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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
集合編
10/207

第9話   同点だョ!全員勉強

2-2・・・同点


PKを決めた久保は、異常に息が荒かった。


「タイム!!」

美津田が2度目のタイムを使う。

「もうですか!?」

若宮の質問にも美津田は無視してメンバーを集める。



「わかったか?お前ら。」

「・・・・・・。」

美津田の問いに全員何のことかわからず、沈黙している。

「お前らはな、強いんだよ。結構強いんだ。」

「・・・・・・。」

「でも、それは個々の能力でって意味だ。しかも偏りが凄い。お前らはそれぞれに短所が多すぎる。最初に配置したポジションが、一番それを劉著に見せてた。」

「短所なんて、誰にでもあるでしょ?」

一番責められているのが2失点の原因になった自分だと感じていた松田が、初めて美津田に反論した。

「もちろんだ。埋められない短所は誰にでも存在する。だが、埋められる短所も存在する。中林!」

「はい!」

「お前はさっきクロスを上げたとき、何に気付いた?」

「・・・すっげー勢いで坂田が走ってたのが・・・。」

「そうだ。じゃあ中林、いつもはクロスをどう上げている?何を考えて蹴る?」

「どうって・・・普通に。・・・ある程度上がったら、いい感じに曲がるようにって。」

「曲がるように?」

「はい。」


「中は?」


「・・・え?」

「お前、クロスを上げるときに中央をちゃんと見てないだろ?」

中林は凍り付いていた。

「見るフリはよくしてる。見ないで上げると今まで監督に怒られてきたから。でも面倒臭いから、見るフリして、実はちゃんと確認しないで上げている。」



中林は気付かれていない自信があった。大体二人くらい中に入っているのを軽く横目で見たら、後はクロスを送るだけ。自分のクロスの精度は高いから、決められない選手責任だという意識は昔からあった。



「だからお前は大下を見習うべきなんだ。大下は絶対それが出来てるんだよ。

「・・・。」

「中林だけじゃない。このチームには、スキルにこだわって周りのことまで考えられない奴かスキルにコンプレックスを持ってて消極的になりすぎる奴が多すぎる。」

この指摘は図星であった。

「・・・でも中林は今日それが出来た。意識と自信があれば簡単に出来るんだ。」

「・・・・・・。」



美津田は鋭い目をしてさらに言う。


「可能性を自分で決めるな!自分はこれくらいなんて、勝手に決めるな!!お前らの限界なんて、考え方と周りがいくらでも越えさせてくれる!あんなに頑張ってカットしただろ!?竹下!お前は下手クソじゃない!!」

竹下は背筋と胸にそれぞれ違う温かさを感じる。


「坂田!お前は堂々としてれば、絶対に負けない!点決めてまでグローブつけたいんだろ!?ゴールキーパーはお前しかいない!!」

「はい!」坂田横顔を、須賀は今までで一番頼もしく感じた。


「大下!お前は実は視野が広い!お前だってセンターバック出来るってとこ、こいつらに見せ付けてやれ!!」

大下は黙って息を呑む。




美津田は全員の長所を力説した。須賀の頑張りや松田の技量、久保の頑張ったPK等々。選手全員の目に、何か光が感じられだした。






数分間のタイムを、滝沢は遠くから見つめ続けていた。

「戻りてぇな。」

「え?」

先ほど中林とマッチアップしたサイドバックの谷口が滝沢を見つめる。


「高校時代に・・・戻りてぇ。」

「また、青春し足りねぇの?」

「違うよ・・・。あの人が監督の時に・・・。」

それだけ言うと、滝沢は自販機コーナーに向かった。





「俺はナメてもバカにしてもいない。お前らの限界に、お前たちが向き合うために、この配置にした!」


そこまで言うと、ついに美津田は木村を見つめる。

「・・・木村。お前はどうして指図しない?」

「指図?」

「お前ほど冷静にピッチを見れる人間が、なぜプレー中にいつも黙る?」

「いや、べつに・・・。」

「言ってもわからないと?」

「んなこと!」

「だよな。チームのためにだろ?」

「え?」

「自分の意見を出すってことは、周りの意見と衝突する可能性が生まれるってことになる。ここまで退部者続出して、バラバラになって・・・。これ以上、チーム壊れたくないんだろ?」

「俺は何も・・・!」

「言わなくたって、今までお前が一番チームのこと考えてるのはわかるっての。マネージャー決めるときもチームのためにはどうすればいいかって視点でお前は考えてた。」


ついに木村も言葉を返せなかった。


「ポジションの発表の時も、お前が最初に食って掛かってきたしな。」

「・・・・・・。」

「遠慮することが、チームのためになる事は・・・ないぞ。図々しくなれ!チームのために。」

木村は黙って美津田の目を見ている。



「前半残り20分。このポジションのまま試合をする。頭に入れるべきことは3つある!一つ!苦手意識を捨てろ!二つ!そのポジションを普段やってる奴のことを考えろ!プレーも気持ちも!三つ!今までの問答を思い出せ!大丈夫!お前らのゾーンプレスは通用する!!!」






滝沢は、何か覇気をまとった国巻の後継者たちがピッチに散るのを見ながら、高揚感を抑えるのに必死だった。


「待たせたな。」

「ロスタイム10分要りますよ。」


滝沢は美津田に皮肉を込めてそういうと、センターサークルに向かう。





滝沢チームのキックオフ。


滝沢が前に行こうとすると、さっきまでとの明らかな違いに気付く。

そこかしこで大声が聞こえる。軽く正面を見ると、国巻高校全員が声を掛け合ってポジション修正をしていた。


その光景に圧倒していると、すぐに松田がボールを取りに走りこんでくる。

横の味方にパスしようとしたが、木村がゴロのパスをカットしようとし、遠くでは綾篠がロングボールを狙っていた。


「まだ10日だろ?みっつぁん!」

監督になって日が浅いはずの美津田に、こう問いたくなりながら、バックパスをした。


監督に言われたからでなく、自分たちの考えた戦術【ゾーンプレス】。それも完璧では無いが、問答の繰り返しは、試合中のコミュニケーションを容易にした。もちろんコミュニケーションによって完璧になる事はないが、精度は高まった。



滝沢達は、圧倒的にボールを保持したが、攻める余地を見つけられなかった。



前半、2-2で終了。



「監督?」若宮が訊ねる。

「なんだ?」

「久保さんがPK外してたら、本当にスタメンから外す気だったんですか?」

「誰がそんなこと言った?」

「え?」

「俺は『絶対に1点入れろ』って言ったんだ。PK決めろとは言ってない。」

「屁理屈ですよ?それ。」

ムッとしながら横目で若宮を睨む美津田。


「じゃぁ、ポジションに誰も文句言わなかったらどうするつもりだったんです?」

「言うさ、誰かが。本命は木村で大穴は須賀。」

「じゃあ元のポジションに戻してっていう意見も?」

「それも本命は木村だった。まぁ、坂田も同じくらいだったけどな。」

「じゃあ、誰も何も言わなかったら、どうする気だったんですか?」

「それは無いんだよ。このメンバーだとな。もし言わないメンバーだったら、違う方法考えるさ。」

「このメンバーだから、こんなことしたって事ですか?」

若宮の質問に、それ以上美津田は答えなかった。


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