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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
18/207

第17話   ダウン!一発!!

メンバー達は、グランドにいる9人もの新入部員に驚きを隠せない様子である。


「マネージャーの若宮が連れてきたぞ。あとで、お礼を言っとけよ。しかも、データ収集専門のマネージャーまで連れてきたから。面白くなるぞぉ、これから先。」

そこまで言うと、美津田はランニングを言い渡した。


走り続けていると、まず木村と須賀が異変に気付いた。少し経って、綾篠や松田もそれに気付いた。

ランニングの周回数が、いつもより多い。若宮はさらに3周ほど走らされている部員達をみて、やっと異変に気付いた。


「監督?なんか走る回数多くないですか?」


「うん。多いよ。」

若宮は怒りを露にして怒鳴りつける。

「なんで新しい子来たばっかりで、こんなことするんですか!辞めさせたいんですか!?」

「半分当たりで半分外れだね。」

まだ怒りが収まらない様子だが、「半分」という言葉に若宮は首をかしげた。


「お前にはすまんが、夏まで残る新人は2人程度だと思ってる。でも、それだけいれば十分だ。2人残れば高井と鈴木を入れて1年生は4人。今の2年生と合わせて11人を超える。そうすれば来年新入部員が入らなくても、このサッカー部は存続する。」

「・・・来年の保険のために、新入部員を入れたんですか?」


「それだけじゃない。来年になれば今回の新入部員も戦力になるだろうし、次年度に向けて動くのに有利になる。なにより、今回これだけ厳しくしても残った奴らがどんな奴かわかれば、お前も来年の勧誘に活かせるだろ?」

「・・・。」

「来たからって優しくしてやる気は無い。うちの部員達はベスト8入りを目標にしたんだ。それなりの汗はかかないといけない。新しい奴は特別扱いってやってたら亀裂が生まれるし、中途半端に厳しくしたら中途半端な技量と結果しか待ってない。厳しくても耐えられる奴が、お前が呼んだってだけで2人も増えるとしたら、それはとてもすごい結果だぞ。」


そこまで話すと、やっとランニングが終了する。

この時点で、半数は諦めの色が目に映し出されていた。





パス回しの練習になって、須賀が遠くにいる青年に気付いた。

幽霊部員になっていた小鳥遊である。


「タ・・・タカナシ。」

須賀は開いた口が塞がらなかった。


前監督の大嶺が辞めてすぐに来なくなったこの小鳥遊は、優れたプレッシング能力を備えたボランチで、今の国巻には必要な戦力だったからである。

しかし、須賀が涙を流しそうなほどに高揚したのは、彼が須賀と最も仲のよかった部員だったことが大きい。


小鳥遊はカバンを片手に美津田のそばへと歩いていく。

久保ら3年生を始めとする3年生達も彼に気付き、驚きのあまり足が止まった。

小鳥遊は美津田のもとに寄ると、何をいえばいいのか分からなくなりオロオロし始める。

「・・・どうも。あの・・・。」

「お前か?噂のタカナシって言うのは。」

「・・・噂になってるんですか?」

「あの女子だけは騒いでるぞ。『コトリアソビ君って呼んじゃった!』とかってな。」そう言いながら、マネージャーの若宮に視線を送った。彼女も小鳥遊の登場に、驚きと喜びの混じった表情を見せている。

「あぁ、なるほどね。」

ここまで話すと、小鳥遊も少し笑顔を見せた。とたんに美津田は真剣な顔で話をする。



「大嶺はな、失敗した。」唐突に前監督の批判をしてきたので、いささかたじろぐ。

「大嶺はマネージメントを失敗した。戦術も選手管理も。」

「かも・・・しれませんね。」

「たぶん俺もする。」

「!!?」

ここまで結論が見えない会話が初めての小鳥遊は、美津田の言葉にしだいに引き込まれていった。

「俺も失敗することがこの先あるだろう。そんな時、お前は俺に警告をして欲しい。おそらく小鳥遊、お前はこいつら部員の中で一番戦局を読む力がある。」

あからさまに自分の戦術眼を評価されたことが初めてで、小鳥遊は金縛りにあったかのように動けなくなっていた。


「お前のアイデア力はサッカーで培ったセンスだ。今欲しい。だから、またこいつらとグランドを走り回ってくれないか?」

それまで目を合わせずに話していた美津田は、最後に少年の目を見てはっきりと復帰を望んだ。




「まず、・・・何をしたらいいですか?」胸が一杯になっていた小鳥遊が訊ねる言葉として、それは最大限の質問だった。


「お前からしたら異様に見えるだろうミニゲームを今からする。お前の考えをあいつらに伝えてくれ。」


一部からの白い目も気にせず、小鳥遊は、恒例のボールを使わないミニゲームに参加した。


小鳥遊は、守備リスクを読み取る力が高い。それは3年生でも木村は特に評価しており、彼の意見を求める機会を問答の中で作っていった。




こうして、2週間後には6人の新入部員が退部したが、3人が残った。

「5人は入って欲しかったな。」若宮は部員達の走る姿をタオルを運びながら見てそうつぶやく。

「5人入ったじゃないか。」

「え?」

「ルーキーが3人に、データ収集能力の高いマネージャーが1人、しかも2年生が1人復帰した。5人だろ?」

「まぁ、そうですけど。」

「これはお前の【成果】だぞ。俺のこと恨んだっていいけど、胸張っていい数字さ。」

そこまで言うと、美津田は部員達を集めた。


「みんな、次の練習相手が決まったぞ。」

「おぉ!!」部員達全員が雄たけびをあげた。


「個人的には【最悪】の相手だ。」


「??どこですか??」


「私立大剛高校。」


一部の選手は【最悪】の理由を察知した。





私立大剛高校サッカー部の監督は、「奇跡のイレブン」をベスト8に導いた岡山監督が現在指揮しているチームだからである。

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