第1話 始まりは最悪に・・・
初投稿です。矛盾点等はスルーでどうぞ。特にサッカー経験者の方。
雰囲気は最悪だった。無理も無い。
5年前、創部した年に大会ベスト8まで進んだ市立国巻高校サッカー部は、地元紙に『奇跡のイレブン』と言われ、県外からも評価されるほどだった。
それが昨年の大会は、全大会予選1回戦負け。
大嶺に呼ばれた時には少し予感していた。
「俺では駄目だった。お前に任せたい。」
少し困惑もしたが、胸の高鳴りはその幾倍もあった。
お互い『奇跡のイレブン』のメンバーでありながら、当時の存在感は全く違っていた。
大嶺はチームの点取り屋。いわゆる大黒柱であり、私はセンターバックの片方で、大した特徴も見せ場も無く、ただのイレブンメンバーであり続けた。
大嶺は最後にこう言った
「お前は口には出さないが、ビジョンがあった。それは感じていたよ。頼んだぞ、新監督!」
逃げ出すように監督を辞める男が、何故か自信有りげな顔でそう言ったのは、不思議な感じがしてならなかったのをよく覚えている。
狭くて汚いロッカールームがとても懐かしかった。
「今日から新しく監督になる美津田だ。よろしく。」
「よろしくおねがいします!」
返事はいいが、目に覇気が無い。
昨年秋大会の惨敗後、退部者が大勢出た。
新3年生は5名。新2年生は8名。1年生が入らなければ、たったの13名しかいない。
危機的状況を、この選手たちは肌で感じているのだ。
だから雰囲気が最悪なのは、無理も無い。
「自己紹介とかは後でいいから、この練習メニュー通りにとりあえずやろうか。」
選手の内面は、プレーである程度見える。
私個人がこの閉塞感から出たい気持ちもあったし。選手たちはいささか驚いていたが、すぐに練習を始めた。
最後のミニゲームを始める前に、私はこっそりボール全てを倉庫に隠す。
休憩で談笑している選手達に「みんな、集まれ!」といってポジションごとに配置させた。
全員が困惑している。サッカーは11人でやるスポーツだというのに、13人が配置されているからだ。
しかも、ボールが無い。
「監督?ミニゲームですよね?」
「他に表現の仕方が分からなかったからな。」
そう応えてさらに選手たちは困惑していた。
「とりあえず、キックオフしろ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
全員が固まっていた。
「ボールは?」
「あると思え。」
「え?」
「いいから、あると思って始めろ。」
・・・・・・・・・・・
フォワードの久保が、キックオフの真似をした。
「さあ、正面に敵がいると思って攻めてみろ。」
困惑しながらも、トップ下の須賀が、右サイドの竹下にパスをする。
「取られたな」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
私の言葉にまた選手たちが黙った。
「今の振り足じゃ、簡単にインターセプトされる。さぁ、どう取り返す?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もはやお馴染みの沈黙だ。
「須賀君、どう思う?」
「え?」
「君は、どうしたら取り返せると思う?」
「・・・俺が一番近いから、取りに行く?」
質問に疑問系で返された。
「では松田君、君はこの時どうしたらいいと思う?」
「・・・え?」
「よし、全員集まって座るか。」
とぼとぼと全員が集まってきた。
「いいか、俺は監督1年目だ。自慢とかじゃなく、開き直りでもなく、素直に言おう。お前たちを最強にする力は、俺には無い。」
「・・・!?」
「ただ、お前たちに与えたいものがある!それは、メンタリティとクオリティだ!メンタリティはある程度与えることが出来るが、クオリティは、自分で見つけ出すのが一番の近道だ。ソクラテスって知ってるか?」
「???」
「すんごい昔の哲学者だ。彼はあらゆる問題を討論して答えを探そうとした。問答法という。」
「・・・。」
「サッカーに正解は無い。ただ、解答例はある。大体の監督は、それを選手に植え付ける。だが、俺はそのやり方はしない。なんでかわかるか?」
「・・・いいえ。」
自然と答えが返ってくるようになった。
「楽しくなかったんだ。」
「・・・・・・・・・・!?」
と思ったらまた黙った。
「話に聞いてるやつもいるだろうが、俺は奇跡のイレブンのメンバーだった。そりゃ勝ったときは爽快だったよ!テンションも上がるさ。」
「でもな、楽しくは無かった。言われたことをやっただけだから。」
「・・・・・・・。」
「俺はお前らのサッカーを見たい。こんなの、俺のしたいサッカーじゃないって思うサッカーをさせたくない。だから、ボールを持つ以前に、お前らの考えるサッカーを俺や仲間に伝えろ。ボールはその後でいい。」
数人だが、やっと目の色が変わってきた。初日にしては、上々だ。
「さて、松田君?君はさっきの場面で、どうしたらいいと思う?」
「えぇっと、須賀のカバーに・・・」
それから15分間、問答は続いた。これも上出来だ。
「今日はこのくらいにしようか。あ、そうだ。キャプテンって、まだ決まってなかったんだって?」
「そうです!」久保と中林が声を揃えて言った。
「では、発表する。久保、大下、中林、竹下、木村。お前ら3年生5人、みんなキャプテン!」
「えぇぇ!!!!!」
全員が元気な声を聞かせてくれた。
私が独裁者になるか、名監督になるか、まだ分からない。どちらになるつもりもない。
ただ、ただただ、明日から彼らと歩む道が、楽しみでならなかった。
いかがでしょうか?初投稿具合が丸出しで申し訳ありませんが、この調子で執筆継続させてください。よろしくお願いします。