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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
67/207

第67話   マッド・コーチ

激戦から一夜明けて、国巻高校のグランドは少し慌ただしくなっている。


「・・・なんだ?この人たち。」

「・・・わかんないけど・・・。」


二年生たちはグランドにいる10名弱の大人に動揺を隠せない。全員がカメラを片手にこちらに視線を向けているからである。


「もしかして・・・マスコミってやつ?」

「マジで!?」


そのとおりだった。名門桜台東に対し再び勝利したことは、地元の各スポーツ紙に大きなインパクトを残したのである。


「昨日はおめでとさん。」

動揺する選手たちに、後ろから美津田が声をかけた。


「監督・・・なんか・・・凄いことになってません?」

「かもな。ただ、普段の練習風景をメインに取りたいそうだから、出来るだけ自然にしとけだと。」

「こんなにいて!?無理っすよ!」

「まぁ、出来るだけでいいからさ。それに、直に馴れる。」


初めは緊張していた選手たちも、美津田の言う通りただカメラを構える報道陣にも次第に馴れて行く。


「よーし!次はYOGAやるぞ。」

美津田の指示で、選手たちはあぐらをかいて目を閉じる。



記者の一人がこの異様な光景を我慢できずに監督に訊ねた。

「あの・・・美津田監督・・・。」

「ん?」

「練習中の忙しい時に申し訳無いんですが・・・これ、何ですか?」


「ヨガです。」


「はい?」

「ヨガですよ。よくアラサーの女性とかやってるでしょ。」

「いやいや・・・これ、サッカーのトレーニングですよね?」

「もちろん。」

「何故・・・ヨガなんかを???」

「ヨガっていうのはね。起源を辿れば、禅なんですよ。」

「ぜん?」

「そう。まぁ座禅とも言いますがね。つまり精神統一に利用されるものなんです。」

「・・・はぁ。」

「しかも日本に輸入されてからは、エアロビテクスの意味合いが強くなっていますので、体の柔軟性やボディバランスを整えるのにも利用出来るんです。」

「・・・監督。」

「はい?」

「どなたからこの練習法を思いついたんです?」

「いや・・・自分でですけど。」

「え!!?」


記者たちが驚くには、まだこれは序の口だった。

選手たちが戦術確認の練習を始めると、記者たちは一斉に監督の下に集まってきた。


「美津田監督・・・何ですこれ?」

「戦術のシュミレーションですよ。」

「グランドで?」

「もちろん。ゲーム形式でこそ培えるものはいっぱい有りますから。」

「いやいや・・・監督・・・。」

「何です?」



「ボールは!?」



マスコミ陣は開いた口が塞がらない。選手たちはパス、ドリブル、ショートの練習をコミュニケーションを交えて行うが、そこにボールは無かった。



「無いですよ。最近は後半に使うようになりましたけどね。」

「前半・・・ずっとこのエアサッカーをしてるんですか!?」

「はい。ボールが無くたって、戦術確認は十分出来ますから。」

「・・・。」


美津田の演出していく斬新すぎる練習方法に、記者はどう記事にしたらいいのか考え込んでいる様子である。



「では、次は選手にインタビューをしたいんですが。」

「いいですよ。誰とかって指名はあります?」

「そうですね。では、キャプテンをお願いします。」

「わかりました。おーい!久保!中林!竹下!木村!大下!」

「え??」

「いや。全員キャプテンなんですよ。」

「はぁ!??」



美津田が軽くキャプテン就任までの経緯を話すと、仕方なく記者が順々に5人にインタビューしていく。

その後方に1,2年生達が群がっていく様子を、松田と坂田が眺めていた。

「松田、行かないの?カメラの方。」

「なんで行かなきゃいけないんだよ。」

「いや、・・・意外。」

「はぁ?」

「目立ちたがり屋のお前が、行かないなんてさ。」

「あんなんでイチイチ舞い上がってらんねぇよ。」

そこまで言うと、国巻のファンタジスタは一人でリフティングを始める。



「いやー!5人がキャプテンとは、最初はビックリしたんじゃないんですか?」

「そ・・・そうですね。ただ、何でもチームのことは俺たち5人が話し合って決めるって言うのは有意義なことだって、この頃感じるようになりました。」


「うそつけ!」と言いたげな木村の視線を無視し、久保が緊張しながらもインタビューに答えていく。





遠くからそれを見つめていた坂田は、マスコミのカメラの角度に気が付いた。

「あれ??ここって・・・あのテレビカメラにギリギリ・・・映るんじゃね?」

坂田は再び松田の方を見て、気が付いてしまった。


「松田、お前。」

「なんだよ。」

松田はリフティングをしている最中に話しかけられ、不機嫌気味に返事する。


「さっきからお前、バリバリ気にしてんじゃん!」

「何を?」

「カメラだよ!」

「なんでだよ。」

「お前ここがギリギリカメラに映るってわかってるからリフティングしてんだろ!?」

「気のせいだっつーの。」



「じゃあ、さっきから何でお前・・・ヒールと頭でしかリフティングしてないんだよ!!」






夕方になり、報道陣は全員去っていった。

グランド整備の前に、坂田と小鳥遊が美津田の下に駆け寄り、「それじゃ、行ってきます!」と話す。

監督は「おう。頼んだぞ。」とだけ言った。



「どこ行くの?坂田先輩たち。」高井の問いに鈴木が答えた。

「お見舞いだよ。須賀先輩の。」


我が身を犠牲にして、国巻に勝利を与えてくれた献身者に捧げる物が、幾らかの果物と色紙だけというのが侘しいと思いながら、二人は須賀が検査入院している病院へと向かった。

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