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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
国体編(スピンオフ)
162/207

第159話   模索中

広島代表の中で、絶対的な決定力を持つ畑汪季(はたけひろき)のゴールは、主役(おもや)(デコイラン)によって前半早々に決められる。

意気消沈する千葉県代表陣営。

その千葉の面々の中で一番リアクションが薄かったのは、意外な人物だった。

一瞬だけマークを外され、見事得点を奪われてしまったセンターバックであり、キャプテンでもある鈴木である。

皆が下を向く中、何故か、得点を決めた畑汪季(はたけひろき)を視界の中心から外さないようにしていた。


鈴木が見つめ続ける中、見方であり、相方のセンターバックであるラファエル佐々岡は声をかける。

「鈴木、ドンマイ。大丈夫か?」

「・・・・・・。」

「す・・・ずき?」

「・・・ん?・・・あ。・・・ごめんラフィ、一瞬マーク剥がされた。」

「いや・・・良かった。」

「何が??」

「・・・点決められて凹んでるって思ったから。」

「いや、まだ試合始まったばっかしなんだから、落ちてなんか居られないっしょ・・・。」

「でもお前なんか、様子が変だぞ?そんな考え込んで、どした?」

「・・・あぁ・・・いや、【3人】なんだな〜って、思ったから。

「ん???三人?」

「畑に駆け寄るの。」

畑汪季(はたけひろき)が得点したというのに、彼の元に駆け寄るのは3人だけだった。

彼と同じくフォワードの主役(おもや)と、アシストを決めた世羅(せら)、そして【広島のモストボイ】と呼ばれる刻任(ときとう)の3人のみ。


ラファエルの気付いて話す。

「ほ・・・本当に嫌われてるんだな、畑って。点に絡んだ奴しか、寄ってこない。」


「・・・うーん。点に絡んだからなのかな?」

「へ?」

「それとも、単純になのか・・・。」

「単純にって??」

「もうちょっと色々知りたい。」

「何の話?」

「確信が持てたら、話す。あと、根本的に俺がマーク()がされたのが問題だけど、あのもう一人のフォワード、(おとり)の動き上手いから、引っかからないようにしないと。」

「囮?何のこと?」

「うーん、気づかなかったか。ラフィ、お前、見事に釣り出されたんだよ。コロコロ変わって申し訳ないけど、これからは全力で張り付かなくていいや。あの畑の相棒には、程々に張り付いてくれればいい。」

「釣り出され?」


そこまでやり取りをして、ようやく同胞たちから叱責も受けるセンターバック達。

「一瞬でも前取られんなよ鈴木。」「集中集中!」

「ラファ、綺麗に引っかかってんじゃねぇ!」


そこまでやり取りをして、ようやくラファエルは自分にも非があったことに気づいた。


「鈴木が一瞬剥がされただけじゃなくて、オレも悪かったんだ!」と。


ラファエル佐々岡の所属チームは大剛高校サッカー部。

チームスタイルは奇抜なワンバックシステムで、基本的に中盤が圧倒的なボール支配率でゲームを支配する戦法。ラファエルは相手のカウンターの目を積めばそれだけで良かった。

それでも、カウンターや個人技で失点したことは何度もあったが、自分が囮の動きに釣られて失点したのは、実は彼自身初めての経験だった。

何故なら、彼は中学卒業まで、キーパー一筋だったからである。


「どうする?そんな囮の動きにまで、俺が上手く対応出来るか?」

ラファエルの心配を他所(よそ)に、鈴木は呟いた。

「考えろ。今あの人がいたら、何を考える?・・・それを考えろ。」



千葉県代表のキックオフにより、試合再開。


ピッチの外では、若梅に弾き飛ばされて一度ピッチ外に出された高橋が立ち上がっていた。


朝比奈監督とドクターの両名と話をしている。

高橋は親指を立て、彼を見守る両名は(うなず)く。


「行けるみたいだな。」それだけ言う小野。


さて、高橋がピッチに戻るまでは未だ数的不利の千葉代表。

彼らは再びボールをキープして、様子見をする。


そう思ってた。

しかし、千葉県代表のもう一人の天才児出羽は、鋭いスルーパスを小野に送る。


直前の「このままボールを持たされてても無駄に時間が過ぎてく」を意識しての連携はしっかりとハマった。


『不味い!』

小野に対応しようとする広島ボランチの皆実(みなみ)


何とか()わして相手ペナルティエリアに侵入しようとする小野。


しかし、ボールは若梅に奪われてしまう。

『そう何回も抜かれんわい!』


若梅はボールを奪ったが、すぐにカウンターを仕掛けない。


「なんで、来ない?()えて、じっくりってこと?」

「余裕あんじゃね?」

高橋復帰に向け、アップを終えたサブメンバーの高井の言葉に、安馬(あま)は答えた。


しかし、彼らの問答に、朝比奈監督は投げ掛ける。

「逆かもよ。」

「え?」


彼らの疑問符に、朝比奈は何も答えない。

唯一解答例を見せたのは、若梅がパスを出さない状況を見つめた鈴木の思考だけ。

『探さなくちゃ・・・行けないのかも。』


若梅がパスしたのは、オーバーラップを敢行した右サイドバックの可部(かべ)


アーリークロスが来るかと構える千葉県代表守備陣。

何故か鈴木は一歩後ろに下がった。


可部は中盤まで走ると、広島のモストボイこと、刻任(ときとう)の位置を確認した。張り付く荒巻。


可部は刻任(ときとう)にパスするそぶりを見せて、マイナスのパスを送る。

貰ったのはボランチの戸坂(へさか)


『さっきのドリブルの奴!』


構える千葉代表中盤の迫元。

しかし、今回はドリブルでなく、ダイレクトパスをした戸坂(へさか)


受けたのは広島代表の攻撃的中盤の選手、大内越峠(おおちごとうげ)

この瞬間も、何故か1ステップ踏んで畑から離れた鈴木。

大内越峠(おうちごとうげ)は振り向くと、少しタメを作った後に、なんとミドルシュートを放った。


反応する千葉県キーパーの桃井(もものい)


「枠内!」

叫ぶベンチメンバー。


キャッチしようとした桃井(もものい)は、弾道をみて一瞬動揺する。

『無回転!』


大内越峠(おうちごとうげ)が放ったのは無回転シュートだった。

キャッチミスをしまいと、ボールをゴールマウスから掻き出す桃井(もものい)


審判はコーナーキックを指示する。


若梅は猛ダッシュで千葉県代表のペナルティエリアまで走った。


彼は刻任(ときとう)に話しかける。

刻任(ときとう)さん、今日はキレキレですね!」

「若梅!しょうもないこと、話しかけんな!」

「はい、スンマセン!いいボール、よろしくお願いします!」


若梅は考えていた。

『今日は刻任(ときとう)さん、詰まらんパスもせんし、よう走ってくれよる。パスも抜群じゃ。機嫌は悪いが、熱が入っとるで。スマホよ、ぶっ壊れてくれてありがとう!」


コーナーフラッグに向かった刻任(ときとう)


「ラフィ、若梅上がってきたから、張り付いてくれ。」

「おぉ・・・年代別代表でも、空中戦最強っていうヤツ相手にってこと・・・な。」

「そ、頼む。俺は畑に張り付いとくから」


ラファエル佐々岡は、不安で仕方がなかった。普段よりも静かな鈴木の雰囲気に。

たまらず聞く。

「ど・・・どうすれば、いい?」

「ん?・・・負けなきゃいいよ。」



コーナーキックの体勢(たいせい)に入る刻任(ときとう)


若梅に張り付いたラファエル佐々岡。

ポジションで優位に立とうと、お互いの身体をぶつけ合って、改めて気づく。

『なんつー頑丈さだよ。』と。


若梅の身長は、185センチ前後。ラファエルの191センチの身長に比べると低い。

しかし、筋骨隆々の鍛え抜いている身体は兵庫代表【久我エキスプレス】程では無いにしても、鋼の肉体と形容しても遜色なかった。


しかし、当の若梅もラファエルを警戒している。

『デカい。【白金茶帯】に競り勝っとるだけんことはあるのぉ。じゃが。』


刻任(ときとう)が蹴ったキックは、若梅の頭上に向かう。


「畑に入れないんだな〜。」

ベンチの高井のつぶやきに、床呂(ところ)が答える。

「一発目だから、見定めたいのかも。空中戦がどれだけ通用するか。」

「なるほど!」


『どう貼りつこうと、ワシは全身で跳ぶんじゃ、張り合ってみぃ!』

若梅の空中戦での特徴は、鍛え抜かれた身体を使いながら、ジャンプをする方法。

これで年代最強と言わしめている。


ラファエル佐々岡がどう食らいついてくるのか、それだけ考えていた。


それが甘かった。


『は??』


若梅は驚く。自身がジャンプの構えを見せた瞬間、ラファエルはもう、跳んだからだ。


『早すぎじゃろ!』


そう思ったのは一瞬。


見上げたラファエルのジャンプの飛距離が、予想を超えて高かったから。


『こいつ!バネが違う!!』


急いで下から突き上げるようにジャンプする若梅。


しかし、前節【白金茶帯】に同じことをされていたラファエルには、これは想定内の事象だった。


ガッ!


ボールをヘディングで弾くラファエル。


選手やベンチどころか、観客も湧く。


「空中戦最強の若梅に勝った!」


広島代表にも、同胞の千葉県代表にまでも驚かれたマッチアップ。

しかしラファエル当人は驚きもしない。


『負けなきゃいいよ』

同胞として敬愛している鈴木からそう言われたラファエルにとって、選択肢は勝つことのみだったからだ。


弾かれたボールは出羽が大きくクリアした。というより、小野へのロングパスを送った。


ボールを受け取る小野。


サイドバックの可部が貼り付き、サイドライン際まで追い込む。


しかし、小野は軽く可部の足に当ててサイドライン外にボールを出す。スローインをゲットした。


そのタイミングで、主審の指示がある。


外で治療を受けてた高橋が、やっとピッチに入ろうとしていたから。


「遅せぇよ。いつまで休んでんだ、お前は。」

嫌味を言う時谷(ときや)

「は?俺が少し居なかっただけで、何失点してんだよ、この雑魚どもが。少しは使える連中になれっつーの。」

倍返しの嫌味を言う高橋。



「まぁ、十分休んだこの俺が来たからには、もうお前らも安心だ。あとは任せとけや。」



彼がそう言い切り、試合再開のホイッスルが吹かれる。


それからたったの3秒後。


全員が凍りついた。


それは敵味方問わず、選手、ベンチ、監督どころか観客さえも絶句する。



高橋が突然、ピッチの中央で、頬杖(ほおづえ)を突いて寝転んだからである。


「あわてない、あわてない。」

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