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1.歌について考える
―――むかしから、歌うことが大好きだった。
うちはあんまり裕福ではなくて、弟妹たちの世話もあるし、贅沢なんてできなかった。
でも、歌うことはできた。
歌いながら食事を作り、歌いながら洗濯し、歌いながら木の実を採った。
哀しい時も、楽しい時も、歌にぎゅっと詰め込んじゃって、喉を震わせるだけでよかった。
だから、あたしは歌が大好きだった。
◇ ◆ ◇
―――正直、歌そのものを好悪の対象にしたことはなかった。
それは、自分にとって、食事のようなものだったし、食事であれば、美味しい方が良いと思う、それだけのことだった。
別に、自分で歌いたいとも思わない。ただ、誰かの歌を聞くことが、自分にとって必要であった、それだけのこと。
正直、歌は必要だけれど、それと同じぐらいどうでもいいものだった。