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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
8/207

第7話   ゴリラの吠えさせ方講座

坂田が今までに見たことない形相で美津田に駆け寄る。

「〇〇〇〇〇〇!」

「ん?なに?」

「〇〇〇〇〇〇!!!」

「あぁ・・・いいよ。」



坂田は黙ってキックオフの準備に向かった。

若宮が監督のそばに行って訊ねる。


「坂田君、何て言ったんですか?」



「あぁ、・・・『点取ったらキーパーに戻して下さい』だって。」

「え!?いいんですか!?」

「・・・誰がダメって言った?」



そこまで言うと、美津田は中林を呼んだ。


「おい!中林!」

「はい!?」

「大下はいつも、どうやってた?」

「え?」

「思い出せ!!大下はボールをもらったら、いつもどうやってた!?」


ピンと来ないアドバイスの意図を、中林は数少ない脳内シナプスを活性化させて考えてみた。



大下は右利きだけど、ライバルが少ない左SMFとして、今まで数試合出場している。

サイドでボールをもらう時には中央の様子を確認し、縦に行くと見せかけて相手の逆をとり、中央にパスを出す。基本的なモーションだが、この一連の動きに、大下は一切無駄が無かった。


中林はそう思い出しながら、久保と目が合う。

久保が滝沢に来られる前に、中林にパスを出した。


左サイドを進んですぐに相手SBが寄ってきた。『こいつはサッカー経験者だ』と動き方ですぐにわかった。

中林は心の中で、思い出したモーションを復唱する。



「縦にいくと、見せかけ・・・!!!!!!!」



中林は中央を確認して驚愕した。


物凄い勢いで、坂田がゴール前に走りこんでいたのだ。




とっさに中林は、右足を振り抜き、鋭いカーブのクロスをゴール前に送った。


「あてろよ!」

中林は心の叫びを、ボールにのせる。



キーパーがギリギリ飛び出せない場所に向かったボールは、相手CBの川村が狙っていた。


「前に入られなければいい。」


サッカー暦10年以上のCBがポジション取りに全集中力を注ぐ中、坂田は川村の背後から全力でジャンプした。


「!!?早すぎだろ!!!」


明らかにタイミングが早すぎた。

これでは坂田が地面に着地する頃にボールが頭上を通り過ぎる。







・・・はずだった。



川村は一瞬気を抜いた後、すぐに驚いて後ろを振り返る。

ジャンプの飛距離が異常に高かった。



180センチ近い川村の半身を踏みつけられるほどの坂田のジャンプは、最大到達点から下降しても、しっかりとボールを額でとらえる事が可能だった。むしろ、コースを狙う時間まで作れた。



坂田のヘディングは豪快にネットを揺らす。



1-2



「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

坂田の雄叫びがピッチに響き渡った。



すぐに美津田は松田に声をかける。

「まつだぁ!!!坂田とポジションチェンジだ!!!!」

さっきの密約を知らないメンバー達は、その発言に驚いた。


中林だけは、「そういうことか。」と納得している。



「シュートが早かったし、2点目はマグレだったんだ・・・俺が悪いんじゃない。相手が凄かったんだ。」

バツの悪い顔を抑えながら、松田はまだ掌に痺れが感じるような気がした。

「遊びだとしても、まともにGKやったのって、小5の時以来か?絶対もうやりたくねぇや。」


ふて腐れながら松田が坂田にグローブを渡す。

「らしくないことしやがって。」

そうつぶやきながらグローブを渡そうとすると、坂田が松田の手首を掴んだ。

「・・・!!?なんだよ!!!!」

「俺のもんだ!!!」

「は!?んなにグローブ大事かよ!!!」

「違う!!!あそこ!!!!!」

「あぁ!?」

「あそこはやり切るって誓ったやつの場所だ!」


そういうと、坂田はゆっくりとグローブをはめながら、自分のゴールをじっと見つめた。

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