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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
7/207

第6話   ここ何処行進曲

「ナメてんすか?それともバカにしてんすか?」

木村が美津田に食って掛かった。

無理も無い。

センターバック一筋だったのが、試合本番でフォワードにさせられたのだから。


大下は何も出来ずにそんな木村を眺めていた。


この選手配置は全てが目茶苦茶だった。


FWに本来GK&CBの坂田と木村。SMFにはSBが本職の中林と綾篠。ボランチにはいつもはFWの久保とSMFの竹下。SBにトップ下がお馴染みの須賀と1年の鈴木。GKがテクニシャンの松田で、CBはポストプレーが得意のFW片部と大下。しかも全選手が、利き足と逆のサイド。





「やめろって!!」


美津田に歯向かう木村を止めたのは竹下だった。



「まず試合じゃん!!!とりあえず終わってからにしろや!!!」



そう木村をなだめながら、竹下は大下を睨みつけた。




「わかってる!!俺の役目って言いたいんだろ!」

そう叫びたかったが、言葉は喉を越えてくれなかった。






大下はサッカーが上手くない。自分で一番理解していた。

サッカーを始めたのも、続けたのも、木村についていきたいから。

会ってすぐに、木村からはカリスマ性を感じた。自分には無い知的で常に堂々とした態度は、憧れも感じていた。

ライバルが少ない左SMFで補欠になるのが自分の限界と思ってきた。それでも、木村と同じチームでサッカーが出来れば十分だとも思ってきた。



木村が美津田に歯向かっていく姿を見て、大下は「今、何も出来ない」と察知し、非力さと恥じらいが込み上げた。

「自分は、木村についていくしか出来かった・・・。」

対等で無かった関係は、想像以上の衝撃だった。





木村の変貌ぶりをみても、美津田はひょうひょうとしていた。

「言っただろ?『どんな扱いを受けても』って。」



「腹立ったんなら、ベストを尽くせ!」




奇跡のイレブンの末裔達は、不満と怒りで満ちたまま、天然芝上の持ち場へと就いていった。


「おい!ウド!グローブ貸せ!!」

松田が陰でしか使ってないあだ名で坂田を呼びつけ、キーパーグローブを借りる。貸した瞬間、松田の手が異常に震えていることに坂田は気付いた。



こんな彼らを冷静に見ていたのは、タオルを車に忘れて取りに行ってたために、木村の表情を見ていなかった若宮と、美津田を決して視界から放そうとしない滝沢の2名だけだった。






30分ハーフ、タイムを2回とっていい変則試合が開始される。



キックオフ直後、中林が出したパスは簡単に滝沢にカットされた。


高校時代、滝沢は飛びぬけたフィジカルもテクニックも持ち合わせていなかった。

しかし、国巻高校をベスト8に導けたのは、そのズバ抜けたボールへの嗅覚にあった。


味方のだろうと敵のだろうと、ボールの動きを読み取って、自分のものにする。

その一点のみが、常人を遥かに凌いでいた。


滝沢にとって必要な才能は、それで十分だった。


県大会得点王になるだけの嗅覚は、今も衰えていない。



滝沢は簡単に味方とワンツーで久保をかわすと、片部と大下が詰めてくる前にゴールエリア手前で軽くシュートした。


滝沢にとっては挨拶代わりのはずだった。しかしGK初体験の松田は、自分の頭上ながら正面にきたボールを両手を上げて掴もうとしたのに、弾道は両手をすり抜けてネットを揺らしてしまう。



0-1


呆気無い失点であった。




滝沢以外にサッカー経験者は3~4名ほど、そんな即席チームに、簡単に崩された。



意気消沈する松田。





再びキックオフするが、久保があっさりと滝沢にボールを取られてしまう。



「さすがに酷だろ?みっつぁん。」


そうつぶやきながら、滝沢はゴールまで40メートル以上の距離からボールを蹴る。


その弾道が、ゴールを狙うものだったと松田が気付いたのは、彼の頭上を越えようとする寸前だった。


0-2


松田は明らかに前に出すぎていた。

しかし、それを見逃さない滝沢の視野と得点力に、国巻メンバー達は「成す術もない」と感じていた。




ただ一人を除いて・・・。


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