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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
11/207

第10話   どーっちだ!?

前半、怒涛の攻めと、粘りのディフェンスで、2-2の同点。予想以上の出来にハーフタイム中の選手達は生き生きとしている。


「どっちがいい?」

美津田が全員に訊ねる。


「何がですか?」大下が、初めて主体的に監督に質問した。


「このまま課題に挑戦するか、勝ちにいくか。」美津田は全員の顔を見ながら、淡々と訊ねた。


「・・・。難しいですね。」須賀が即答する。


「俺は、勝ちたい!」久保が言い切った。


「俺は滝沢さんに憧れて国巻に入りました!その滝沢さんに、ここまできたら勝ちたいですよ!」久保がここまで真剣に話す姿は初めてでは無いかと、残り4人のキャプテンは感じていた。


「俺も勝ちたいです!」続いたのは、なんと1年生の鈴木だった。


「俺、勝ったこと無いんです。」

「は?」キャプテン群が不思議そうな顔をする。

「俺、中学時代に1回も勝った事がないんです。」

「公式戦で?」中林が訊ねた。

「いえ、練習試合も含めて、本当に全てで。」


「んなことあるの?」木村が少し疑いの眼差しで訊ねた。


「本当に1度もなんですよ。」


「・・・。すげぇな。」松田が少し哀れみも含めたトーンでつぶやいた。


「大野中のとき、こんな試合したことなかったんです。ここまで必死にやって、結果も同点に追いつくなんて。頑張ったことは今まで山ほどあったけど、でも、最後は必ず上手くいかなかったんです。楽しいんですよ。今。このまま、勝って最高の気分を一度味わってみたいです!」


鈴木の真剣な表情を、皆がまじまじと見つめる。


「正直よく知らなかったです。滝沢さんがどれだけ凄い人なのか。でもこの前半で、よくそれがわかりました。なのに、このゾーンプレスは彼にも通用してるんです。もっと、このチームの役に立ちたいんですよ!」


「立ってるよ。君は。」

そう言ったのは、坂田だった。

「え?」

「相手左サイドが攻めきれなかったのは。間違いなく、鈴木君のお陰だよ。」

坂田の発言に、さらに竹下が続く。

「坂田の言うとおり、お前はよくやってるよ。1年生でさぁ。」


「ほ、本当ですか?」


「確かに。」「だな。」中林の言葉に久保が珍しく賛同した。

「なんか・・・、す・・・すいません!」

「泣いてんの?」大下が気付いた。

「いや、ちょ・・・、そんなんじゃ!」

「かわいぃ~~~!」若宮の野次は邪魔ではあったが、チームを和ませた。



「勝ちましょう。監督。」竹下が凛とした表情で言う。

「うん。」多くの選手がうなずいた。


「・・・。よっしゃ、わかった。じゃあ、ポジションを大幅に変える!」


「!!!?」


「ほとんどの選手は、正規のポジションにつけ!ただ、鈴木でなく、CBのもう一人は須賀でいく!」


「おれ!?」須賀は持ち前の器用貧乏具合で、CBもこなした経験があった。しかし、この場面でとは意外だった。


「鈴木、お前はジャンプの時に体の軸が、真っ直ぐじゃない。CBとしては致命的だ。右足が軽くなってるだろ?」

「いや、・・・あまり・・・わかりません。」

「うん、正確には右足が軽くなってるんじゃなく、左足が大きくなりすぎているんだ。」


「片方が?」


「そう、お前の持ち味である左足の技術は、副作用としてボディーバランスを少しずつ崩している。修正不可能じゃないが、今日明日で解決は出来ない。だから、お前は左SBで使う。いいか?」


「出られるんですね!?」


「もちろんだ。お前はチームに必要だ。みんなもそう言ってるだろうが。」


鈴木は晴れ晴れとした表情で「ありがとうございます!」と言う。



「そーし、お前ら、勝ちにいってこいや!」美津田は堂々とイレブンを戦地に送り出していった。



「そうだ、高井。」

「はい。」

「後半10分くらいに、お前入れる予定だから。

「え!?」


「やれるだけやって来い。宿題忘れてないよな?」


「もちろんです!」高井は喜びを押さえることなど出来ないほどに、興奮していた。


美津田たちに、坂田と鈴木が近寄る。


「監督?」歩み寄る鈴木。

「ん?」


「俺もこの宿題に、参加したいんですけど。」


「ほうほう。」美津田が鈴木をみながら笑顔になる。


「坂田先輩がよければって話をしたら、OKだそうで。」

「僕も狙いたいけど、上手くいかないこともあるかもしれないし・・・。」

すこし坂田は言い訳じみながら言う。


「お前たちが考えたことなんだから、文句は言わん。」


「っしゃ!」高井はガッツポーズを隠せない。



「はいはい!そうと決まったら、とっととポジションに着け!高井が入るまでにバテるなよ!!」

「もちろん!」頼もしくすら感じられる1,2年スタメンコンビは、意気揚々とピッチに散っていった。





後半キックオフ。




滝沢は国巻が4-4-2のフォーメーションから、4-5-1のフォーメーションに変わっていることに気付くと、薄ら笑いを浮かべた。


国巻高校は、創部以来このフォーメーションが主流だったからである。


「前列も、後列も、顔ぶれ全然違うじゃん。まさか、こっちがガチとかだったら、噛ませ犬扱いだぞ。」


滝沢の予想は当たる。明らかにチームの動きがいい。


国巻の横パスが、脅威では無くとも、面白いように繋がる。


「すげぇ、やっぱアンタはすげぇ人だったよ!みっつぁん!!!」


滝沢は右MFに入った綾篠からボールを奪うと、横の味方につないで急いで前線へと上がる。味方からのパスは、滝沢と相手大下のギリギリ競り合うペナルティエリア内に通った。


一歩早く、滝沢がシュートする。


しかし、顔面に来たシュートを坂田は両手で地面に落とすと、冷静にキャッチした。



「飛び出してねぇ。」得意のボランチに入った松田が、驚きを隠せない様子だ。



坂田は、中途半端に飛び出すことが多い。その中途半端な判断が仇となり失点する形は、坂田がゴールを守る際の定番の失点シーンだった。



「へぇー。キーパーって、結構かっこいいもんなんですね。」

「ん?」若宮のつぶやきに、美津田が反応する。

「だって、あんなシュートを堂々と受け止めて。ああやってたら、ずっと守りきれそうですね。」


「いや。」

「え?」

「本当は今のシュートの前に、飛び出しといてキャッチしなきゃいけないんだよ。」

「え?じゃ、何で飛び出さなかったんですか?ハンドになるから?」

「お前は本当にサッカーを知らないんだな。」

「でしょ!」笑顔で答える若宮に、美津田は失笑を抑えて話す。


「坂田の最大の弱点はな、色々考えすぎる所だ。」

「すぎる?」

「『この場面では、こうした方がいい』って思うとする。そう考えるのは判断力。それを実際にするのが決断力。あいつは両方が低いんだ。」


「両方とも?」


「そう。だからいいパフォーマンスが出来ない。」


「じゃあ、何で今はいいんですか?良く見えてるってだけなんですか?」


「いや、実際にいい。」


「どうして?」


「俺が判断力を削いだ。」


「え?」


「俺がチョロチョロすんなってさっき言っただろ?あいつはそれを守ってる。だから、『一切飛び出さない』って判断決めたわけさ。」


「それって、賭けなんじゃ?」


「半分くらいはな。」


「でも、これだけ堂々と出来てるんだから、坂田君は、やっぱりキーパーに向いてるってことですね。」



「いやいや。」美津田がついに失笑した。


「あいつはキーパーに向いてないよ。」


「え?」


「自分できちんと素早い判断が出来るのが、キーパーとしての第一条件みたいなもんだ。それをアイツは持ってないんだぞ。向いてねぇよ。」


「じゃあ、『キーパーはお前しかいない』って、嘘だったんですか!?」若宮もついにイラついて聞き質した。


「嘘じゃねぇよ。」


「・・・。」


「アイツはキーパーに向いてないよ。・・・でもな、あれだけキーパーやりたがって、あれだけ仲間にコケにされたりバカにされたってキーパーやり続けたいなんて奴、中々いないぜ。キーパしたさに得点までしたしな。あの図太い根性は、キーパーにとって最高のスキルだ。キーパーに向いてないが、キーパーの素質がすげぇあるんだよ。」



そこまで聞くと、若宮はずっと気になっていた質問をぶつけた。

「・・・監督?」

「なんだ?」

「監督って、アタシとほとんど入部したの一緒のタイミングですよね?」

「監督としてはな。」

「10日くらいでしょ?」

「うん。」


「なんでそんなにメンバーのこと、知ってるんですか?」


「え?」

「中林さんのクセとか、大下さんのいい所とか、何でそんなに知ってるんですか?」


「・・・ま、あれだ、企業秘密みたいなもんだ。」

今までで一番美津田が焦った顔をして答えたので、若宮は何だか勝った気持ちになっていた。


「監督ってサッカーが好きなんですね。」


「今ならな。」

若宮の言葉に、美津田は少し寂しげな表情でつぶやいた。

全然試合が進まない!すいません!!

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