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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
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第50話   愛と青春の仲立ち

木村と美津田の秘密を大下が知ってから幾日が過ぎ、県予選大会は明日開催となる。


練習後、部室で3年生6人が着替えながら話をしていた。


「明日の試合、客はどれくらいくるんだろうな?プレ大会の影響でギャラリー増えると思う?」

「いや、無いだろ?吹奏学部と親くらいのもんさ。」

中林の淡い期待を竹下が切り裂く。


「だ・・・よな。ウチもお袋が観に来るってよ。面倒くせぇ。どうせお前もだろ?大下。」

「あぁ。ウチは両親来るらしいけどな。あとカノジョも。」


「そっか・・・え!!!?」


「なんだよ・・・。」

「お前、カノジョいたの!!?」


「知らなかったのかよ。大下は彼女いるぞ。中学の時から。」

木村が割って入って補足する。

「マジで!!?」

「もう5年だよな?大下。」

「うん。中二の時からだから。」

「マジかよ!!ちょっと待て!!!・・・もしかして、他にもカノジョいる奴いんの?」

久保と竹下が手を挙げた。

「おいおい!!久保は知ってるよ!同じクラスの浦原だろ?でも・・・竹下もいたのかよ!」

「いるよ。」

あっさりと答える竹下。

「いつからよ!」

「えぇっと・・・2ヶ月くらい前かな。」

「それって、美津田が来てからじゃん!!いつそんなカノジョ作る時間あったんだよ!!」

「いつだってお前に関係無いだろ?」

「そりゃ・・・そうだけど・・・。」


ナルシストの中林は、自分の容姿は上中下の内なら上だと考えていた。しかし、恋愛経験はあまり豊富ではない。高校に入ってからはめっぽう彼女を作れずにいた。

そんな彼の頭の中を、嫉妬と憤りが勝手に駆け巡ってしまっている。

「なんでだよー。なんでこいつらがモテるんだよー。」


中林が一人で頭を抱えていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「入ってもいいですか?」声の主は美人マネージャーの若宮だった。


望月が「どうぞ」と言うと、若宮はゆっくりとドアを開けた。何故か後ろに3人の女性がいる。


「どうした?マネージャー。」

「そのぉ・・・明日から県予選が始まるじゃないですか。」

「そうだね。」

「実は・・・皆さんに少しでも力になれたらと思ってこっそり【作ってみた】んです。」

「何を?」

「おう・・・」

「ん?」


「応援団を!」


「え?」

「か・・・勝手なことしてすいません!この子達、あたしの友だちなんですけど、頼んだらやってくれるって言って・・・。」

後ろにいた3人の女性達は、よく見るとチアガールの服装をしている。


「マジで!?」

「はい・・・。そ・・・相談もしないでご・・・ごめんなさい!」



「最高じゃん!!!」

中林がすぐさまコメントした。しかしその真意は半分が心からの感謝の気持ちで、残り半分が応援団の女の子たち3人が少し可愛かったからという不純なものだった。

若宮はそのことに気付いていない。


中林を無視して淡々と大下が尋ねる。

「このチア衣装は、若宮さんが作ったの?よく出来てるね。」

「いいえ、私じゃなくてこの子が・・・。」と言って左側の女性を指差した。


「細野って言います。裁縫は得意なんです。」

「そっか。よく出来てるじゃん。なぁ、木村。」

「確かに。」


「あの・・・どうですか?彼女たち明日のためにこっそり練習してくれてたんです。応援団になってもらってもいいですか?」


「ギャラリーが増えるのはいいことだろ。な、望月。」木村の言葉に望月は肯いた。

「お前らもそうだろ?」キャプテン全員が同意する。


「よかったぁ!じゃあ紹介していきますね!左から細野さんに堀内さん、そして栗栖さんです。みんなあたしと1年の時からの友だちなんです。」

「よろしくお願いします!」

応援団となった女子生徒たちは、緊張しながらも丁寧にお辞儀をする。


「ところで、監督は知ってんの?」木村がすかさず質問した。

「先週話しました。『試合前日まで黙っといてサプライズしてやれ』って言われて・・・。」

「そっかぁ。まぁ何はともあれ、めでたいじゃん!応援団出来たなんてよ!」中林は意気揚々としている。


キャプテンら6人に歓迎され、若宮と応援団は1,2年生に会いに向かっていった。


座り込むと木村がつぶやく。

「気に・・・いらないな。」

「なんでだよ!!せっかく応援団作ってくれたのに!!!」中林が激昂すると、

「違う。マネージャーにじゃない。監督にだよ。」と言い放った。


「確かに。」望月は賛同した。


「こういう大事なことを、1週間くらい黙ってたんだろ?問題じゃん。」

「そんなに問題か?」

「だってもし・・・。」

「もし?」


「俺らの誰かが応援団に反対したら、明日の試合に影響あるんじゃねぇの?」


木村の言葉に、中林は反論出来なかった。




キャプテン群の話を知らない若宮はその頃、1,2年生に応援団を紹介していた。


「ほ・・・堀内さん!!」

綾篠が思わずつぶやく。

「知ってるの?あの真ん中の小さい子。」坂田が尋ねるが、綾篠は沈黙して返事をしない。


実は綾篠は1年生の時に、この応援団の一員である堀内に告白しようとしたことがある。

しかし、堀内にとって自分は眼中に無いらしいと風の噂を耳にして思いとどまっていた。


未だ想いを断ち切れていない彼には複雑な心境である。

「マジかよ。堀内さんが応援団の・・・。」





それぞれの思いが交錯する中、時間は無情にも淡々と流れていく。夜は過ぎて朝となり、ついに県大会1回戦が開始されようとしていた。


ゆっくりとアップする選手達を、保護者や彼女そして応援団が見つめる中、スタンドには中年男性と女性と見間違うような端正な顔立ちの青年が試合開始を待っていた。


「よく観てろよ、出羽。今日の間にしっかり分析しとけ。」


「はい。」

青年は静かに同意した。

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