イッツァマジック
早く町に行きたいです。
練習場なんていうから、どんな場所かと思ったら、最初にこっち来たときと同じようなただの草原だった。
まあ、確かにここなら危なくないか。
ギジェットさんがコホンと咳払いをして、俺に向きなおった。
「それでは、まず基本となる古代魔術から始めてみましょう」
「はい」
「古代魔術の基本は見えない手です。見えない手でなにかを動かすつもりで……そうですな、まずは足元の石を持ち上げてごらんなさい」
足元にちょうど拳ぐらいの大きさの石がある。
「見えない手で、持ち上げるイメージ……」
集中しながら石を見つめる。こんな、感じか?
ヒュンッ!
石が消えたように見えたが、実際は遥か上空にほうり投げてしまったようだ。
拍子抜けした。鉄だと思って持ち上げたら、発泡スチロールだった、みたいな。
一部始終を見ていたギジェットさんは頭をかきながら思案顔だ。
「マコト殿はかなり魔力が強いとお見受けしました。では、あの岩は持ち上げられるでしょうか?」
ギジェットさんが指し示したのは2メートルほどの岩だ。
「一流と言われる魔術師でも、持ち上げるだけでなかなか骨が折れる大きさです。いかがですかな?」
もう一度見えない手をイメージして、持ち上げてみる。
ビュゥンッ!!
今度は大きな岩が上空まで打ち上げられた。
それを見て、ギジェットさんは完全に呆けていた。
「たまげた……まさかこんな魔力を持つ人間いるとは……」
ドンッ!
さっき投げた石が足元に突き刺さった。
空を見上げると、黒い点がだんだん近づいてきているのがわかる。
このまま行くと、呆けたままのギジェットさんに当たりそうなので。首根っこ引っ掴んで避難させる。
ズドォオンッ!!
10秒後ぐらいに岩も落ちてきた。
(はじめてじゃんぷしたときのあるじさまみたい)
(そんなこともあったな……)
アスールと2人?でしみじみしてしまった。
ギジェットさんが腰をぬかしてしまったので、立ち直るまで10分ほどぼーっとしていた。
風が気持ちいい。
「申し訳ない。驚いて腰をぬかしてしまうなど……いや、お恥ずかしい」
「大丈夫ですよ。それより、これはなんですか?」
復活したギジェットさんから手渡されたのは、一見なんの変哲もないメガネ。
「それはマジックアイテムの一種で、『マナグラス』と申します。普段は見ることのできないマナを擬似的に視覚化し、視覚化したマナの色によって、使える魔術の種類を判断することができるものです。論より証拠、とりあえずかけてみなされ」
言われるまま、マナグラスをかけた。
マナグラス越しに見えるのは、色つきの靄のようなもの。
「おそらく靄のようなものが見えるはずです。靄は何色に見えますかな?」
靄の色……
「赤・青・緑・黄・白の5色の靄が見えます」
「……」
ん?反応がない。
振り向いてみると、ギジェットさんが卒倒していた。
それから復活するまで、さらに30分かかった。
(この人面倒だな……)
(そうだね、あるじさま)
「いやはや、本当に面目ない、まさか5色全部見えるとは……」
「それはどういうことなんでしょうか?」
「普通の場合であれば、1色しか見えないはずなのです。魔術師はその1色に属する魔術しか使えませぬ。赤は火、青は水、緑は風、黄は土、そして白は神官魔術。しかし、マコト殿は5色全部お見えになるということですから、理論上神官魔術を含め全属性の魔術が使用可能ということです。まったく……前代未聞ですぞ、このような事態は」
なるほど、チートか。
「じゃあ、とりあえずもう属性魔法は使えるんですか?」
「いえ、これからは呪文の暗記と詠唱の練習、そして魔導器の選定が必要です。たとえ下位の魔法『ファイヤーボール』であっても、そのまま技名を叫んだところで使えませぬ」
ふぅ~ん……まあでも、もしかしたら……
そのまま左手を20メートルほど先の岩のほうへ突き出し、息を大きく吸い込む。
「ファイヤーボールッ!!」
キュゥゥンッ…………
ドォンッツ!!
「うん。やっぱり出た」
ファイヤーボールの当たった岩は砕け散り、着弾地点を中心に3メートルほどのクレーターができた。
「でましよ。ギジェットさ……またか。はぁ……」
また卒倒しているギジェットさんに歩み寄る。
が、なにか様子がおかしい。
(あるじさま、このひとしんぞうがとまってる)
(……心臓マッサージってどうやってやるんだっけ?)
(しらない)
(まあ、どうにかなるだろ)
本当に面倒な人だ。
そのまま蘇生したギジェットさんを家に送り届け、基本的な下位魔術の載った魔術書を借りて読みふける。
属性魔法、『ファイヤーボール』『アイスホールド』『エアカッター』『ロックスティング』あたりを適当に練習で使ってみる。
普通に使える。威力も調整できそうだ。
翌日狩りに行ったときに、グレオが仕留めそこなった瀕死の鹿に神官魔法『ホーリーヒール』をかける。
白い光が鹿を包み、あっという間に傷が塞がっていく。光が収まるころには、鹿は元気よく森の奥へ駆けていった。
「獲物を逃がすんじゃねえ!」
グレオに怒られたが、まあ成功したし、よしとしよう。
嬉しさをかみ締めながらアスールと心の中で会話する。
(いやぁ、実戦で使うのが楽しみだ!)
(かげんしないと、たいへんなことになるよ?)
(わかってるって!)
(たのしそうだね)
(そりゃあな。これで俺も晴れて魔法使いの仲間入りだ)
(まじゅつしじゃないの?)
(細けぇことはいいんだよ!)
(まあ、あるじさまがたのしそうならいいけどね)
(そういうこと。じゃあグレオの家まで帰るか)
足取り軽く森を走る。
(ごー!だね!!)
スキルや路銀も手に入ったし、そろそろザインに向かいますか!
魔法使いたいなぁ……