第76話 抗えない距離感
国巻高校と大剛高校の対決は、3-3のまま延長が終了する。
勝負を決するため、PK戦が行われることとなった。
「止めなきゃいけない!」
国巻ゴールキーパーの坂田は、必死に花野江高校戦で開花したZONEを引き出そうとしていた。
勝つため、美津田に禁止されていた精神を追い込んでのZONE覚醒を目論み、全精神を集中させようとしていた。それはこのPKを阻止するだけなら、危険を伴ってでも我が身を酷使してベスト8に進出してやろうという覚悟のなせる行為であろう。
「もう、いいから。ここまでよくやった。」
集中しようとした坂田は、その一言で一気に精神統一を削がれる。
それは監督美津田からの言葉だった。
「あとは自分を信じて蹴ってくれればいい。どんな結果になったとしても、ここまで来てのことなんだから・・・。」
先程までの大声を張り上げた熱血漢はどこに消えてしまったのかという程冷静な監督に、坂田だけでなく、選手全員が思わず口を開けて呆然としてしまう。
PKは国巻先行で行われることとなる。
一人目のキッカー松田は、冷静にキーパーの逆を突いてネットを揺らす。
PK 1-0
対する大剛高校も、1番手が冷静に決めた。
PK 1ー1
国巻2番手キッカーは五条。これもでのミスを帳消しにしようと、右隅を狙った鋭いシュートが決まる。
PK 2-1
大剛高校は坂田のポテンシャルの低さを見切り、2人目のキッカーはスピードはあるものの、ほぼ中央のコースを狙う。ボールは坂田の股の間を抜いた。
PK 2-2
3番手は久保。この日無失点の憤りをボールにぶつけようとした激しいシュートはポストに当たってしまう。しかし幸いにも跳ね返った弾道はゴール判定内であった。
PK 3-2
大剛の3番手は一度脚を振り抜くモーションをするが寸前で脚を止める。このフェイントに釣られて横っ飛びをしてしまった坂田の逆を冷静に突いた。
PK 3-3
大下は緊張しながらも、丁寧にしっかりとキーパーの逆を狙った。
PK 4-3
大剛4番手の秦原は、脚を素早く振り抜いて、トゥーキックシュートでゴールを決める。
PK 4-4
国巻の5番手となった木村は、深く息を吐くと、ゴール左隅を狙った。
コツン!
あと数センチだった。
あと数センチ内側あればネットを揺らせたものの、無残にもボールはポストに弾かれてしまった。
木村はショックの余りにその場から動けなくなる。
「こんなこと・・・こんなことが・・・・・・。」
親友の大下は急いで木村の傍へと駆け寄ると、両方の肩を抱いてチームメイト達の所へ連れて行った。
木村は現状を受け止められず、ただただ目が泳ぎ続けている。
PK 4(失敗1)-4
「こんな木村先輩・・・見たことがない。」
ゆっくりと下がっていく木村を見ながら、坂田は自分のセービングで全てが決まるという現実に押しつぶされまいと奮起していた。
「なんとか・・・しなきゃ。」
大剛5番手は鵜飼。彼は大きく両手を広げる坂田の目を見ながら、ゆっくりとキックモーションを行う。しかしボールに足の甲が触れた瞬間は、しっかりとインパクトしていた。
「くそ!!!」狙いすましたシュートと反対方向に横っ飛びしながら、坂田は悔しがる。
PK 4-5
国巻高校。ベスト16戦にて敗退。
「うぉーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ラファエル佐々岡をはじめとした大剛高校の選手たちは、最後のキッカーである鵜飼目掛けて走る。
その光景を、国巻の選手たちは呆然と眺めるだけだった。
「・・・負けた。」
それだけ言うと、木村はしゃがみこんで下を向いてしまう。
必死に大下が起こそうとするが、もはや彼は石像のように動こうとしない。
敗北した選手たちの横顔を見ながら、美津田も動けなくなった。
「・・・お疲れ様。」
こんな美津田に最初に声を掛けたのは、嘗て彼を指導した大剛の岡山監督。
岡山が右手を差し出すと、美津田も右手を差し出した。
しかし、それは互の健闘を称えるような心のこもった物ではなく、実に機械的な動作であった。
「・・・・・・。」
岡山はそれ以上何も言わず、現在の教え子たちの下へと向かっていった。
今や自分は国巻にとって裏切り者。取り返しのつかない事をしたかもしれないという迷いを断ち切るためにも、岡山は最小限の言葉だけ伝えて美津田から離れていったのである。
それは友人との絶交にも、親子の決別にすらも感じられる情景であった。




