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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
再考編(合宿)
90/207

第90話   First Stage

ブシュー!ボバー!ビビビー!


色とりどりの閃光が闇夜に輝いている。

2泊3日の合宿も、いよいよ明日が最終日。

学校で過ごす最後の夜を、部員たちは様々な花火で彩っていた。


「よっしゃー!次、いくぞー!」

「またド派手なのが来たなぁ!」

「まだまだ有りますよ!」


綺麗な花火によって様々な色に照らされる高校生達を見ながら、美津田は物思いに(ふけ)っていた。


「監督?」

「ん?なんだ?中林。」

「何考えてたんですか?辛気臭い顔して。」

「顔は生まれつきだろ。余計なお世話だ。」

「ハハ!やっぱいつもの監督だった!」

「どう言う意味だ?」

「いや・・・それより監督!こんな機会だし、聞いてみたいことが有るんですけど!」

「なんだ?言ってみろ。」


「監督って、何歳でしたっけ?」

「???今年で22歳だぞ。」

「でしょ!」

「?何の話だ??」

「だって、計算合わなくないですか?」

「けいさん?」

「そうですよ。監督は県立大学に合格したんでしょ?四年制の。」

「あぁ。」

「じゃあ、まだ大学生のはずじゃないですか。」

「あぁ・・・なるほどな。」

「どうやって監督になったんです?もしかして・・・飛び級!?」

「馬鹿か中林!そんな簡単に日本の大学で飛び級出来るわけ無いだろうが!」

「うっせーな、久保!オレが質問してんだから黙っとけや!」

謎の多い美津田の過去を知れるチャンスと察知し、全部員が花火を中断して中林たちの傍に集まっていた。


「簡単な話だ。中退したんだよ。」

「マジですか!!?勿体無い!!」

「まあ、周囲からはよく言われたな。当時。でも、抜け道では無いが、独学で教員免許を取るのは不可能じゃ無いからな。」

「でも・・・」

「ん?」

「でもなんで、そこまでして国巻の監督になろうって思ったんです?」

「それも簡単だよ。」

「???」


「岡山が国巻の監督を【辞めた】からだ。」


「岡山監督の意思を継ぎたいって思ったんですか?」


「んなわけ無いだろ!むしろその逆だ!!」


「?????」

「この話をするには、まずは国巻にサッカー部が出来るまでの話をしなくちゃな。」


美津田は深くタメ息をつき、当時のメンバーであった滝沢や星の顔を一瞬見た後、ついにサッカー部創部の軌跡を語りだす。


「昔、国巻には2つのフットサル同好会があったんだ・・・。」






時は(さかのぼ)る。それは美津田が高校入学直後まで。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

高校1年生の美津田貴文は、入学3日目にして過酷な選択を迫られた。

それは2つのフットサル同好会のどちらに入会するか。というもの。

中学まで必死にサッカーをしてきたものの、一応進学校の国巻には文武両道を掲げる形跡が無く、運動部で一番有名なのは、県大会にたびたび出場する自転車部くらいのもので、サッカー部は存在しない。

フットサル同好会も、似たようなのが2つあったことで、どちらを選んだらいいのかがわからなかった。


美津田は部室が認められている緑色のユニフォームが目印の同好会に入ろうと、その部室向かう。その道中、「どけ!」と後方から肩をぶつけられたので、美津田は睨みながら後ろを振り返る。

染めているのか自毛なのか、少し赤茶色な髪の少年がそこにはいた。

「なんだ?やんのか?」その男はそれだけ言うと、美津田を追い抜いて、彼が入ろうとしたフットサル同好会の門を叩いていった。

「・・・あいつと一緒の同好会は・・・。」

美津田はそれだけ言って、緑色の同好会に入会することを諦める。


実は、これが後に国巻の監督を務める美津田と大嶺の、初対面の瞬間であったことは知る人のみぞ知る話である。


美津田は部室も認められていない紫色のユニフォームが目印の同好会に入会すると、すぐに会長に質問した。


「なんで、この国巻には2つもフットサル同好会があるんですか?」と。

当時の会長の沖は、美津田に昔話を語った。

美津田の高校時代から、さらに8年も昔に(さかのぼ)る物語を。



「もう1個の緑色の同好会が、20年位前に出来て大分経ってからな、同好会の人数も増えたし、1回フットサルは部に認められたんだよ。んで、さらに人数は増えてサッカー部を創部しようってなったらしいんだ。8年前に。」

「へー!そうだったんですか!」

「あぁ・・・でもな、サッカー部創部の直前にメンバー同士で大喧嘩が起きてな。かなり問題になったらしいんだよ。それで、サッカー部の話は破断。罰としてフットサル部も廃部になって同好会に格下げされちまったらしいんだ。んで、当時のメンバーの仲が二分されて、昔からの緑のユニフォームのチームと、それと敵対するメンバーで紫色のユニフォームの2チームが出来たって訳なんだわ。」

「じゃあ・・・」

「ん?ウチは悪役って言いたいの?」

「違いますよ!」

「???」


「じゃあ、そんな昔の喧嘩が原因なら、また今からでもサッカー部作り直してもいいんじゃないんですか?」


「!!!!!!」



サッカー部創部の話は、最早禁忌とされていた。その経緯をたった今説明したばかりなのに、淡々とタブーを侵そうとする新一年生の神経の図太さに、沖は感銘すら受けたのであった。


美津田の必死の説得もあり、紫の同好会は緑の同好会に対して合併によるサッカー部創部を持ちかける。一部のメンバーは乗り気だったが、頑なに反対する者もいた。当時1年生の大嶺である。

「素人軍団と合併してサッカー部になったって、足引っ張る奴が増えるだけでしょう。」と。

高い得点能力を備えていた大嶺は、1年の秋にはレギュラーになっていた。その強面の風貌も相まって、先輩たちも大嶺の言葉に首を縦に振ることしかしなかった。

これにより、美津田が高校1年生の間にサッカー部創設の話は破綻となる。

それでも美津田は諦めていなかった。二つの同好会など宝の持ち腐れでしかなく、サッカー部を作ってみたいという夢は寧ろ日に日に増しているのであった。


美津田と大嶺が2年生に進級すると、国巻に二人の重要人物が現れる。


1人目は地元のジュニアユースで有名だった滝沢和義。2人目はサッカーなど未経験の華奢(きゃしゃ)な男、岡山優飛。

彼らの登場により、国巻高校はサッカー部創設への道をひた走ることになる。

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