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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
9/207

第8話   一昨日の晩御飯は覚えてません!

「チョロチョロしなくていい!今日のお前はどっしりしてろ!!!」

美津田は大声でその一言だけ坂田に伝えると、松田を呼んだ。


「まつだぁ!!!一昨日の問答を思い出せ!!!!」




「一昨日の?」

松田は何のことかわからないまま、前線に向かう。




滝沢チームのキックオフ。


滝沢がある程度進んで後ろにヒールパスを出すが、竹下が必死にカットする。


焦りながら出したパスはオーバーラップしていた須賀に何とか渡った。


「覇気の無い木村に出すくらいなら」と、中に切り替えして中央にいる松田に渡す。


ボールをもらいながら松田は一昨日の問答を思い返していた。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「カウンターでスムーズに中央の味方にパスが通ったとする。正面はCBが構えている。さあ、どんな選択肢がある?」


「切り返すとか?」

「読まれるだろ?しかも上手く避けたってその後のシュートだとやっぱり体勢が厳しくなる。」

「じゃぁ、取りあえずシュート打つ?」

「ばか!CB正面いるっつーの!」

「ポストプレーで後ろの味方の上がり待つべきだろ。か、横パスで様子見て・・・」


キャプテン5人の問答を美津田は遮るように、松田に問うた。


「松田、お前だったら他にどうする?」


「え?俺っすか!?」


「当たり前だ。松田はお前一人しかいない。」


「・・・えぇっと・・・・・・例えばっすよ。」


「いいぞ。」


「・・・ヒールリフトでボールを宙に浮かせてCB抜くとか。」



「漫画かよ!!」

久保の野次に美津田が食いついた。

「いや、あながちチャンスとしてはありかもしれないぞ。現に松田、お前ならそれが・・・」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

先ほどのミスを挽回しようと、川村は物凄い形相で松田の前に立ちふさがっていた。

「右だろうが、左だろうが、絶対に抜かせない!!!」


その意識に全力を注いでいた。



それが、松田は一瞬足を止めてボールを足で挟み込むと・・・、






フワッ




っとボールを右かかとで蹴って宙に浮かせてみせた。




「・・・俺なら!」




左右の地面に集中していた川村の頭上を、ボールは容易く飛び越えた。松田はボールと同じ様に軽やかに川村の横を抜き去りながら、少し笑みを浮かべた。



「ざけんな!!!!!!!!」



川村は怒りに任せて松田のユニフォームを掴んだ。



松田が倒れこむ。



ゴールエリア内での一瞬の出来事だった。




PK獲得





美津田はライン沿いに松田たちの方へ駆け寄りながら叫んだ。


「タァァァイム!!!!!」





メンバーたちが美津田の顔を呆然と覗く。



松田に至っては、自分の完璧なまでの動きを把握しきれず、ボーっとエリア内に座り込んだ。




「久保!!!くぼぉぉ!!!!!!!!!」


「・・・は・・・・・・はい?」


「こっちに来い!!!!」


「え?・・・えーっと・・・なんです監督?」




「お前がPKを蹴ろ!!!!!!!」


「・・・え?」


「お前が蹴るんだ!!!」


「え?・・・いや、・・・松田でしょ?あんなに綺麗にリフト決めたし。」


「バカ野郎!!!アイツはアイツの役目を果たしたんだよ!!!!」


「え?」


「お前は点取り屋なんだろ!?ここで決めないで誰がストライカーなんだよ!!!!」


「・・・いいんですか?」


「いいって言ってんだろが!!!!!!ただし!!!!!!!」




「ただしぃ?」


「絶対に1点入れろ!!!でないと、この1年、お前をスタメンから外す!!!!」


「・・・・・!!!!!!」





久保はこれほどまでに追い込まれたことが無い。

天性のフィジカルを持ち、中学校の時に「奇跡のイレブン」の滝沢に感動して、サッカーを始めた。

遅咲きのデビューだったが、経験値というハンデをフィジカルがカバーしてくれた。しかし念願叶って国巻のイレブンになったものの、中々チャンスで決めきれない。滝沢には程遠い「点取り屋」だった。


「今度こそ!滝沢さんのように!!」

「次は滝沢さんみたいに!!!!!」


滝沢の後を追いかけ過ぎて、その存在を「次こそ!」という言い訳に利用していた。



それなのに、今回は【次】が無い。


極限まで追い込まれてしまった。





ボールをセットする。



集中してボールを見つめた久保は、隅とはいかないまでも右側低めを狙う。その弾道は見事にキーパーの逆をついた。



「・・・。」



ゴールを決めても、久保は黙って自陣に戻っていった。



流れているものが、汗なのか冷や汗なのかもわからなくなったまま。

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