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4.甲斐甲斐しい

 気がつけば、あたしは膝を抱えたままの体勢で、頭から毛布をかぶっていた。


「起きたか?」


 低くこもったような声に、毛布をはねのけて見ると、少し離れた所にいる、獣とカラクリ人形が視界に入った。


「お、はようございま……す?」


 習慣というのは恐ろしく、あたしの口からは間の抜けた挨拶が出てくる。


「それ、もしかして……」


 獣が目の前の人形に片腕をはめているのを見て、あたしは声をかけた。


「待て。もう終わる」


 片腕だけが新しいそのカラクリ人形は、おそらく今朝、あのハルピュイアに壊されてしまったものなのだろう。

 獣は腕をはめなおした人形を持ち上げて、色々な角度から眺めている。満足のいく出来だったのか、床に置き直すと、軽く前足を乗せた。

 すると、カタカタと歯車がかみ合うような音がして、カラクリ人形がギシギシと動く。まるで自分の体に異常がないか確かめるように、指先、手首、膝、肩、さまざま関節を順番に動かしていく。


「問題ないな」


 獣が満足そうに口の端を持ち上げた。それが笑みだと気づくのに2秒くらいかかったが、逆にこの獣も笑うのだと知って、ホッとした。

 ホッとしたのがいけなかったのだろう。あたしのお腹がキュル~と情けない音をたてた。


「ナニカ ケイショクヲ モッテキマス」


 律儀に反応したカラクリ人形が、すたすたと部屋を出て行く。待って、とも言えず、あたしは顔を真っ赤にしたままその元気な姿を見送った。


「あ、そうだ。待って、包帯とお湯と……」

「必要ない。――行け」

「何で? ケガの手当て、しない、と」


 カラクリ人形がギシギシと聞き慣れた音を立てて出ていく間、あたしは呆然と獣を見つめた。

 獣は立ち上がり、あたしのすぐ目の前に腰を下ろした。


「必要ない。確かめてみるか?」


 そう言って差し出された両腕はともに、傷らしい傷も、毛のはげた後も、あれだけ流れた血の痕跡すら見当たらなかった。


「な、ん……で?」


 もしや幻かと、あたしは獣の腕を撫でてみる。ごわごわふわふわの毛皮の感触と、それをかき分けた先の皮膚も、何も異常は感じられない。


「本当に気がついてないのか? お前が歌ったせいだ」

「え? だって、歌は食事だって。食事でケガなんて治らないもの、よね?」


 混乱しきったあたしのお腹が、またぐぅ、と自己主張した。目の前の獣が大きく息を吐く。


「一から説明してやるから、そう急くな」

(ため息なの? 今のってため息なの?)


 獣に呆れられたらしいあたしは、がっくりと肩を落とした。



 ◇  ◆  ◇



 その「一からの説明」を聞いて、あたしはとんでもなく勘違いしていたことを知った。


 まず、歌を食べることは、厳密には食事とは違うということだった。体を保つための食事はちゃんと食べていて、主に生肉を食べているということだった。

 じゃぁ、なぜ、歌を「食べる」のか。

 あたしの理解が正しければ、例えば上流のご婦人が美容のためにザクロを食べたり、筋肉が命の剣闘士が牛乳や鶏ささみを食べたりするようなもの、らしい。

 体を保つのとは別に、戦う「力」を底上げするために必要なのだそうだ。


 次に、歌の質についてだ。歌というものは、人しか歌わないものだと思っていたのだけれど、鳥やカエル、虫の中にも、あたしのような歌い手がいるらしい。

「複雑な生き物ほど、質の良い歌い手を輩出するから面倒だ」

 と、不機嫌そうに話してくれたが、要するに今のところ、人間の歌い手が、一番質が良いとか。その分、稀少らしいのだけど。

 質が良いと言っても、単に「力」として体に取り込みやすいという話だけではない。人の歌は、稀に指向性を持つのだそうだ。

「歌詞か、旋律か、はたまた歌い手の素養によるものかは知らないが、漠然とした『力』でなく、その場状況に応じて何かに特化した形を取ることがある」

 漠然とした説明を聞く限り、獣自身もよく分かっていないことらしい。ただ、今回、あたしが歌った「痛いの飛んで行け」の歌が、傷を治すことに特化したことは確かだった。


 ちゃんと理解できたかどうか分からないが、一からの説明を聞いたあたしは、カラクリ人形が運んでくれた熱々スープのカップを持ち上げた。一緒に運ばれてきたスコーンは早々に腹の中におさめてしまっていた。

 そして、疑問は「歌」から、襲って来たあのハルピュイアの方へと移っていった。

 鋭い爪、羽根によって穴だらけにされた外壁、あたしに向けられた――殺意。

 思い出せば身体が冷たく緊張するし、思い出したくもない。  けれど、自分の命を守るためにも、彼女(?)のことを知っておきたかった。

 そっと呼吸を整え、口を開く。


「あの、鳥のヒトは……?」


 声に出した瞬間、空気が凍りついたのを感じ、あたしの肌が粟立った。


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