第3話 サプライズはプライスレス
GKの坂井裕也は、「ウド」というあだ名を影で付けられている。
容姿までではないが、某芸人に体型や雰囲気が似ているからだ。反射神経の鈍さもそれに拍車をかけている。
他にいないから正ゴールキーパーというのも自覚していた。
それでも、コンプレックスが脳裏を渦巻くことは無く、試合でベストを尽くせればという「たられば」のイメージが授業そっちのけで廻っていた。
「なにニヤニヤしてんだ?お前。」
同じクラスの松田に声をかけられ、我に返る。
「精々、足引っ張んなよ!」
彼からの嫌味は、今に始まったことではない。
放課後、女子マネージャーとなった若宮志保の紹介を受けて、彼も他のメンバー同様にニヤケが止まらない。
隣のクラスで可愛いと評判だった若宮が、急に近い存在になったのだから無理も無い。
彼ら2年生は、そこまでテンションの上がっていない3年生たちが不思議でならなかったが、彼らがその真相を知るのはまだまだ後の話であった。
さらに、美津田が「1年生の紹介するぞ」
と聞いて、2年生たちは沸いた。キャプテン(3年生)たちも、新入部員の話は先ほど聞いたばかりであった。
「鈴木泰河といいます!ポジションはCBです!大野中からきました!よろしくお願いします!!」
170センチ中盤くらいか、その体格は悪くはないが、大野中のサッカー部は弱小で有名なので学校名を聞いてメンバー達は期待外れの顔を隠せなかった。
「あと一人いるから。」
無機質なトーンで美津田がそういうと、160センチ無い小柄な少年が話し出した。
「高井俊一って言います!ポジションは右サイド全般です!市井第二中から来ました!よろしくお願いします!」
メンバーが騒然とした。市井第二中といえば、県内有数のサッカー強豪校である。
先輩達のリアクションをみて、高井は申し訳なさそうに言葉を足した。
「あの・・・、3年間補欠だったので、そんな立派なモンじゃないんで・・・、期待させたらすいません。」
「確かに、市井第二で高橋って名前は良く聞くけど、高井って名前は聞いたこと無かったな。」嫌味っ気無く放った久保の言葉は、ストレートに高井の心に突き刺さった。
「ですよね~。俺、トラップ下手なんすよね。何とかしたいんすけど・・・。足引っ張らないように頑張るんで、よろしくお願いします!」
「お前らは足引っ張らんぞ。」
「え?」
美津田の言葉に高井を含めて全員が食いついた。
「鈴木、ボールできるだけ遠くに蹴ってみろ。」
「・・・!? はい!!」
鈴木が助走を長めにして勢い良くボールを蹴り出す。
「おぉ!」
左足で放たれたロングボールは、スピードも飛距離も先輩達の予想より高いクオリティだった。数名から声が漏れたのも納得出来る。
「次、高井。」
「はい!」
「その場所から、あのボールのとこまで全力で走ってみろ。」
「よっしゃ!わかりました!」
高井は急な要望にもなんの躊躇も無く、むしろ生き生きとして軽くアキレス腱を伸ばしながら、50メートルくらい先にあるボールを見つめた。
ダッシュするために身構えた瞬間、高井の雰囲気が一変する。何故か坂井は高揚感を感じた。
「ゴォ!」
短い掛け声と同時に走り出した高井は、左右交互に素早く足を回転させ、瞬く間にボールにたどり着いた。
「・・・6秒きった!?」木村が珍しく感情を露にしてそう言った。
「かっこいい!」若宮の黄色い声に、メンバー達は少し嫉妬心すら感じている。
「さて、こいつらが足引っ張ると思う奴、手ぇあげろ。」
無表情で訊ねた美津田からの言葉に誰も挙手しなかったのは、決して急な質問だったからが理由では無い。
「高井。」
「はい!」
「二度と『足引っ張ったら』っていうなよ。誰もそう思って無ぇんだから。」
「はい!!!わかりました!!!」
「よし、練習始めるか。」
少し高井は肩を震わせていた。
「いい監督っすね!」
「どうかな?」高井の言葉にすぐ木村が食いついた。
木村の言葉に納得するまでに余り時間はかからなかった。
実際高井も鈴木も、それから数時間後のボールの無いミニゲームに面食らったからである。
「君、速いね。」ミニゲーム終了後、坂田が尊敬の念を込める勢いで高井に言った。
「いや、先輩の方が羨ましいっすよ。おれ、サッカーだと速いとか色々言われるけど、普段はただのチビだし・・・。」
その返事に「普段よりもサッカーで誉められたい!」という言葉を坂田は必死にこらえた。
「あ、1週間後に練習試合するからな。」
美津田の唐突な発言にも段々慣れてきたようで、メンバーはあまり驚かなかった。
「どこ高っすか?」
中林が聞くと、美津田はニヤケながら言った。
「高じゃねぇよ。大だよ。」
「え!?」
やっぱり慣れ切れないあまりの唐突さに、メンバー達は結局面食らうのであった。
文章グダグダ申し訳ないっす。