第68話 おもひでジワジワ
今話は、第17話とスピンオフのコトリアソビ編を先にご覧いただければ、ストーリーに入りやすいかもしれません。
いつからだろう?アシストすることだけ考えるようになったのは。
いつからだろう?チームメイトとサッカー以外の話をしなくなったのは。
いつからだろう?シュートを我慢するようになったのは。
いつからだろう?楽しくサッカーするのを諦めたのは。
深い闇の中、沼のようなドロドロした感覚に体の自由を奪われ、もがいても抗ってもそこからは出られない。
すると、遥か上空の方で微かな光が見える。
それは燃える様な赤い色。
あの色があれば、俺は変われる。
必死で掴んでみせる。どんなに苦しくても。どんなに辛くても。あの赤色があれば・・・。
あの力があれば・・・。
「・・・・・・今日も・・・見たか。」
須賀は病院のベットにて目を覚ます。
激戦の疲れか、昨日も10時間寝たと言うのに、今日も真昼間から堂々と昼寝をした自分自身に少し驚いた。だが、それ以上に驚いたのはあの不思議な夢を2日連続で見たと言うこと。
「欲しい。また・・・欲しい。」
それだけ言って彼は拳を強く握り締めた。
トントン
ノックの音から間もなくドアが開き、坂田と小鳥遊が病室に入ってくる。
「来てくれたのか。2人とも。」
「あぁ。調子はどう?」「痛みは?」
「心配しなくてもいいよ。検査の結果、骨に異常はないから。」
「そっか。」
坂田は安堵するが、小鳥遊は少し唇を噛み締める。
「どうした?小鳥遊。」
「骨じゃないところは?」
「・・・え?」
「骨に異常が無いったって・・・他は・・・どうなんだよ。」
「・・・わかった。言うよ。靭帯に傷が出来た。早くて全治2ヶ月だそうだ。」
「マジで!?」「・・・。」
小鳥遊だけは何も言うことが出来ない。
「そんな、お前が怪我したわけじゃ無いんだから、暗い顔すんなよ小鳥遊。」
「初めは・・・坂田と柿崎が来る予定だったんだ。」
「え?」
「お前の見舞いに行くメンバー。柿崎の予定だったんだ。俺じゃなくて。」
「そうだったの!?」
これは坂田も聞いておらず、彼は須賀と同時に驚いている。
「でも、美津田から見舞いに2人を行かせるって聞いて、柿崎に『頼むから』って替わってもらった。」
「なんでだよ・・・わざわざ。」
「どうしても須賀・・・お前に言いたくて。」
「何をだよ。」こういう雰囲気は家庭でも苦手な須賀は、恥ずかしさを隠すために少しイライラさせる素振りを見せながら聞いた。
「ありがとう。いつも俺に普通で。」
「はぁ!?なんだ?それ!」
「いや・・・始めはさ・・・やっぱ出羽のマーク失敗し続けて悪かったって言おうと思ったんだけどさ。お前のことだから『失敗は誰でもある』的なこと言って逃げられそうだから。」
「だからって、何で『ありがとう』になるんだよ!『普通で』って何のことだよ!」
「オレが幽霊部員になった時・・・お前、絶対【普通に話しかけて】くれただろ。」
「・・・え?」
「一番『戻ってくれ』って言ってくれたのお前じゃん。でも、『もう戻れない。』ってオレが言ってから、お前は『戻れ』って言わなくなった。」
「そうだっけ?」
「そうだよ。」
「で?」
「それからも須賀・・・、お前は絶対によそよそしくならなかったよな。俺に。」
「当たり前だろ。」
「当たり前じゃねぇよ!」
「・・・なに・・・キレてんだよ。」
「当たり前じゃねぇんだよ!それって!みんな避けた!気付かれないようにしてたつもりかも知れないけど!みんなそうだった!それでも無理して話しかけてた!不自然だったんだ!!でもな・・・須賀、お前は絶対に・・・自然に話しかけてくれた。テストのことやテレビのこととか。何でも。オレが部活行かなくなったの、まるで無かったことにするみたいに。」
「・・・。」
しばし沈黙が流れた後、雰囲気を変えようと小鳥遊がまた話しだした。
「若宮に挑発されたからなんだ。・・・オレが復帰したきっかけ。」
「え?マネージャーの?」
「そう。あいつが『美津田の下だと、みんな楽しそうだよ。』って俺に言ったんだ。言い返してやったよ。『言うのは誰でも出来るだろ!』って。そしたらアイツ・・・なんて言ったと思う?」
「??・・・さぁ。」
「『それって今のキミのことみたいだよ』って言いやがったんだぜ!」
「へぇ~!さすが若宮!」須賀は手を叩いて笑う。
「俺マジ腹たってさ!実はヤケクソでグランドに行ったんだよ!」
「あの日かぁ。久しぶりにグランドに来た時の。」
「そう。あん時さ・・・美津田と話した後、お前の顔見たらさ・・・。」
「え?」
「お前、泣きそうな顔して笑ってただろ?」
「あぁ!?お・・・覚えてねぇよ!!」
「俺は忘れないからな!お前マジダサい顔で笑ってたし!」
「絶対違うっつーの!」
「俺さ。・・・【その時】だった。」
「え?」
「『戻ろう』って決めたの。」
「・・・。」
「だから・・・ありがとな。」
2人は涙こそ流さないものの。そこには溢れんばかりの様々な感情が顔から滲みだしていた。
そして彼ら2人の姿を見て必死に、「ここに俺がいるのは場違いだ!」と坂田は心の中で叫び、席を立つ理由を懸命に探していたのだった。




