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信 頼

作者: 山野つつじ

 おじいちゃんと僕はポーチに腰掛けて、遅い朝食をとっていた。

 祭日なのに、お母さんとお父さんは早い時間に仕事にでかけてしまって、僕はおじいちゃんと一日を過ごす予定になっていた。

 おじいちゃんは作物を作っているせいなのか、長生きのせいなのか、動物や自然についてたくさんのことを知っている。僕の知らない知識の箱をいつも開けては閉じ、僕の興味や好奇心をいつもくすぐってくれるんだ。

 学校が休みの日には、おじいちゃんの側で畑の手入れや家の修繕を手伝って一日が終わる。子どもにとってはさほど面白くない作業も、おじいちゃんと話しをしながらの時間は、僕にとっては学校よりも楽しい時間なんだ。

 二人で庭を見ながらサンドウィッチとチップスを頬張る。

 そこへ小さな鳥が数羽やってきた。

 僕は、パンのかけらを小さくちぎって投げた。

 おじいちゃんは空を見上げてぶっきらぼうに言った。

 「嵐が来るなぁ」

 空を見上げると、雲が濃紺になってきていることに気がついた。

 ここはいつも風が吹いているような地ではあるんだけど、今日の雲の流れる速さはいつものそれとは違っているように思えた。 

 サンドウィッチが半分になった頃に、庭に更に数羽の鳥がやってきた。

 「今日は少し暖かいね、おじいちゃん」

 おじいちゃんは僕の目を見て答えた。

 「そうだな……。ここ数日はやけに暖かいなぁ」

 僕らは、半袖のシャツから伸びた腕を同時に腕組みした。

 三月の初めのこの時期は、いくら暖かいとはいえ半袖では寒さを感じるはずなのに、ここ数日は半袖のシャツで十分な暖かさになっていた。

 庭に再び目をやると、鳥の数がかなり増えていた。

 「なんであんなにたくさんの鳥が、みんな必死に何かを食べてるんだろう?」

 僕の問いに、おじいちゃんは少し面倒くさそうに答えた。

 「ああいう小さな鳥っていうのはな、食べることにたくさんの時間を費やすんだ。たくさんは食べられないけど、頻繁に食べないと生きていけないんだよ。だから天候が崩れる前になると、食いだめをするんだよ」

 おじいちゃんがそういい終わると、僕は食べ終わったお皿をキッチンに持っていった。

 僕がポーチに再び戻ると、おじいちゃんは「さぁ雨が降る前に外を少し片付けるか……」と言って腰を上げたんだ。

 その時には、びっくりする位の数の鳥たちが庭を埋め尽くしていたんだ。

 こんなにたくさんの鳥が庭にいるのを見たのは、生まれて初めてだった。

 あまりにも数が多くて、僕は気分が悪くなってきていた。

 僕の少し青ざめた顔を見て、おじいちゃんは「ガラス窓に板を打ち付けた方がいいかもしれんな……」と言った。

 僕らは会話を交わすことなく、黙々と嵐が来る準備を始めたんだ。

 二人で地下室に行き、僕がかなづちと釘を用意して、おじいちゃんは板を数枚担いで再び外にでたんだ。

 ガタッという音にびっくりしておじいちゃんを見たら、おじいちゃんは担いでいた板を床に落として怖い顔をしていた。

 おじいちゃんが見ている視線の先を僕も見つめた。

 庭にあふれんばかりに集まっていた鳥が、一匹もいない?

 いつも流れる風の音さえ感じない。

 僕が狐につままれたようにきょとんとしていると、「水をもって地下室へ走れっ!」とおじいちゃんが怒鳴った。

 おじいちゃんの怖い声と何か良からぬ事が起こっているんじゃないかという不安で泣きそうになってたんだ。それでも、キッチンで水のボトルを二つ握り締めて、地下室へ走った。

 おじいちゃんは左脇に簡易毛布を抱え、右手には発電ラジオを持っていた。

 僕に怒鳴った時から、おじいちゃんは怖い顔をしている。

 どうしたんだろう……?

 嵐が来るからなのかな?

 僕は、おじいちゃんが見せる怖い顔の理由をいろいろと考えたんだ。

 どれくらいたったのだろう、僕たちはかなり長い間沈黙していた。

 おじいちゃんは両手を握り締め、床の一点を見つめている。

 いろんな疑問や不安を持っていたが、おじいちゃんの口が開いて僕に話しかけてくれるのをひたすら待っていたんだ。

 思いがけずに沈黙を破ったのは、外から聞こえる町のサイレンの音だった。

 「トルネードが発生しました。今すぐ窓のない部屋かバスルーム、地下室やストームセラーに避難してください。これは訓練ではありません!」

 「えっ……?」と僕が小さい声を漏らすと、おじいちゃんはウィンクをしたんだ。

 おじいちゃんの怖い怒鳴り声と真剣な顔の理由が、僕にもようやく解ったんだ。



 おじいちゃんは本当に最高だ!と、心から思った。

 おじいちゃんがたとえ何も理由を話さなくても、僕はおじいちゃんの指示にいつだって黙って応えることができる。

 そうしないとおじいちゃんに怒られるからでもなく、嫌々でもない。

 これからもし何か恐ろしい事が起こったとしても、僕はおじいちゃんと一緒にいるなら何も怖くはない。

 それは、おじいちゃんは僕が知りたい答えをいつも知っているからなんだ。

 僕はにっこり笑って、皺だらけのおじいちゃんの手を握った。


 私の住むアメリカ南部の田舎町では、毎年トルネードの直撃があります。

 我が家でも、毎年自宅から家族での避難を数回するのですが、災害の中でさえも家族や人と人が支えあう姿があちらこちらであるのです。

 そして、何よりも田舎の人たちの知恵にはいつも感服させられます。

人と人との信頼がなければ、災害にしても生活にしても、家族の関係でさえうまくいきません。

 生活する上での出来事を通して、このお話しでは、男の子が「人を信頼するということ」をおじいちゃんとの関係から学んでいます。

 こういった家族の中での小さく大きな「信頼」で結ばれた関係を感じて頂ければ幸いに思います。


 つつじ

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― 新着の感想 ―
[良い点] この少年とグランパの関係は、いいですねぇ。魅力的です。この二人の中~長編を拝読したく存じます。
[良い点] 日本ではあまり見られず、被害も少ないですが、 アメリカでは死者も出るほどの被害だそうですね。 こういった特徴的な現象の登場は興味深くて好きです。 [気になる点] 私の好みの問題になってしま…
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