初野宿 盗賊もでるよ
やっと町に着けそうです。
ジーマル村からザインまでは約600キロ。道はずっと平坦で特に山道などもない。
600キロと聞くと大した距離に思えるが、俺は時速60キロぐらいなら休憩なしで1日中走っていられる。
つまりそのまま行けば10時間ほどでザインまで着いてしまうわけだ。
「でも、せっかく寝袋とかテントも買ったし、食糧も十分あるからのんびり行こうかな」
「どのくらいかけていくの?」
「3日ってところでどうだ?野宿にも少し慣れておきたいし」
「いいんじゃないかな」
しかし、アスールが喋れて本当によかった。話し相手がいなけりゃ寂しかったろうな。
ザインへ続く道は一本道で、幅は3メートルぐらい。周囲にはなにもないが、50メートルぐらい離れたところには延々と森が続いている。
「この辺はまだ盗賊とか出ないみたいだな」
「たしか、ざいんにちかづくとたくさんいるんだよね?」
「うん。俺みたいに1人でフラフラしてるのは大概狙われるらしいぞ?」
「あるじさまはともかく、ふつうのひとはどうしてるの?」
「まあ基本的に戦うのが得意じゃない人は、護衛つきのキャラバンに便乗して行くみたいだな。そのぶん金はかかるが」
その方法も一応できたが、時間とお金がもったいないので遠慮した。
「ぼくたちはおとくだね」
「そうだな」
アスールと喋りながら進む。時速20キロぐらいで。のんびりだよ?
それから10時間ほど軽く走り、だいたい3分の1ぐらいまで進んだので、野営の準備をする。
「気配探知……500メートルぐらいまでは探れるようになったな」
「なにかいた?」
「鹿と猪がいたみたいだけど、特に問題はなさそう」
「じゃあ、だいじょうぶだね」
「ああ、ここらにテント張ろう」
道から5メートル離れたところにテントを張る。
暗くなる前に枯れ木を集め、
「ファイヤ~ボ~ル(極弱)」
ポン
点火完了。
「わ~い!きゃんぷふぁいあーだよ、あるじさま!」
「うん。野宿っぽいな!」
干し肉を火で炙って、ちぎった硬いパンと一緒に食べる。
「う~ん……悪くはないけど、そろそろ米がたべたいなぁ」
「こっちのせかいに、おこめってあるの?」
「ザインは交易都市ってぐらいだから、あるんじゃないかという願望」
「あるといいね」
「そうだな」
エルガイアに来て日本人として困っていたことは2つ。米食がないのと、お風呂がないこと。
みんなお風呂には入らず、お湯を使って体を拭くか、水浴びをするぐらい。
ジーマル村の生活様式は地球でいうと中世ヨーロッパに似ていた。
地球でも中世ヨーロッパはお風呂に入る習慣が基本的なかったらしいし、たぶんこちらも同じなのかもしれない。
「暗くなったし、とりあえず寝るか」
「うん」
気配探知は続けたままで、寝ることにした。
鹿が近づいてきたのに気づいて、夜中に一度起きたが、あとはグッスリ眠れた。
「う~ん……!気持ちいい朝だ」
「きょうもいちにちがんばろう!」
「お~う!」
2日目、テントの寝袋をしまい、焚き火を消してから出発した。
1日目と変わらないペースで進む。地図を確認してみたが、やはり大きく道を外れることがなければ迷うこともなさそうだ。
風景は特に変わらないが、森の中に何度か人の気配を感じた。
3分の2ぐらいまで進んだところで今日も野宿。
気配探知でなるべく人の気配のないところにテントを張った。
「いよいよ明日には到着だな」
「うん、たのしみ!」
「昼ごろには着きたいから、明日は少し速めに行くぞ」
「わかった!」
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ~」
3日目。到着予定時間を正午に決めたので、昨日の倍の速度で走る。
途中までは順調だったが、ザインまであと20キロというところで道に初めて人影を見つけた。ただし、地面に突っ伏している。
「あれは……行き倒れかなんかか?」
「どうするの?」
「とりあえず声をかけてみよう。アスール、これからは念話で頼む」
(わかった!)
慎重に近づく。20代ぐらいの男だ。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……水と……」
「水と?」
「……金を置いていきやがれ!!」
言うのが早いか、男は急に立ち上がると、腰からナイフを抜いた。
それと同時に岩陰からぞろぞろと人が出てきて取り囲まれた。30人ぐらいいるか。みんな手になにかしらの武器を持っている。
(盗賊だ……)
(べただね)
(うん)
しばらく関心したように周りをみていると、目の前の男に声をかけられた。
「どうした!ビビッちまって声もでねえのか!?」
小者臭がするな、なんか。
「オラッ!さっさと金だせ!!金だせば命だけは助けてやるかもよ?ヒャハハハッ!」
その男の笑い声に呼応するかのように、周りの男たちも笑いだす。
(カンに触る声だな。アスール、やっちゃっていいか?)
(やっちゃえ!あるじさま!!)
(りょーかい……!)
一気に間合いを詰めて、目の前にいる男の腹にボディーブローを叩き込む。
パンッ
そのまま男は倒れこた。
唖然とする盗賊たち。
そして俺が目の前の男を殴ったのだとわかると、一斉に襲いかかってきた。
迫ってくる盗賊たちの間に飛び込み、すれ違いざまに一発かます。
2人目を倒す。
3人目、
5人目、
8人目、
12人目、
18人目、
27人目も倒す。
残り5人。
その5人は恐怖に駆られ、敗走を始める。
「逃がさない」
左手を男たちに向け、最適な魔法を選択する。
「『エアバレット』!」
ヒュヒュヒュヒュヒュッツ!!
圧縮された空気の弾が高速で男たちの後頭部に直撃した。
そのまま男たちは地に伏し、辺りは静かになった。
「誰も死んでないよな?」
(だいじょうぶみたいだよ、あるじさま)
「ふぅ……力加減するのも大変だな」
(でも、なれていかないとね)
「うん。その点この盗賊たちはいい練習相手になってくれたな」
(かんしゃだね!)
「そうだな。ありがとうございました。失礼しま~す」
盗賊たちに感謝を述べて、ザインに向かう。誰も聞いてないけど。
しばらく走ると、だんだんと大きな壁が見えてきた。
「あれは城壁か?でけぇ……」
(うわぁ……すごいね、あるじさま!)
城壁の目の前に立ち、見上げる。高さ60メートルぐらいはあるだろうか。
「ここが交易都市ザイン……うっわ、めっちゃファンタジーっぽい!!」
(てんしょんあがるね!!)
アスールと盛り上がっていたら、門番の人に睨まれた。
ヤバ、落ち着かないと。
咳払いを一つして、城門のほうへ歩いていく。
(さぁ、いよいよザインの中に……)
(ごー!だね!!)
わくわくが止まらないぜ!!
よっしゃ!ギルドだ!ギルドに行くぞ!!