぜか、少しだけ視線を逸らした。


「……なんか、楽しそうに歌ってた」


 その言葉に、父親も弟も不思議と黙ってうつむいた。

 重たい沈黙の中、昼食が再開される。オート麦の粥は、材料費が安くて長女のお気に入りだった。おかずは庭で育てている野菜――を間引きしたものだ。


「―――なぁ、手紙に書いてあったこと、本当なのか?」


 耐え切れずに沈黙を破ったのは父親だった。


「歌を気に入られた、って書いてあったよな」

「……お父さん、それはもう、何回も確認したじゃない」

「本当だよ。だって、あの『獣の王』が僕を人質にして、歌えって言ってたもん。何回も聞いたもん」

「……なぁ、夢で聞いた歌って」

「相変わらずよ、お父さん」

「……そうか」

「……変わんないんだ、お姉ちゃん」


 しんみりとした、というには重い沈黙が横たわる。


「―――お姉ちゃん、あんなに音痴なのに、どうして」

「それは言わない約束でしょ」


はい、このオチを書きたいがために終わりまで走ったと言っても過言ではありません。

誰も「妙なる調べ」とか「美声」とか言ってませんから!

裏テーマは「下手の横好き」です。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

この後、ラブイチャだけの小話を加えておしまいとなります。

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