第40話 男はみんな・・・
シリアスだったプレ大会編、最後は明るくいきますね。
大会の授賞式が始まる。
優勝は3戦全勝の花野江高校。周囲の予想通りの結果だった。スタンドの大半を占めた花野江応援団は、歓喜の声を上げて祝福している。
MVPは今大会7得点4アシストを決めた高橋となった。
そして準優勝は、澱前高校と同じ1勝1分け1敗ながら、勝ち点差で国巻高校が受賞する。
県内最強を相手にも怯まない果敢なプレスとカウンターは、敵味方問わず観客を魅了した。
それが例え後半のみの健闘だとしても、その攻撃の質の高さと花野江でも歯が立たなかった守備は、賞賛に値する。
国巻が準優勝校として表彰される時には、ギャラリーが自然と立ち上がり、拍手で賛辞を送っていた。
高井は横目で優勝校の高橋秀則を見てみる。
不満そうな表情を予想していたが、その逆で興奮気味に国巻のとある選手を見つめていた。視線の先は、高井ではない。
表彰式が済むと、早速高橋は国巻のGK坂田に駆け寄り、敬語も使わず質問する。
「ねぇ!君、何年生なの?」
「え?・・・2年生。」
「え!!誕生日いつ!?まだ17歳になってないよね!?」
「いや・・・先週17歳になったばかりだよ。」
「うっそーーーー!!!もったいない!!!」
「なにが?」
「秋まで16歳だったら紹介してあげようと思ったのにさ!」
「しょうかい?」
「うん!!俺が直々に監督に紹介しようと思ったのに・・・。」
「なにに?」
「日本代表!!!」
「えぇ!!!?」
「でも、アレだよ!A代表じゃなくてU-16代表だよ!」
「いや絶対・・・無理でしょ?」
「何言ってんの?俺から後半1点も取らせて無いんだよ。明らか代表レベルじゃん!」
「いや・・・有り得ないってば。」
「そんなこと無いって、案外U-17レベルまでは七光りばっかりだし、そんなにクオリティ高くないもん。」
「七光りって?」
「二世選手だよ。親がプロだった奴。本人はコネじゃないとかって言ってるけど、正直【本物】って感じる選手少ないんだよ。君が来たらいい刺激になるのになー、代表。」
「一生手が届かない世界だってば。」
「謙遜してんの?そういうの・・・嫌いだな。」
「え?」
「だって、頑張ったさっきまでの自分に失礼じゃん。」
「・・・。」
「しかも負かした相手に対して下手に出るって、失礼になると思うんだよね。俺は。」
「じゃあ・・・どうしたらいい?俺、わかんないんだよ。」
「笑ってたらいいと思うよ。」
「笑う?」
「そう。凄かったんだもん、君。頑張ったご褒美に、笑っといたら?」
「そうかな?」
「そうだよ。」
高橋が笑いかけてくれたので、坂田は少し笑顔で返すことが出来た。
「名前、教えてくれる?」
「俺の名前?さ・・・坂田。坂田裕也。」
「よっしゃ!覚えた!絶対にメモリに残しとくから!!」
そこまで言って、高橋は花野江メンバーの下へ戻っていった。
松田は坂田に走り寄って
「高橋と何の話したんだよ?」と問いただすが、
「ベラベラ喋られて、よくわからなかった。」とだけ答えた。強ち間違った解説ではない。
「収穫沢山あった大会だったなぁ。今年は面白くなるよ。」新聞記者の里崎は満足そうな表情だ。
「ですね。僕らも帰りますか。」
「声かけないの?」
「俺が今声かけたって、邪魔なだけですよ。」
滝沢のその言葉には一切の皮肉がこもっておらず、里崎も肯くしかなかった。
「とりあえずロッカールームで3戦目の日記を書け。疲れてるだろうから5分以内でいいよ。入り口の横に置いといてくれれば、南部と若宮が回収するから。今日はご苦労さん。準優勝おめでと。」
それだけ言って、美津田はそそくさと会場を後にしていく。
若宮がノートが入ったカバンを持っていこうとすると、右腕を掴まれたのでハッとする。
掴んできたのは元カレの香田だった。
「ちょっと・・・いい?」
「うん。」
通用口のそばの非常階段で、2人は数ヶ月ぶりに自分たちだけの空間を作る。
「すごいチームのマネージャーしてんじゃん。」
「今日は私もビックリしたよ。あのキーパーね、坂田くんって言うんだよ。一番下手だったのに。凄いよね。」
「本当に凄いよ。」
「でしょ?」
「違うよ。お前が。」
「え?」
「俺に『サッカーとアタシとどっちが大事?』って聞いてたあの頃からすると、凄い変わりようじゃん。」
「・・・だね。」
「大変じゃねぇの?マネージャー。」
「うん。でも・・・。」
「でも?」
若宮は目を赤らめて話を続ける。
「ごめんね!楽しいの!!もっと早くわかってあげたらよかった!!こんなにサッカーが楽しいなんて!知らなかったの!!」
「そう・・・か。」
「あんなこと聞いて・・・ご・・・ごめんね!!!」
香田は若宮を抱きしめながら優しく言った。
「お前が幸せなら、いいんだよ。」
若宮は胸の奥の温かな感情が蘇っていくことに気付きながら、ゆっくり目を閉じた。
「シンちゃん!!シンちゃんどこぉ!!!?」
二人の甘い時間は、通用口から聞こえる甲高い声に掻き乱される。
「あ!!!ちょっと・・・あのさ・・・。」
「ん?」
「シンちゃん!!シンちゃんどこいるの!?」
「ん??『シンちゃん』?」
まさか香田のことでは無いと思っていたが、思いの他自分を抱きしめていた男が動揺していたので、若宮は自問自答する。
「『シンちゃん』って・・・有り得ないでしょ!?私でも呼ばせてくれなかったのに!!」
香田は若宮と交際中、自分を「シンちゃん」と絶対に呼ばせなかった。理由は某タレントと名前が同じになるという短絡的なものである。
「シンちゃーん!!おっかしいなぁ!帰っちゃうよぉ!!」
「ごめん!!待ってて!!!!」
香田は急いで非常口を出ると、甲高い声の先に向かって走り出す。
そこには今時の、目を大きくする化粧をバッチリしたギャル風の女性がいた。
「なにやってたの!?シンちゃん!!」
「ごめん!!ちょっとさ、野暮用があって。」
「野暮ナントカってなに?意味わかんない。早く着替えてよ!!大会終わったら買い物付き合ってくれるって言ったじゃん!!!」
「うん。ちょっと待ってて。」
香田は急いで非常階段に戻ろうとしたが、顔が青ざめる。
非常口の前に、若宮が今まで見たこと無い形相で立っていたからである。
「なに?今の。」
「え?いや・・・その・・・。」
「アタシは【野暮用】?」
「そ・・・そんなこと・・・。」
「『お前が幸せならいいんだ』だって?」
「も・・・もちろ・・・」
「くたばれ!!!!!!!!」
若宮の渾身の右ストレートが、香田の頬にお見舞いされた。
香田が床に倒れこむ瞬間を目撃したのは4名だけである。
殴った若宮本人とプレ大会のスタッフ2名、そして若宮が元カレと消えたことを気にして、通用口を探し歩いていた国巻1年生の園崎だった。
「な・・・ぐった!?」
園崎にとって訳の分からない状況はどんなに推測しようと訳がわからないままだ。香田が下を向いて今カノの元へ向かう足取りは、とても重かった。
「見てたの?」
若宮に気付かれた園崎は背筋が凍りついた。
「み・・・見てません!!」
「本当に?」
「はい!!」
「絶対嘘じゃん!」
「その・・・ちょっと前から見てました!!」
思いやりの嘘は一瞬の内に暴かれ、在るがままを捧げるしかないと、この恋に溺れた男は覚悟する。
「園崎くんさぁ、1つ質問していい?」
「はうぃ!?」
覚悟しながら声は上ずっている。
「好きな子が出来たとするじゃん。」
「え?え?えぇっと・・・はい。」
「普通の子より、可愛い子の方がいい?」
「す・・・好きです!!!」
「最低!!!!!!!!」
「え!!??」
在るがままを捧げる覚悟は、裏目に出てしまう。
本人にとっては半分以上が告白のつもりだったが、そんな気持ちを今の若宮にぶつけたのは自殺行為にも等しい。
若宮は力強く足音を立てながら、選手全員分の日記が入ったカバンを手に取ると、園崎を睨んだ。
「気が利かないなぁ!!持ってくんないの!!!?」
「すいません!持ちます!!」
若宮の後ろを付いていく園崎は、下を向くことしか出来なかった。
「だから・・・太るんだよ!!!」
「なんのことです?」
「うっさい!!!!」
片思いのかばん持ちに、発言権など無いのであった。
プレ大会編、閲覧いただきましてありがとうございました。




