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塔の王女

 昔々あるところに、それは美しいお姫様がおりました。

麦のように輝く金色の髪、海のように煌めく青い瞳、薔薇のようにしなやかな赤い唇、光をまとった雪の肌。

 彼女の美しさは隣の国の、そのまた隣の国まで知れ渡り、立派な宝物を持って訪れる求婚者が、後を経ちませんでした。

 しかし、そんな彼女の美しさに嫉妬した醜い継母と醜い二人の姉は、彼女をお城で一番高い塔に閉じ込めてしまいました。入り口は堅く閉ざされ、食事を与える召使い以外、誰も脚を運ぶ人間はいませんでした。

 継母と二人の姉は、彼女が醜く老いて、いつの日かその美しさが失われる日を心待ちにしていたのです。

 閉じ込められてしまった哀れなお姫様は、毎日毎日美しい声で歌を歌いました。色とりどりの鳥達が塔の上まで飛んで来ては、綺麗な声でさえずります。それはまるで色とりどりのお菓子が宝石箱から転がり出るかのような、たいそう可愛らしい多重奏でありました。

 ある時、その歌声を耳にしたとある国の王子様が、彼女に求婚を申し込みにお城へやって来ました。

 醜い継母は答えます。

「私の二人の娘が代わる代わるに歌っているのだよ。気に入った歌声の方をお嫁にあげましょう」

 そうして、二人の醜い姉は王子様に歌を聴かせたのです。

二人は王子様の心を射止めようと、必死になって歌ったのですが、末の妹のような美しい声ではありませんでした。

 そんな時、二人の姉の歌声を聴いた鳥達が部屋へ飛んできました。驚いて悲鳴をあげる間もなく、醜い継母と醜い二人の姉は喉をつつかれて声を失い、目をつつかれて光を失ってしまったのでした。 

 王子様は鳥達に導かれて、塔の上へ上へと上っていきました。追い求めてきた美しい歌声が聞こえてきます。そうして重い扉を開けると、そこにはこの世で一番美しいお姫様がいたのです。

それから二人は醜い継母と醜い二人の姉を塔に閉じ込め、めでたく結婚しました。




 醜い母と醜い二番目の妹は、発狂して死にました。

 残った醜い一番目の私は、暗い暗い世界の中、歌も歌えず、ただただどこかの国の王子様が来てくれるのを待っています。

 塔の上から醜い母と醜い妹の内蔵を掻き出して、毎日毎日鳥達に与えています。

 いつかきっと、誰かが私を迎えに来てくれるでしょう。


 そういえば、美しい末の妹と王子様は、いつの間にか仲が悪くなってしまったようです。王子様には数えるのも面倒な程、たくさんの愛人がいるのですから。


 私は立つのも歩くのもやっとになりました。

 顔を触るとそこにあったのは、木の皮の様に萎びた皮膚でした。


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